8.俺達の関係は何故か先生達にも知られているらしい。
「藤崎君、瀬川さん、ありがとうね。手伝ってくれて……」
「いえ、別にこのくらいのことは構いませんけど……」
放課後、俺達はとある先生の授業の片づけを手伝い職員室まで来ていた。
国語の先生である峰元先生は、丸い眼鏡をかけた明らかな優男だ。授業はわかりやすく比較的面白い先生であるため、俺はこの人のことは嫌いではない。
俺と由佳は、持っていたプリントを先生の机に置く。すると先生は、穏やかな笑顔を浮かべてくれた。
「お陰で助かったよ。今日はプリントが多かったからね……」
「でも、そのお陰で楽しい授業でしたよ」
「そう言ってもらえると、ありがたいね。まあでもやっぱり、授業というのは聞くよりもグループワークの方が盛り上がるのかな?」
今日の授業は、班ごとに行うような授業であった。
普段の聞くだけの授業とは違ったため、楽しい授業であったと思う。
こういう授業ばかりだと嬉しいのだが、そうもいかないのが現実なのだろう。峰元先生の表情から、それが伝わってくる。
「ああ、こっちは夏休みの読書感想文だね……ふう、これでやっと皆出してくれたかな?」
「もう夏休みが終わってから、一週間経っているんですけどね……」
俺達が運んできたプリントの中には、夏休みの宿題も含まれていた。
一週間経って、やっと課題を提出する者もいる。その事実に俺は、苦笑いを浮かべずにはいられない。完全に期限切れなのだが、それでいいのだろうか。
「あはは、まあ、僕達先生も落第にしたい訳じゃないからね。出してくれただけよかったって所かな?」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだよ。ああでもだからって、課題を遅れたら駄目だからね? そこはちゃんと減点して、それが積み重なったら落第になるんだから」
基本的に、先生達は寛大であるのだろう。峰元先生の言葉に、俺はそんなことを思った。
そこで先生は、由佳の方に目を向ける。その目はなんというか、昔を懐かしむような目だ。
「考えてみると、瀬川さんは一年の時から随分と変わったね?」
「そ、そうですか?」
「課題を忘れなくなったし、授業もちゃんと受けてくれるようになった。それは間違いなく、いい傾向だ。誰のおかげで、そうなったのかな?」
「え? それは……」
「その藤崎君も、瀬川さんの影響で変わったね。社交的で明るくなった。これもいい傾向だといいえるだろうね?」
「まあ、否定はしませんが……」
由佳に続いて俺に視線を向けてきた峰元先生は、なんというか優しい目をしていた。
その視線に、俺は思わず目をそらしてしまう。こういう時に、どういう反応をすればいいのかは、未だにわからない。
というか、俺と由佳の関係は先生方にも周知されているということなのだろうか。職員室中から飛んでくる優しい視線に、俺は苦笑いを浮かべるのだった。
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