第125話 この面子の中に入るのも段々と慣れてきた。

 体育祭も差し迫ったとある平日、俺はファミレスに来ていた。

 俺の周りには、見慣れた面子が並んでいる。四条一派の女子全員と竜太がいるのだ。


「まあ、テストも終わって一安心ってとこだよね」

「千夜はまだ安心できないでしょ?」

「いや、それはそうなんだけど……」


 月宮の気楽な発言に、水原はしっかりと釘を刺した。

 今回のテストで、月宮は赤点を取ったらしい。つまり彼女は、追試を受けなければならないのだ。


「涼音に付きっ切りで勉強を見てもらったのに赤点なんてね……」

「い、一教科だけだし」

「一教科でも赤点は赤点でしょうが……」

「苦手な教科だったんだもん」

「苦手だからこそ、力を入れるべきなんじゃないの」


 月宮のテスト結果に対して、四条はそのような評価を下した。

 段々とわかってきたことではあるが、彼女は意外にも真面目な性格である。

 授業はそれなりに真面目に聞いているし、遅刻なんかもしない。金髪という派手な見た目をしているが、中身は優等生といっても差し支えない。

 もっとも俺達が通っている学校の偏差値はそれなりなので、真面目な性格でなければそもそも入学できないと考えるべきなのだろうか。


「……月宮は、受験なんかの時どうしていたんだ?」

「え?」

「いや、ふと疑問に思ったんだが……」


 そこで俺は、隣の席の由佳にそんな質問をしていた。

 由佳もそうだったが、そこまで成績が悪いと何故高校に入学できたのかが謎であるように思える。

 成績だけで入学が決まる訳でもないとは思うが、しかしそれでもやはり悪すぎたらまずいだろう。そこの所、月宮はどうだったのだろうか。


「千夜も私と同じかな? 必死に勉強したって感じ。まあ、皆で同じ高校に行きたかったから……」

「ふむ……下に合わせるという選択肢はなかったのか?」

「それは嫌だったから頑張ったんだ」

「なるほど……」


 由佳も月宮も、努力しようと決意すればなんとかなるタイプなのだろう。

 つまり、今の月宮には努力する理由がないということなのかもしれない。なあなあでなんとかなると思ってしまっているのが、問題なのではないだろうか。


「何か月宮がやる気を出せるような理由があればいいのだがな……」

「千夜のやる気か……うーん、なんだろう? やっぱり私と同じようにご褒美とかがあればいいのかな?」

「ご褒美……誰かに何かをしてもらうということか?」

「うん。涼音がなんでも言うことを聞いてくれるとかでやる気が出るかも」


 月宮がやる気を出せる理由は、水原にあるようだ。

 それなら、彼女に頼むのがいいだろう。もっとも、水原がそれを受け入れてくれるかどうかは別の話ではあるが。


「……ちょっと、そこのお二人さん?」

「え?」

「あっ……」


 そんなことを由佳とひそひそと話していると、月宮がこちらを指出してきた。

 これから何が始まるかは、大体予想することができる。俺達はこれから、彼女にからかわれるのだろう。


「お熱いねぇ? こんなに人数がいるっていうのに二人で相談なんて……」

「いや、それは……」

「まあ、いいけどね? だって二人はカップルだし」


 月宮は、本当に楽しそうにしていた。やはり彼女にとって、人をからかう瞬間というのはたまらないものなのだろう。


「まあ、確かにこの二人はお熱いわね? 教室でもいつもイチャイチャしてるし……」

「やっぱりそうなんだ。いいねぇ?」


 先程まで言い争っていた四条も、月宮に加勢してきた。

 こういう部分に関して、この二人はとても相性がいいのだろう。二人とも生き生きとしているし、仲の良さが理解できた。

 ただ、こちらとしてはたまったものではない。いつものからかいには慣れてきたが。二人から攻められるというのは初めての経験だ。


「もう、二人ともやめなよ。由佳と藤崎が付き合い始めて、ずっとこれなんだから……」


 そんな二人に対して、水原は呆れたような表情をしていた。

 どうやら、四人で集まった時もずっとこのようなやり取りをしているらしい。通りで由佳が、あまり動揺していない訳だ。彼女はこれに慣れているということなのだろう。


「もう、涼音はノリが悪いな……こういう時は、盛大にからかうものだよ?」

「いや、そんな訳ないし……」

「涼音、私は全然大丈夫だよ? だって、私とろーくんが仲良しなのは事実である訳だし……」

「ゆ、由佳はそうなのかもしれないけど……」


 そこで水原は、俺に視線を向けてきた。その気遣いに溢れた視線に、俺は思わず笑ってしまう。

 もしかしたら、四条一派の中でも水原は苦労人なのかもしれない。そんなことを思ってしまったのだ。


「まあ、俺も平気さ」

「そうなの? それならいいけど……」


 昔はからかわれるのは嫌だった。だが、今は俺ももうそうは思っていない。

 俺はもう、これが戯れであることを理解している。だから受け入れられるのだ。気恥ずかしいからかいでさえも。

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