第110話 ご褒美のおかげでやる気が出てきた。
金曜日ということで、由佳は先週と同じく俺の家に泊まりたいと言ってきた。
もちろん、俺に断る理由もなくお互いの両親も了承してくれたので、今週もお泊り会ということになったのである。
もっとも、今回のお泊り会も勉強会だ。偶に休憩は挟んでいたが、基本的には勉強ばかりしていた。
だが、それでもやはり楽しい時間だった。そして今は勉強も終わり、後は寝るだけである。
「今日もいっぱい勉強したね?」
「ああ、そうだな……」
俺は由佳と一緒にベッドに寝転がっていた。
先週もそうだったが、俺と由佳は泊まる時には同衾するのが基本になっている。最早どちらから言い出すこともなく、そういう形になったのだ。
「ろーくん、褒めてくれる?」
「褒める……ああ、由佳は偉いな」
「ふふ、ありがとう」
由佳の言葉に、俺は彼女の頭を撫でた。
すると、彼女は嬉しそうに笑ってくれる。それは俺にとっても嬉しいことだった。
「あ、ろーくんも撫でてあげないとね?」
「む……」
そこで由佳は、俺の頭に手を伸ばしてきた。そのまま彼女は、ゆっくりと撫でてくれる。
なんというか、とても心地いい。やはり撫でられるのはいいものだ。心が安らぐ。
「ろーくん、気持ちいい?」
「ああ、気持ちいいとも……この年になると撫でられる機会なんてない訳だが、やっぱりいいものだな?」
「うん。そうだよね。私もろーくんに久し振りに撫でられて、思っていた以上に気持ち良くて、少しびっくりしちゃった」
「そうだったのか……そういえばあの時の俺は、恐る恐るといった感じだったな」
「ああ、そうだったね」
再会してから久し振りに由佳の頭を撫でた時、俺はまだ今のように撫でられていなかった。由佳の髪に触れていいのかという迷いもあったし、躊躇いがあったのだ。
しかし、今は迷いなく彼女の髪を撫でられる。それを彼女が喜んでくれるという確信もあるし、何より彼氏になったため躊躇う必要がなくなったからだ。
「久し振りにろーくんが手を伸ばしてくれた時は、すごく嬉しかったな?」
「俺の方は、かなり焦ったけどな……」
「付き合う前までのろーくんって、そういう所があったよね?」
「それは、そうだろう。付き合っていなかった訳だし……まあ、今考えるとそれにしては線引きが少々おかしかった気はするが」
「私はろーくんならいつでも歓迎だったよ?」
「そう思ってくれていたのは嬉しいが、やっぱり色々とまずいだろう」
「そうかな?」
由佳は、俺との距離を少しだけ詰めてきた。その温かい体を、俺の体に押し付けてくる。
俺は、その体に手を回してゆっくりと抱きしめた。もう今は、そうやって俺からも触れ合うことが当たり前にできるようになっている。
それは、とても幸福なことだ。もっと由佳に触れたい。俺の中で、その想いがどんどんと強くなっていく。
「ろーくん、あったかいね?」
「……由佳も温かいぞ?」
「そうなのかな?」
由佳の顔がすぐ近くにあるという事実に、俺の胸は高鳴った。
本当に彼女は可愛い。もう何度目になるかわからないが、俺はそれを改めて認識する。
「明日と明後日は、勉強だよね……」
「ああ、それはもちろん。テストの二日前と前日だからな」
「その後はテストか……ちゃんと勉強はしたけど、やっぱりちょっと不安だなぁ」
「まあ、テストの前はそうなって当然さ。いくら勉強したからといって、自信満々という訳にはいかないだろうさ」
「そうだよね」
この休日が終わったら、いよいよテストだ。もちろん意気揚々と挑める訳ではないが、ただきっと大丈夫だろう。
俺も由佳も、思っていた以上に勉強することができた。あれだけ勉強したら、いい点が取れるだろう。少なくとも、赤点などにはならないはずだ。
「ねぇ、ろーくん。もしもテストが良い点数だったら、ご褒美をくれない?」
「ご褒美? それはもちろんいいが……何か欲しい物でもあるのか?」
「あ、ううん。そういうんじゃないんだ。ただちょっとろーくんにお願いを聞いてもらいたいなって」
「お願い……わかった。内容によるが、無理のない範囲であるなら聞こう」
由佳は、テストのご褒美として俺に何かを要求したいようである。
彼女のお願いなら、何でも叶えてあげたい所だ。しかし流石に俺にもできないことはある。だからできる限り叶えてあげるというのが、答えになってしまう。
「代わりっていう訳ではないけど、ろーくんが良い点数だったら、ろーくんのお願いを聞いてあげるね」
「お願い? そ、そうか……」
由佳の交換条件に、俺はすごくやる気が出てきていた。
彼女にお願いしたいこと、それは当然たくさんある。それを叶えてもらえるなら、それはもちろん嬉しい。
とはいえ流石に限度というものがあるだろうし、色々と自重する必要はあるだろう。一定の線引きだけは、守らなければならない。
「なんだか、テスト頑張れそう」
「ああ、それは俺も同じだよ」
「ふふ、頑張ろうね、ろーくん……それじゃあ、お休み」
「んっ……ああ、お休み」
「んっ……」
そこで俺達は、お休みのキスを交わした。
こうして俺達は、お互いの温もりを感じながら眠りにつくのだった。
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