第104話 お風呂から上がって(由佳視点)

「あ、ろーくんお帰り」

「……ああ、ただいま」


 お風呂から上がってきたろーくんは、ゆっくりと私の隣に腰掛ける。

 付き合ってからのろーくんは、そうやって私の傍に来てくれるようになった。前までは私から近づかないとくっつけなかったので、それはとても嬉しい変化だ。


「お風呂、先に入らせてもらってありがとね?」

「あ、いや、それはもちろん、由佳はお客様だからな」


 私の言葉に、ろーくんは少し慌てていた。その反応に私は困惑する。なんだか少し挙動不審だ。

 ただそこで私は思い出した。そういえば私も、ろーくんが入った後のお湯に入った時は色々と動揺したということを。

 もしかして、ろーくんも同じことを思ってくれたのだろうか。そうだとしたら嬉しい。それはろーくんが私のことを深く意識してくれているということだから。


「そんなの気にしなくてもいいんだよ?」

「俺が泊まった時、由佳はそれを気にしていたような気がするが……」

「あ、それはそうだね……でも私達はもう半分家族のようなものでしょ?」

「まあ、それはそうか……」


 私は将来、ろーくんと結婚するつもりだ。そのため、私達はもう家族のようなものなのである。

 そんな私の考えにろーくんが頷いてくれたことが、私は嬉しかった。ろーくんもそう思ってくれていることはわかっていたことではあるけれど、やはりその事実を確認できるのはいい。何度だって喜んでしまう。


「……由佳は勉強していたのか?」

「あ、うん。ろーくんも私がお風呂に入っている間勉強してたみたいだから、その分私も頑張ろうって思って」

「由佳は真面目だな?」

「ろーくんのおかげで、そうなったんだよ?」

「そうだったな……」


 私は勉強するのがあまり好きではなかった。大切なことだとは思っていたのだが、どうにもやる気が出なかったのだ。

 でも今は自分でも不思議なくらい集中できるようになっていた。それは間違いなく、ろーくんと再会できたからだ。ろーくんの存在によって、私は色々なことに以前よりもやる気を出せるようになっているのかもしれない。


「でも、少しだけ休憩したいかな……流石にちょっと疲れちゃったし、それにせっかくのお泊りが勉強だけで終わるのは嫌だし」

「……まあ、それはそうだな。それなら、そうしようか」


 私の提案に、ろーくんはゆっくりと頷いてくれた。

 ろーくんが、私と同じように思ってくれていることは嬉しい。思わず笑みが零れてしまう。


「ろーくん、膝の上いい?」

「膝の上?」

「うん、座らせてもらいたいかな……」

「別に構わないが……」

「それじゃあ、座らせてもらうね?」


 私は、向き合うようにしてろーくんの膝の上に座った。緊張しているのか、ろーくんは少し固くなっているような気がする。そうやってろーくんが私を意識してくれていることが、とても嬉しかった。

 私は、ろーくんの体に手を回す。その温もりが感じられて、すごく安心できる。同時にドキドキもしている訳ではあるけれど。


「ろーくん……」

「んっ……」


 私はゆっくりと顔を近づけて、ろーくんとキスをする。

 ろーくんとキスをすると、すごく幸せな気持ちになれる。何度キスしても、それは変わらない。いや、それ所かする度に幸せが増しているような気もする。


「ろーくん、大好き」

「ああ、俺も由佳が大好きだ」


 ろーくんの愛の言葉に、私はさらに幸せな気持ちになった。

 こうやって好意を伝えてもらえるのは本当に嬉しい。そう思っているから私は毎日好きだと伝えているけど、ろーくんは喜んでくれているだろうか。


「由佳……」

「んっ……」


 私が少し考えていると、ろーくんがキスをしてくれた。

 ろーくんが求めてくれている。その事実に私の脳は蕩けてしまう。もっとろーくんが欲しくなったし、ろーくんに求めてもらいたくなった。

 正直な所、私はもう心の準備ができている。いつでもろーくんと一線を越えてもいい。というか越えたいと思っている。

 でも今日はろーくんの両親もいるし、それに勉強会である訳だし、そういうことにはならないだろう。少し残念だけど、それは仕方ないことだ。そう納得して、私は気持ちを切り替える。


「ろーくん、こうしていたいのは山々なんだけど……」

「……ああ、勉強に戻らないといけないな」


 私の言葉に、ろーくんはゆっくりと頷いた。なんというか、ろーくんも少し名残惜しそうに見える。

 それはもちろん嬉しいが、お互いに気持ちを切り替える必要があるだろう。今日は勉強会なのだから。


「それじゃあ、次は物理とかにするか?」

「物理……それも苦手だなぁ」

「まあ、俺もそんなに得意という訳ではないな。とにかく頑張っていこう」

「うん!」


 私はろーくんの言葉に力強く頷いた。

 ろーくんと先に進むとしたら、少なくとも中間テストが終わってからになるだろう。とにかく今は、迫っている試練に備えることが先決だ。

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