第61.5話 親友からの連絡⑥(舞視点)

『それで、ろーくんがゴールデンウィークも一緒に過ごしたいって言ってくれたんだ……』

「それは……よかったわね」


 由佳の言葉に、私はそう呟くことしかできなかった。

 私の家から、二人はいい雰囲気ではあったと思う。しかしあいつも、随分と大胆な発言をしたものである。話を聞いただけの私も、少しドキドキとしているくらいだ。


「というか、本当にもうナチュラルに抱き合っているのね……」

『え? あ、うん。そうだよ?』

「まあ、それについてはもういいけど……」


 由佳とあいつにとって、抱き合うという行為は既に許されているものであるらしい。

 幼少期をともに過ごした幼馴染として抱き合う。二人の中ではそういう解釈なのだろうが、私からすれば未だに色々と信じられない。

 家族以上恋人未満、そういう感覚なのだろうか。二人の関係は改めて不思議に思える。だが、それは今でもどうでもいいことだ。


「それにしても、あいつの方から誘ったというのは大きなことよね……」

『あ、うん。やっぱりそうなのかな?』

「ええ、一歩前進したといえるでしょうね……」


 あいつが由佳を女の子としてみているのか幼馴染としてみているのかは、まだ定かではない。

 しかしどちらにしても、あいつの中に心境の変化があったことは確かだろう。今までは由佳からしか誘っていなかった訳だし。


『はあ……もっと前進したいなぁ』

「由佳?」

『あ、ごめんごめん……』


 由佳が少し弱気になったので、私は少し心配していた。

 一歩進めたのだから、今は喜ぶべき時だったはずだ。それなのに弱気になるというのは、どういうことなのだろうか。

 そう考えた時、私はある話を思い出した。あいつや竜太の友達である江藤が生徒会長と付き合ったそうなのだ。もしかしたら、由佳はそれに影響されているのかもしれない。


「……あいつと付き合いたいの?」

『え? あ、うん。それは……いつも言ってるよね?』

「知っている人が恋人を作って、少し焦っているとか?」

『うっ……うん、それはそうかも』


 私の質問に、由佳は少し驚いたような声を出した。それは、私の指摘が図星であったからだろう。

 やはり知り合いの恋が成就したことによって、由佳にも羨望のようなものが芽生えているようだ。

 それは、仕方ないことだといえるだろう。身近でそういう話があれば、自分もと思うのは不思議なことではない。


「まあ、あんまり焦ってもいいことはないと思うけど……どうしてもあいつとそういう関係になりたいというなら、告白するというのも手だと思うわよ」

『それは……』

「もちろん、その手段は二人の関係性を大きく変えるとは思うわ。成功しても失敗しても、変わるに決まっている。そのままなんてあり得ない」

『そうだよね……』

「でも、由佳があいつと付き合うためにはそうするしかないの。別に今だって勝算がないという訳でもないでしょう? それなら、告白するのも手ではあるんじゃないかしら?」


 あいつの心境に、何かしらの変化があったということは確かである。それを好機と捉えることもできるはずだ。それをきっかけとして告白をするというのも、悪いことではないだろう。

 私は、あいつが由佳の告白を受け入れる可能性はそれなりにあると思っている。はっきりとしたことが言える訳ではないが、あいつが由佳のことをなんとも思っていないというのは、あまりしっくりこない。


『……成功するかな?』

「……参考までに聞きたいんだけど、由佳的には今告白して成功する確率はどのくらいだと思っているの?」

『半々くらいかな……?』

「まだ、そんな感じなのね……それなら、やめておいた方がいいかもね」


 私的には、由佳の告白は八割くらいの確率で成功するような気がしていた。しかし、本人的にはまだまだのようだ。

 それなら、今告白するのは早計といえるかもしれない。せめて成功する可能性の方が高いと思うようにならなければ、心情的に告白するのは難しいだろう。


『……でも、いつまでもそんなんじゃ駄目だよね?』

「え?」

『だって、ろーくんってすごくかっこいいでしょ? だから、他の誰かに告白されたりするかもしれないし、ろーくんがそれを受け入れたら……』

「それは……」


 由佳の言葉を、私は否定しようと思った。

 あいつがモテるかどうかは知らないが、なんとなく由佳が想定しているようなことは起こらないような気がしたのだ。

 あいつが由佳を大切に思っていることだけは間違いない。そんなあいつが由佳を置いて誰かと関係を持つというのは、どうも想像できなかった。


「……まあ、あり得ない話ではないかもしれないわね」

『そうだよね……』


 しかし私は、話を合わせることにした。由佳に発破をかけるには、丁度いいと思ったからだ。

 そもそも私が想像できないというだけで、それは本当にあり得ない話ではない。いつまでもあいつが由佳の告白を待っているとは限らないのだ。

 だから、いつかは決断しなければならない。もっとも、あいつから告白してくる可能性もないという訳ではないとも思うが。

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