第43話 幼馴染の友達の所在ならわかるかもしれない。
「由佳、月宮から連絡はないのか?」
「あ、うん。ちょっと待ってね……うーん、私には連絡していないみたい。千夜に連絡してみようか?」
「……いや、まずは考えられる行き先を潰してからにしよう。俺達が居場所を暴いて、月宮が逃げたりしたらまずい」
「ああ、そっか……それならまずは涼音かな? 千夜が最初に頼るとしたら、涼音だと思うし」
「ああ、連絡してみてくれ」
小百合さんの問題は、先程までは俺達ではどうすることもできない問題だと思っていた。しかし、家出したのが月宮ならむしろ俺達でなんとかできるかもしれない。
家出の際、普通に考えれば友達を頼りそうなものだ。四条一派の中で月宮と最も仲が良いのは水原である。だから、水原を頼ったのではないだろうか。
「少し待っててくださいね。今、友達に聞いてみますから」
「あ、はい。すみません、ありがとうございます」
小百合さんに断ってから、由佳は指を動かし始めた。水原にメッセージを送っているのだろう。
それを小百合さんは不安そうな瞳で見つめている。これで見つかってくれればいいのだが。
「……涼音、何も知らないみたい」
「そ、そうか……」
由佳は、ゆっくりと首を振った。月宮は水原を頼っていない。それは俺達にとっては、悪い知らせである。
一番の友達に頼らず、一体月宮はどこに行ったというのだろうか。正直、とても心配である。月宮には悪い噂もあるが、本当に大丈夫なのだろうか。
「……水原が月宮を庇っているということはあり得ないのだろうか?」
「事情はしっかりと説明したから、それはないと思う。お母さんが必死に探しているって聞いて、何も言わない涼音じゃないと思う」
俺の疑念に対して、由佳ははっきりとそう言ってきた。
俺も水原とは関りがあるが、由佳の方がずっと付き合いが長い。そんな彼女がこう言っているのだから、水原が月宮を庇って黙っているということはないのだろう。
「舞にも聞いてみる」
「ああ、それがいいだろうな」
「うん」
由佳は、すぐに切り替えて四条に連絡を取り始めた。確かに、まだ可能性はある。落ち込むのは全ての可能性を試した後でいいだろう。
「あっ……」
「由佳、どうしたんだ?」
「舞、知っているって。千夜、舞の所にいるみたい……」
「そうか……」
由佳の笑顔に、俺も笑顔になった。どうやら、月宮はきちんと友達を頼っていたようである。
四条の所にいるなら、少なくとも危険ということはないだろう。問題が解決した訳ではないが、一応安心できる。
「小百合さん、千夜は四条舞っていう友達の家にいるみたいです。急にやって来て、しばらくいさせて欲しいって頼んだみたいで……」
「そうですか……とりあえず安全ということですね」
小百合さんは、先程までよりも安心しきった顔をしていた。当然のことながら、娘の所在がわかったという事実は、彼女の中でかなり大きいのだろう。
その表情からは、母親として娘をどれだけ心配していたかが伝わってくる。関係は悪いようだが、少なくとも小百合さんの方には確かな愛はあるということなのだろう。
「えっと、舞の家の場所を教えましょうか?」
「……いえ」
小百合さんは少し考えた後、由佳の提案を受け入れなかった。
四条の家の場所を教えてもらえば、月宮の所に行くことができる。しかし、彼女はそれを否定したのだ。それは、俺達にとって驚くべきことであった。
「いいんですか? 千夜の所に行かないで?」
「ええ、今私が彼女の元に行っても拒絶されるだけでしょう。彼女は、私と言い争った結果、出て行きましたから……」
「それは……」
「顔を合わせても、また言い争うことになってしまうと思います……」
悲しそうな顔をしながら、小百合さんはそう言った。
恐らく、それは正しいだろう。親と喧嘩して出て行った娘を親が迎えに行っても、そう簡単に帰るとは言ってくれないはずだ。
小百合さんが非を認めて謝れば、話は違うかもしれない。だが、今の口振りからして彼女の方にも何か譲れないものがありそうなので、それも難しいのだろう。
「四条さんという方にお伝えいただけますか? 申し訳ありませんが、娘のことをしばらくよろしくお願いしますと」
「……わかりました」
小百合さんの指示で、由佳はスマホを操作し始めた。言われた通りのことを四条に伝えているのだろう。
由佳の表情は、少し暗い。それが問題の解決にならないと理解しているからだろう。
しかし、これは仕方ないことであるように思える。今のままではお互いに冷静に話し合えないというなら、期間を開ける方がいいだろう。
「舞、家は全然大丈夫だって言ってます。というか、変な人の所に行ったりしないように無理にでも引き止めるって………」
「そうですか……四条さんという方も、お優しい方なのですね」
由佳の言葉に、小百合さんは笑みを浮かべていた。それは、少し自嘲的な笑みであるように見える。
それは、どういうことなのかはなんとなくわかった。恐らく、小百合さんは月宮の友達に偏見のようなものを持っていたのだろう。
俺も、由佳やその友人達の見た目によって偏見を持っていた人間の一人だ。その気持ちは、よく理解できる。
「……最初にあなたに声をかけられた時」
「え?」
「私は、あなたを警戒しました。その髪の色を見て、あなたが悪い人間であるとそう思いました」
俺が思った直後に、小百合さんはそのように言葉を発した。
それに対して、由佳は黙る。怒ることもなく悲しむこともなく、彼女は何も言わない。
「ですが、話してみてわかりました。あなたは、とてもいい人だと。すみませんでした。あなたのことを見た目だけで判断してしまって……」
「いえ、大丈夫です。やっぱり、インパクトがあるって思いますから」
小百合さんは、ゆっくりと謝罪の言葉を口にした。それに対して、由佳は首を振る。恐らく、こういうことには慣れているのだろう。その口調は冷静だ。
「そして、ありがとうございます。千夜の友達でいてくれて……あの子のことを、どうかこれからもよろしくお願いします。あなた方のような方々が友達であるというなら、私も少しは安心することができます」
「い、いえ、そんな……」
「私も色々と考えてみることにします。千夜のことを……」
小百合さんの表情は、そこで少しだけ変わった。何かを決意したかのように、彼女の表情は固くなったのだ。
きっと悪いことにはならない。その表情を見て、俺はそう思った。
「あの……申し訳ないのですが、お二人にもう一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。なんですか?」
「電話を貸していただけませんか? 家に電話をかけたいのです。慌てていたため、何も持たず出てきてしまって……」
「あ、はい。どうぞ」
小百合さんは少し顔を赤らめながら、由佳にスマホを借りた。
何も持たずに出てきてしまう程に、彼女は月宮のことを心配していたということである。
その愛を月宮に正しく伝えることができ、また月宮がそれを正しく受け取ることができれば、二人は仲の良い親子になれるのかもしれない。もっとも、それが難しいからこそ、二人は今のような関係なのだろうが。
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