海の宙

主道 学

第1話

 銀河の星雲が見える。

 私はいつまでも想う。

 彼のことを……。

 そう。いつまでも……。


 今日は私にとって、人生の境目だった。


 太陽系から少し離れたここ惑星の海。地球から少し離れていても、すぐに手を差し伸べられる場所。数日前に彼のために光で手紙を送った。病床の彼は更に心臓が弱くなっていた。今では地球からも病院からも外へと一歩も出られない。

 不治のウイルスに侵された病には本星が一番だ。と、医者たちがいった。

 最先端技術は、やはり本星だろう。

 満点の星空の火星のコロニーでは、小石の浜辺を彼と歩いた。

 木星に巨大な隕石が呑み込まれる様を、スペースシャトルで二人でただ見つめていた。

 太陽から少し離れてフレアを特殊サングラスを掛けて見つめ合った時。「凄いね」と囁き合い。涙が流れ落ちた。

 光のないブラックホールを前に、二人でお互いに手を密かに握った。

 

 

 そう。私は彼と一緒の時間が欲しいだけ。

 彼と一緒に宇宙という海の宙で寂しいという心を今にも満たしたい。

 彼に会いたい。

 彼のことは今でも想っている……。

 さざ波の音が寂しさを優しく撫でた。

 瞬く間にオリオン座からは流れ星が落ちていった。

 人口の砂浜では、押しては引いてと波打ち際には、美しい貝殻がちらほらと見える。

 彼にはもう日は……ない。


 病院生活は慣れたであろうか?

 特殊な抗ウイルスには慣れたであろうか?

 病苦には慣れたであろうか?


 私は寂しい。

 寂しさと悲しみでいっぱいだった。

 

 彼の死と生の狭間を。

 ううん。

 違う。

 行き来する生は、必ず蘇る。

 

 ただ、彼に会いたいだけ。


 宙から星の明かりが消え。

 全てが漆黒と化し。

 暗黒が支配する。

 彼に一度だけでも。

 一行でも。

 手紙を読んでもらいたかった。

 それで全てが終わる。


 悲しみも寂しさも。


 遥か北の宙から迎えが来た。



 彼が病床で光の中で手紙の内容を読み。

 今日は、最先端技術の治療が成功した彼が来る日だった。

 

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