第131話海神ルーカス 魚の内臓料理

 八百万 

 

 夜の部で出されるメインの商品は、魔物のモツを使った料理なのはもう皆さんもご存じだろう。 

 

 その他にも魚屋のルーカスさんに、巨大魚の内臓や頭、カマなどもいただいて格安で販売しているのが夜の部である。 

 

 魚によっては寄生虫はもちろん有毒な内臓もあったりするので、全てを食用に使える事もなく、また毒や寄生虫を除去できる加護をもっているからといって、あえて毒が蓄積されている内臓を積極的に使う事もない。 

 

 寄生虫は加護に頼るとしても、魔道具で有毒判定が出たものは避けて調理している。 

 

 それでも安全に食べられる魚の内臓類も多く、ハツに肝、胃袋に腸に浮袋、卵に精巣、ものによってはエラまで食べる事もある。 

 

 魔物の内臓ですら常連な間でやっと慣れて来たと言うのに、魚の内臓と言われてマジで食うの?と魔物の内臓以上に避けられているのが、魚の内臓である。 

 

 肉の生食はなんとなくわかる。 

 

 だが魚や卵なんてものは、アウトもアウト海辺ですら生で食うなんてご法度だったのに、寿司や刺身で生魚を提供して受け入れられたのも奇跡的だったのに、ここにきて内臓とは。 

 

 いくら斗真の加護で危険はないと言われても怖いものは怖い。 

 

 かろうじてカキを生で食うって流儀があったから、貝や魚も生でいけるんじゃね?的な考えがあった人達から刺身受け入れるのは早かったが。 

 

 今回はまったく未知も未知、はじめっから食うなんてそもそも考慮しない魚の、そう魚の内臓なのである。 

 

 海神ルーカス ウェールズの魚を扱う商会にしてウェールズの5大英雄の一人、そんな海の申し子ですら魚の内臓は初の体験だった。 

 

 はらわたを食う。 

 

 わからなくもないさ、川魚なんかは内臓がうまいともいったもんだ。 

 

 船位でかい獲物だって狩った事がある、その時にも思った事はあった。 

 

 どれだけデカくて食いでがあっても、内臓は食わない。 

 

 そりゃそうさ、陸の魔物の内臓だって当たり前の様に捨ててたんだ。 

 

 魚の魔物達の内臓が捨てられるのだって、仕方がねぇことなんだ。 

 

 でも頭のどっかでは、もったいなくねぇか?もしかしたら食えるかもしれないのに、なんて考える事も沢山あった。 

 

 でも陸の魔物以上に腹に当たる事が多い、海の魔物、最悪の場合死んじまうかもしれないと思うと、食ってみようと言い出す事はできなかった。 

 

 そいつを食えるからと喜んでもっていったのが、斗真だ。 

 

 魚の内臓の煮物、腸や肝、浮袋の串焼き、ハツや肝臓、胃袋なんかは刺身だったり、さっと湯がいてポン酢とネギで食べる事もできる。 

 

 またこれが斗真の国の酒のべらぼうに合う!きもちいい位に魚介と合うのだ! 

 

 内臓の煮物、醬油の塩味と軽い甘さで米が食いたくなるが、胃袋や心臓のコリコリ感が美味い!慣れてきた常連でも苦手な奴がいる、精巣、とろりとしてクリーミーで美味い!これの天ぷらもくったが、見た目や名前でびくつくのが馬鹿らしくなるくらい、とろりとしてサクサクで臭みなんかねぇじゃねぇか!! 

 

 腸と浮袋の串焼き、初めはあんな薄い膜みたいなもん串焼きにして食いでがあるか疑問に思ったが、これがまたむちむちとして美味い!一味や七味なんかかけてもいい。 

 

 心臓や肝は完全に役者の顔で、煮物、串焼き、刺身、どれでも美味い!また肝の濃厚な味!酢飯と一緒に出された時の感動は今でも鮮烈に記憶に残ってる。 

 

 こってりとして濃厚で、酢飯との相性がとんでもなくいい!そこに日本酒を流し込めばもう言う事はない。 

 

 胃袋のポン酢和え、これも酒のアテにいい!こりこりとした食感が楽しく、ザクザク感が癖になる。 

 

 陸の魔物の内臓でもおもったが、魚の内臓も丁寧に処理されている。 

 

 臭みなんか全然かんじねぇ!下手したら青魚の方が生臭さを感じるんじゃねぇか?ってくらいに不快感がない。 

 

 また肝なんかは刺身でも美味いのに、蒸して固めたものはまたねっとりして完全に違う味わいだ。 

 

 これも酢飯との相性がいい!美味すぎる!小難しい顔して食べていたはずの料理が、俺の中でもう当たり前の料理達に変化していく。 

 

 この味を忘れろって言われても、もう忘れることなんて出来ない! 

 

 肉や魚の身が一番うまいんだ!ここだけ食っていればいいんだ!飢える事なんてないんだ!そんなこと考えていた前の自分にはもう戻れない。 

 

 刺身も天ぷらも寿司も、どれがどうなっても内臓は美味かった! 

 

 普通の魔物の内臓にも慣れている奴らが、魚の内臓と言われてまだまだ手が出ないでいる。 

 

 俺はそんな奴を横目に、なんでぃくわねぇのかい?んじゃあお先に失礼してっと、もぐもぐもぐ食い、そこに酒をかっこむと、くはぁあああああと大きく息をついた。 

 

 そんでもってまた周りをみると、俺はにやっと挑発的に笑う。 

 

 いいんだ、全然いいんだぜ、この美味さをお前らが知らなくたって、俺は全然いいんだ。 

 

 そう言われたかの様な、ルーカスの笑みに、血の気の多い冒険者はてやんでぃ!魚の内臓がなんぼのもんじゃい!としかめっ面をして、一人また一人と料理に手を付けていく。 

 

 一人は半信半疑に、一人はびっくりしながら、もう一人は恐怖心を隠しながら、一口口にすると。 

 

 んんん、ふっふっふふ、はっはっはっは、だああああっはっはっはっはっはと笑い声が響きわたる。 

 

 魚の内臓と言われて、あれだけビビッてたのに、いざ口にしてみたらどうだ?うめぇじゃねぇか!この衝撃に食った客は思わず笑いがこみあげる。 

 

 そして酒!酒は日本酒、太田酒造の辛口、特別純米酒の半蔵が口の中を駆け巡り、鮮烈に胃の腑へと落ちていく。 

 

 その口当たりたるや、キリリとした鋭さをもって、口の中を引き締め、消え去る時はまさに忍びの様に一瞬で消えていく、服部半蔵が如し。 

 

 口の中に残る、残る、残る、そして消える時の潔さ、次の料理を口に入れる味わいの邪魔をしない、潔さ。 

 

 料理、酒!この二つで一つと言わんばかりに、物語る。 

 

 その様がまた楽しくて笑えてくる。 

 

 料理と酒、なんでもいいわけじゃない、相性、そう相性があって語り合ったり、物がったったり、繰り広げたり、情景が変わる。 

 

 これにうんうんと、静かに頷く奴もいる。 

 

 いつもはわいわいと誰かしら口を開いている、八百万夜の部、今夜は妙にシンとして景色でも楽しみながら風流を味わっているかのような、今夜はそんな夜だった

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