第122話八百万の朝食

 八百万 

 

 前日酔いつぶれて八百万の座敷に簡易的に泊まったお客さんや、色々あってたまには宿でゆっくりする事をお勧めしたお客さんに朝ご飯の準備をする。 

 

 といっても別段何かが優れている訳でもなく。 

 

 ただ朝食は一日の一番初めのエネルギー補給なので、量は多めに用意している。 

 

 朝は多く、昼はほどほどに、晩は少なくが健康には一番いいと聞いたので実践してる。 

 

 酔いつぶれ組はほどほどに酒臭く、それなのに二日酔いとはなんのその妙にすっきりした感じで朝を迎える。 

 

 この世界の朝食と言えば、パンにスープ、昨日の番の残りでも出てくれば上出来な方で、八百万で泊まった客は米のがっつりした朝食に大層喜ぶのだが、意外とパンとサラダなどの洋食の朝食も人気でどちらも好まれている。 

 

 斗真の気分や、子供達のリクエストで朝食のメニューは変わっていく。 

 

 つやつやほくほくの白米はもちろん、出汁の効いた海藻とねぎの味噌汁。 

 

 煮物に漬物、焼きのり、大ぶりな魚の焼き物の時もあれば、肉が朝から振舞われるときもある。 

 

 酔いつぶれ組とは別に、孤児やまだ職が決まっていない他所から流れてきて金がない奴なんかもいたりして、斗真の旦那はそいつら全員に朝飯を振舞う。 

 

 孤児の子供達は、もう斗真の旦那が父親っていってもいいんじゃないか?ってくらい旦那は子供達の世話をする。 

 

 子供達も喜んで斗真の旦那の仕事を手伝うし、勉強や職業訓練などが終わり空いた時間を見ては八百万の手伝いや、斗真の旦那の役に立たないか目図らしいものを見つけてはもってくるのが通常になってて微笑ましい。 

 

 酔いつぶれるまでがぶがぶ酒を飲んだのに、次の日には体は酒臭いのに意識は妙にしゃきっとして、体の中の調子も妙にいい。 

 

 朝から飯をがっつり食う準備も完全に満タンで、腹が栄養を求めてる。 

  

 飯が自分の所に完全に揃っても、誰もまだ飯には手を付けない、全員分の支度が終わって、全員仕事が終わって座ってから、全員で食べ始めるのだ。 

 

 朝からむっちむちの白米を口いっぱいに咀嚼して、飲み込むとゆっくりと胃に落ちていく。 

 

 味噌汁の塩味がすっきりとして、ネギと海藻の味もいい!んでもって漬物!八百万の飯にしたら質素な方なのかもしれない、それでも満足感ど贅沢な味が全身を包む。 

 

 孤児たちの笑い後をを聞きながら飯を食うのも悪くない。 

 

 思えば、子供達が良く笑う様になり、街を元気に駆け回る様になった。 

 

 昔と違って、腹をすかして路地でうずくまってる子供なんてもう見る事はない。 

 

 痩せ細って骨の浮いた子なんかもいなくて、みんなどの子もそれなりに体格も良く、年寄りだけの家に手伝いにいってる子もいるというし、いろんな店で経験を積んでいる子もいる。 

 

 思えば恐ろしい程幸せな街だ。 

 

 なんて考えながら米を食い、煮物をつまむ、この煮物がまた美味い!八百万と言えば昼は定食、夜は酒と内臓!なのだが、この煮物が昼でも夜でも大人気。 

 

 昼の定食の小鉢にはもちろん、夜の何気ない摘みにもないと文句が出るほど人気がある。 

 

 野菜なんてサラダ以外に生で食う以外、こんなに好まれる食い方なんてあるか?昔は食うもんがなくて仕方なく食ってるか、健康を気にして食ってるか。とにかく好んで食うってよりも腹いっぱいにしたくて食うって感じの義務感ある食い方だった気がする。 

 

 もちろん店によってはスープだったり、色々調理されて美味い野菜の料理だって沢山あったさ、でもなんか自分から進んで野菜を食うってこの店ができてからな気がする。 

  

 八百万の味は、ウェールズの街の人間にとって慣れ親しんだ味ではない、それなのに醬油や出汁、みりんなんかの味がする煮物が懐かしく感じると共に、体の欠けた一部のようにぴったりと適合するのだ。 

 

 人参、甘味がありながらも独特の味、芋、ジャガイモの時もあればサトイモの粘りあるねっとり感を楽しめる。 

 

 ごぼう、妙に土臭く、木の根かと思ったが、しゃきしゃきとして悪くない、こんにゃく、芋からこのプルプルがどうつくられているかなんて想像できない。 

 

 だが間違いなくこんにゃくは美味い!煮物以外にもスープ類なんかにもはいってて、こいつがまたいい仕事をするのだから、偉大だ。 

 

 肉の変わりに入ってる油揚げ、これがこってりとして美味いのだ。 

 

 そして漬物、きゅうりやキャベツのザクザク感がたまらず、こればかり食べそうになる。 

 

 今日の漬物はしその酸味のある味わいと香りが鼻を抜けて、心地が良い、サラダと違ってオイルは使われてないが文句なく大好きだ。 

 

 そんでもって魚、港町の未利用魚、この世界では小さい魚はあまり好まれたり、食べられたりしない。 

 

 名前もつけられたりしないような魚、斗真の旦那の世界では名前がついてるのかもしれないが、こっちでは食べられないんだ。 

 

 食べても港町で漁師達が自分達で消費するぐらいで、そんな魚達なのだが、脂が乗っていてこってりとして、塩で食っても美味い、でもここは八百万、醬油と大根おろしでいただくともう朝から酒がほしくなるほど美味い! 

 

 でもここで米!うん!うんまい!パリパリの皮も美味く、身もしっろりとろとろ!米と反発する訳がなく、口の中が幸せな味わいになる。 

 

 もう一発!卵!八百万特製出汁まき卵!しっかりと巻かれたぷりんぷりんの卵ちゃん!白身と混ぜたのに黄色い色が濃い!出汁の効いてる日、甘めの日、何かしらの具が巻かれている日と日によって変わる。 

 

 今日はじゅわじゅわの出汁が贅沢に効いてる日!こいつを贅沢にパクリ!ふわっふわのぷりりんちょでもう美味い、グレートですよこいつは!!! 

 

 輝き鳥や鳳凰、ヒクイドリ、ドードーなどグレードはあっても、やはり卵は高い!もちろん朝食うなんて常識なんてない!貴族が食うか、裕福な家の人が病人の為とか、あとは自分達で取りに行くとかだな。 

 

 それが全員に当たり前の様に朝食で出される。 

 

 一切れだけじゃないんだぞ!四切れから5切れもあるんだぞ!魚はまぁまぁ港町に近いからそれなりに手に入るが、卵やミルク、チーズなどはこの世界では贅沢品だ。 

 

 魔物を狩って肉を得る世界では、酪農を営んでいる農家はそうそうない、田舎の方ではやってる所も結構あるみたいだが、王都近くの都市なんかでは珍しい。 

 

 最近ではエルフの人らとか魔物の一族が、酪農をこの街で始めたって話は聞いたが、本当につい最近の話だ。 

 

 どうやって作ってるのか?味のついている海藻の板、味付け海苔、これで米をまいてもいい。 

 

 八百万で朝飯を食っている、当たり前の様にワイワイと子供達から大人まで朝からにぎやかに朝食をしている。 

 

 ここは昼から始まる定食屋なのに、俺達だけの特別感、これ目当てで宿に泊まる人間もいれば、わざと潰れるまで飲む人間もいる。 

 

 そんでもって、朝飯の代金を置いてこうとすると、朝は店じゃないから料金は受け取れねぇとか屁理屈をいって、今日も一日しっかり無事に帰ってこいって言われて店を出る。 

 

 それが妙にあったかい。 

 

 ダンジョンで珍しいもんみつけて、斗真の旦那に店でつかってもらうか!  

 

 そういって八百万は、大勢のお客からダンジョンの獲物をお土産にもらうのである。

 

 

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