第120話八百万 焼酎と煮物

 八百万 

 

 八百万は定食屋というのは最初の頃の話で、今では宿であり、娯楽視察であり、賭博もできれば、公園もあり、ちょっとした集会やレクリエーションが出来る場所なんかもある。 

 

 もはやウェールズの名物複合施設といってもいい、夏の祭りでは八百万監修の屋台がずらっと並び、斗真が購入してきてくれた花火や火気厳禁で空に打ち上げる、打ち上げ花火なんかも盛大に空に打ち上げる。 

 

 八百万が出来てから街の様子の変わりようといったら尋常じゃなかった。 

 

 一部の冒険者しかやってなかった師弟制度の様なものを投入、上級冒険者による下位の冒険者を徹底的に鍛え上げ、ギルドからのダンジョンの情報の全体への共有、魔物の狩り方のレクチャーなど今までにはなかった試みにみんなが驚いた。 

 

 複数ある孤児院への支援の強化、子供達への未来の職業に向けての教育、怪我や病気で脱落していった人たちの補助、生活の援助の一時的な物ではなく制度化、老朽化、廃墟化した家、建物の修繕、道の拡大、上下水道、街灯の設置、盤上に分かれた街をアルファベット別に町内会を設置、職人街の様に一つに固まっていた同じ職業の人達、飲食店などを均等に配分、これによりA地区に5軒も6軒も同じ店が固まっていたのが、AからGまでに分散され、どこの通りにも一通りの店が存在する事に。 

 

 商売で破産した人の現実的な返済計画から、新しい商売が軌道に乗るまでの商業ギルドによる監修、同業者による違法な妨害の排除、人間に協力的また共存できる魔物の受け入れ、その魔物達による特殊能力により手に入りずらかった鉱石や宝石や爪や角の生え替わりなどを理由に安全に高位魔物などの素材の獲得。 

 

 魔物の内臓や近郊の漁港による未利用魚の再利用なども街の利点にあげたいが、今の所八百万の様に再利用する店は少ない。 

 

 それでも街に珍しい屋台も増えた。 

 

 やきそばにお好み焼き、タコ焼きに大判焼き、小麦を利用した粉ものが安価で流行しているのと、孤児院や商売を失敗して再スタートを頑張ろうという人たちを優先に八百万のレシピは広がり、これらすべての案が斗真の旦那から領主のアーサー様やギムレットの旦那が考えて行ってきたことだ。 

 

 冒険者達による助け合いによって、ダンジョンからの収入は驚くほどあがった。 

 

 低級冒険者による、中層での安全な狩り、その一回の狩りで4~5日生きていける資金が稼げれば上々だった低級冒険者は、一回の狩りで一か月うまくいけば2か月程狩りにでずに生活できる程の収入を安全に手にいれれる様になり。 

 

 更には自分達も冒険者として身体や魔術的に鍛えられていく、実力の上昇に喜び高揚感をもちながらそして進化していく自分がまさに目に見えてわかる様な成長に喜び、狩り精を出す様になった。 

 

 これによりギルドは毎日が大忙し、街で消費しきれない素材は近隣の街、王都へと流れていくのに留まらず、港町を経由して他国とも大型取引をするレベルに。 

 

 ウェールズの住人が裕福になったいくのにそんなに時間はかからず、一人一人が余裕のある毎日を送る様になった。 

 

 遠い他国でも黄金の都市、桃源郷、幸せな街、貴族が住む世界などと言われる程、他の街に比べ裕福となった。 

 

 近隣の街や王都もその恩恵を受け、裕福になっているので下手に俺達より裕福な生活など許せない!などと言えない状況であり、公爵が治め、王はもちろん他一部の大貴族もウェールズの街を認めている為、こっぱ貴族では街で狼藉の一つ妨害の一つも出来ない、まさに恐るべき大都市なのだ。 

 

 最近ではエルフにドワーフ、龍族に妖精とまさに他国から八百万に食事にくるくらい大騒ぎ、目的は料理はもちろんなのだが、一番の目的は。 

 

 酒である。 

 

 八百万のビール、エール、日本酒は美味い!それが最近では海外からの客が来るほど、有名になってしまった。 

 

 でも俺からすると、日本酒を飲んで喜んでいる人間はまぁ~だまぁだである。 

 

 斗真の旦那の世界の酒はそれは美味い!ビールは斗真の旦那の世界では地域に分かれて、まぁつまりは街に一つは自分の所独自の地ビールってのが存在する程多い!ワインやウィスキー、ブランデーなんかは他国から学んだ酒の作り方らしいが、それらの酒も自国で作った酒があるという。 

 

 酒の作り方を共有する世界なんて存在するのか?とびっくりする。 

 

 こっちの世界でエルフの秘酒やドワーフの火酒、龍族の宝酒など作り方教えてくれるか?答えは否だ!。 

 

 八百万ではどんな酒でも味わえる、最近では日本酒よりも俺は焼酎が好きだ!焼酎って言っても種類がまた沢山ある。 

 

 米、芋、栗、そば、粕取り、ジャガイモに黒糖、トウモロコシ、中でも一段美味くて強いのに泡盛って酒があるが、こいつも分類上は焼酎に数えられるとか? 

 

 また本格焼酎なんて物まで存在するらしい。 

 

 芋焼酎の魔王、日本酒でも思ったが、ごくごくと飲めてしまう。 

 

 25度とそれなりに強いはずなのに、水の様に飲める。 

 

 芋臭さなんかは全然なく、日本酒でも思ったがこれが飲みすぎてしまうのだ。 

 

 斗真の旦那の世界では水やお湯で割ったりして飲むらしいが、これぐらいの酒ならここらの人間ならそのままの方ががつんと感じて好まれるんじゃないか?と思う、俺は薄めずにそのままごくごくと飲む。 

 

 頻繁に出て来るのは、黒霧島、これが一番なんの料理にもあって美味いかもしれない、魔王よりも芋の風味を感じ、どしんとした土台の基礎の様なものを感じる。 

 

 日本酒では花や果物などの味わいを感じ、舌の上で広がりそして後味も嫌味なく去っていく物が多く、まさに口の中を洗い流す如く一口ずつリセットされるような味わいなのに、焼酎は原料の芋の風味を感じる物から、芋本当に作ってるのか?って聞きたくなる程、癖もなにもなくさっきも言った通り、どっしりとした力石の様な?力強い味を感じる。 

 

 ドワーフの火酒に似ているが、あいつらはアルコールさえ強ければ風味や味なんかおかまいなしと考えている奴も多い、だからこそ龍族の酒の火酒に似たアルコール度数で更に味まで美味いと、それこそ一晩で何樽も飲み干してしまう。 

 

 さて、そんな焼酎を飲みながら食うのが、なんてことはない八百万の煮物である。 

 

 甘しょっぱめの良く炊かれた煮物、具もそんなに特別な物はなく。 

 

 人参、ジャガイモ、こんにゃく、ごぼう、サトイモ、タケノコ、高野豆腐などがはいっている。 

 

 これが美味い!しょっぱ甘いのに甘さにくどさがない、米も一緒に食えそうな煮物、関東とも関西とも違く、寒い東北ならではの味なのだとか。 

 

 黒すぎない茶色の出汁の色が綺麗で、この煮物の高野豆腐がまたご馳走みたいに美味い!じゅわっと味を放ってほろほろと口で崩れる。 

 

 確かに高級な店で出される料理ってのと比べると、斗真の旦那がいってた家庭の味って奴に近いのかもしれない。 

 

 だが、これがいいのだ。 

 

 なんて事はない、等身大の普通の料理、特別な部位とか素材とか味付けとかそんなんじゃなくて、本当になんて事はないそれでいて毎日食える煮物。 

 

 そこに塩のおにぎり、そう塩むすびを食って、そこに黒霧島もぐっとやるのがいい!顔がにんまりだらしなくなるくらいこの普通なのがいい! 

 

 多分そんな「普通」であり自分の中で「普通なんだけど特別」っていう矛盾したもんが、きっと常連客の奴らには何かしらあるんだと思う。

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