第103話静寂牛と爆裂ニンニクの芽を炒めもの
八百万
最近の八百万は寒さに配慮して、店が広くなり、それに外に並ぶのではなく宿側の連絡通路に並ぶようになったので回転率もあがりまた暖かくて助かる。
こんな宿があると、飯前にひとっ風呂浴びて飯を食うのもいいし、冬場でどうも引きこもりがちな体を広場のスポーツで汗をかき、流してから飯でもいい、その逆でも全然問題ないのだから本当にすげぇ宿だ。
そのまま部屋やバーで飲んだくれながら、賭け事で遊ぶのもいいし、遊技場で仲間でカードなんかやるのでも十分楽しめる。
何より賭けですっからかんになって苦しい生活になるも、その金は国に税として納められ、こういった所で得た税が多ければ、その分貧乏な地方は減税されたりと中々考えられているのもいい、賭け事なんて頭からつま先まで真っ黒な連中に吸い取られるより、全然気持ちがいいもんだ。
勝った時のバックもデカく5~6年は遊んで暮らせる奴なんかも出てきたり、それを機に他に商売もしてみようなんて冒険者掛け持ちで商人をやるやつ、商売の手を広げる奴、副業を始める奴と色々といる。
もともとそんな副業をやる奴なんて、儲けている大商会か貴族様だけだったのに、今じゃ俺達冒険者や一般人が複数仕事もって順調に金を貯めているんだから、不思議なもんだ。
それにこの宿、最初こそ商業ギルドのプロ達で回していたらしいが、今じゃ生活に困ってる人間を率先的に雇ってる。
それだけならまぁわかるが、ちゃんと働く奴らのやる気や体の調子なんかみてやったり、金遣い荒い奴の為の積み立てや、急に休みたくなった時にも給料がでる有給、しかも夏と冬にはボーナスとかいってその月の給料と半年分の給料がまるっと出るとか・・・・・・自由参加、家族も連れてきていい宴会や他国への旅行なんかもあるらしく、しかも接客なんかで日々頑張っている人間や素晴らしい接客をする人間には毎月給料がプラスされると言う、頑張れば頑張るほど金が溜まる様になっている。
責任者も従者部隊の第三位クラウスさんとしっかりと公平に評価してくれる人だ。
遊びたい宿であり、泊まりたい宿であり、働きたい宿であり、飲みに行きたい宿でありと、この国でぶっちぎりナンバーワンの宿だ。
そんなこんなんで八百万、飯はやっぱり八百万が美味い。
元孤児、現 宿の八百万、見習い執事 アッシュ
俺はウェールズの孤児だった男だ。
はっきりいってこの国の孤児はかなり運がいい、何故かって?どこの孤児院も「まとも」に運営されているからだ。
ウェールズで働いていると、よその国からくる貧民や孤児なんか沢山いるが、どいつもこいつもまともに飯すら食わせてもらえない状況で育ったとか逃げて来たとかそんな奴ばかりだ。
それに比べたらこの国は子供を特に大事にしてくれる、その中でもウェールズは特に特別だった。
というか、斗真の兄ちゃんが特に特別だったって言った方がいいかもしれない。
八百万で孤児やどうしても金がない奴、今にも腹が減って死にそうなやつなんかはタダで飯を食わせてもらえる。
皿洗いや掃除なんか手伝うだけで、腹いっぱい食わせてくれる。
そんなの聞いたら町中から貧乏人が押し寄せるだろう。
それでも斗真の兄ちゃんはみんなに料理を配り続けた、一日や一週間、一か月だけの話じゃない、今でも貧乏な奴はちょっとした手伝いで食わせてもらってる奴もいる。
冒険者や近所の八百屋、公爵様や王家からの食糧支援、内臓や漁師町の金にならない魚なんかも扱っているから、材料なら余ってるからって俺らにもいっぱい食わせてくれるんだ。
俺が特に好きなのは、今日の定食!静寂牛と爆裂ニンニクの芽を炒めたおかず、これを食った時美味くて美味すぎてびっくりしたね。
俺達孤児でもがんばって働けば稼げそうな値段での定食だ。
でも他の事に使え、なんなら貯金しとけって斗真兄ちゃんは言うんだ。
米に味噌汁に漬物におかず、これだけでもう豪華だ。
孤児と言わずに、これだけあれば普通の人は満足する。
でも八百万はそこにまた2~3個小鉢のおかずがついてくる。
出汁まき卵に煮物、ヒジキに佃煮、多い時はクリームコロッケニ個とかカキフライ二個とかちょっとしたおかずまでついてくる。
普通じゃ到底味わえない牛肉の味、脂身の甘さに米がくいたくなる味のつけ具合、米っ!米っ!米っ!味噌汁を飲んで、漬物!煮物!ヒジキ!また米!大忙しで色んな味を堪能する。
爆裂ニンニクの芽!こいつがシャキシャキしてまたニンニクの香りが良く美味い!タレと米とニンニクの強すぎない風味とエキス!
ふわっふわの卵も口いっぱいに贅沢な味わいに、ほほがゆるむ!俺孤児なのに・・・・・こんなのいけない事なんじゃないのか?金も払ってないのにこんな贅沢、でも斗真兄ちゃんは俺らを拒まない、毎日来たって笑顔で迎えて、忙しいはずなのに、いっぱい食えよ!焦らずゆっくりよく噛んで食えよ!っていってくれる。
初めの頃は孤児仲間と来て、泣きながら食った。
こんな美味いものがあるなんて知らないと夢中に食った。次の日も次の日も次の日も、毎回変わるおかずに心が躍った。
生きていていいって言ってもらえた気がして嬉しくて嬉しくてしかたがなかった。
寝る前にみんなで話すんだ。
リリねえちゃんやねねちゃんみたいに、斗真兄ちゃんの所で一緒に働きたい、ねねちゃん達みたいに一緒に暮らせたらなぁって。
そういったら、じゃあ宿で働いてみるか?って、俺はでも商業ギルドのプロの人たちみたいにしっかりできるか不安だった。
クラウスさんはきっちりしていて、プロ中のプロだけど、決して理不尽に怒る事もなく、また怒鳴り声も上げる事もなかった。
なんどもなんども丁寧に教えてくれて、嫌な思いや考えで働くって事じゃなく、どう楽しく働くか考えようといってくれた。
だから俺たちはちょっとの理不尽な客にも酔っ払いにも笑顔で対応できる様になった。
職員の食堂が出来る話が出たけど、多くの人間が反対した。
大変なのはわかるし、迷惑かけるのもわかるけど、みんな斗真兄ちゃんのご飯が食べたかったんだ。
ごめんよって謝ったら、嬉しそうに喜んでもらえるなら全然いいって笑っていいながらくしゃくしゃに撫でてくれた。
しっかり食って!しっかり働いて!自分も儲けて!斗真兄ちゃんにも儲けてもらって!世界一いい宿にするんだ!
今日もしっかり八百万の定食を味わうアッシュだった。
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