第93話ハイリューン・ヒルデガルドの夜の部の楽しみ方。

 八百万 夜の部 

 

 夜の部が昼の部ほど、お客さんが入っていない事は皆さま、ご存じですよね?もちろん夜の部に来たいお客様は実は結構な数存在するのですが、高位冒険者のたまり場などになっていて、身内での集まっている感が強く、それに遠慮するお客様も少なくはありません。 

 

 宿の部屋やバーなどでもお酒と料理が味わえるので、かろうじてクレームがきていないだけで、店がもう少し広かったらなぁ、なんて思うお客様は少なくありません。 

 

 じゃあ店自体が狭いのか?といったら、実はそうでもなく、八百万の店内は広々として、ぎちぎちにすれば100人は入るかもしれません。 

 

 春や夏の暑い日には、外に椅子を出し、外卓を作って席を増やしたり、巨人族の皆さまの為に壁の無い、屋根と柱だけの場所を作り、大きな体のオグレスなどはそこで食事をしたりしています。 

 

 流石に夜の部では並んでまでの来店を断っていて、それは夜はやはりゆっくりと食事を楽しむべきだと考えてお客様にお願いして、満席の状態の時は帰ってもらう様にしました。 

 

 もちろん常連さんだけじゃなく、一回でいいから八百万の夜の部に来たい!と何回も来店して、席を確保する方も、一度来店するともう内臓の魅力や生肉や魚、そして現代のお酒の数の多さに酔いしれ、それ故に何度も何度も、満席かどうか伺いに通う様になる。 

 

 実は夜の部は競争率が高いのです。 

 

 そんな八百万の内臓料理、レバーやハツ、などの部位的単品が売れず、モツ煮やもつ焼きなどがメインで売れていくのは、常連たちでも味がわからないとやはり内臓は怖い、特に心臓、肝臓、腸など部位を説明されればされる程、注文する手が止まってしまうのが問題であった。 

 

 もつ焼きやモツ煮で雑多にまとめられて、中にはハツやレバーなどが入っているにも関わらず、やはり単品で注文するのは怖いものだったりする。 

 

 だが!ここに一人の高貴な女が!内臓恐るるにたらず!と立ち上がった女!後にレバーやハツはもちろん、丸腸のてっちゃんやコブクロにタン、ありとあらゆる内臓を美味いと!こう食うのだ!と示した人物がいた、否人物達がいた。 

 

 その一人が、ハイエルフの高貴な第一王女、そしてラーメンやジャンクな料理ある所に私あり!と言わしめた神の種族と周りから言われる、高貴なるハイエルフの中でも王族の血を引くもの!ミスラーメンクィーン、もう隠れる気が全然ないこの人!ハイリューン・ヒルデガルドだった。 

 

 ハイリューン・ヒルデガルド 

 

 やっと夜の部の八百万に入る事ができましたわ! 

 

 いつもはバーで酒と肴をつまみに、優雅に一人酒を楽しんでいたが八百万の内臓がいまいち売れない事を聞き、直接店までやってきたのだ。 

 

 八百万の内臓料理その一! 

 

 様々な魔物の丸腸!てっちゃん!これを食わずに八百万の事は語れない! 

 

 一口サイズで味噌味がつけられたものも美味しいが、私のスペシャルは丸腸をロングカットして筒状のままカリカリになるまでオーブンで焼いてもらうのだ。 

 

 こうする事によって、外はカリカリ、中の脂肪はとろんとろんで噛むと脂がどっと溢れ出る爆弾てっちゃんの完成である。 

 

 味噌ダレ、醬油ダレ、甘辛いヤンニョムタレなんかでこれを頂く。 

 

 ざくざくざくざく!じゅわわわわ!つけたタレとこれが魔物の腸なのかと思わせる、上品な脂の波がタレと合わさり、口いっぱい、むしろ溢れ出るほど広がる。 

 

 下手に冷えた物や焼きが足りないと、脂が中途半端に塊失敗して、それを食べると気持ち悪いと思う人もいると思う。 

 

 完璧に調理された皮目のザクザクとした食感と脂は絶妙で、タレと合う事で嫌味なく喉に消える。 

 

 しかも出される魔物の腸によって旨味は違い、龍種の物なんかはもう天にも昇る極上な味がする。 

 

 「これこれ!これですわ!ザクザクともちっりじゅんわり!ここ!ここにお酒を流し込むのが最高なんですわ!!んっくんっくんんくっぅぅぅぅ!はぁ~・・・・・快感!!!」 

 

 また付け合わせの里いもや長芋のキムチや万能ねぎのキムチ!これが口の中をさっぱりさせ、またこの野菜独特の味、とろみが楽しく、これでお米食べたいと思わせる! 

 

 そして次はレバー!最近斗真様から教えられた、生レバー!様々な種類の魔物の生レバー盛り合わせ!!!脂っぽく濃厚な物もあれば、爽やかな香りと果物の香りがする物まである。 

 

 これって生なのよね!?と思わずステーキなんかを連想する物まで、そしてなんとも言えないのが、そう!食感!レバー独特のサクサク!ザクザクザク!といった、この歯ごたえが溜まらなく癖になる!硬いものだとゴリゴリ観といってもいい歯ごたえが目立つ、この食感が何より楽しく快感なのだ!!!。 

 

 血の匂いや、焼いた時の嫌な感じは一切せず滑らかに舌の上から消える。 

 

 そして酒!!! 

 

 どこか野性的な、蛮族にでもなったかの様な豪快感!高揚感に生への実感、私は生きる!生きるために食す!人間だからこそ美味な食事を求める!人間だからこそ命に感謝する!食われる動物を可哀そうだと思うのは私が人間だからだ!他の動物にはない知性!それがある故に食べられる動物を可哀そうだと思う。 

 

 だが!それと同時に生きる糧になったものへの感謝!これも人間だからこそ感謝し敬うのだ! 

 

 「おい、みろあれ!なんか美味そうだよな・・・・・・」 

 

 「おぅ、俺達はいつも同じのばっかで、他に頼んだことなんてねぇ、それをあんなにも美味そうに酒と内臓食うなんて、お、俺も頼んでみようかな」 

 

 「俺もだ!見てたら食いたくなってきた!大将レバ刺し盛り合わせ頼む!」 

 

 「こっちはてっちゃんの筒焼きくれ!!」 

 

 「こっちもだ!人数分頼む!」 

 

 ヒルデガルドに触発され、レバーや他のメニューも出会始める。 

 

 そんな自分の後を追う客を笑いながら、ヒルデガルドは別の内臓料理を注文する。 

 

 「マスター、センマイ刺し、ハツ刺し、アンキモに白子頂戴!」 

 

 「はいよ、酒はなんにします?」 

 

 「お勧めの日本酒で!」 

 

 「じゃあ今日は清酒のかぐや姫、純米酒だ」 

 

 センマイ、こりこりごりごりといった食感を楽しむ食べ物だ。 

 

 ハツもこりこりとしている、一見心臓と聞き驚くが、これも血の香はしないが、風味やかすかにレバーで味わった血の香がする、だが嫌な感じはせず、個性といった感じだ。 

 

 アンキモ、深海に住む魚の内臓を処理してボイルしたものだ。 

 

 動物のレバーとは全然違う、どちらかといえば焼いた動物のレバーに似たねっとり感なのだが、動物や魔物のレバーを焼いた時に血の風味や嫌なねとねと感がない。 

 

 動物や魔物のレバーは焼くと、ねっとりして舌に張り付き、血なのかなんなのか?独特すぎる匂いの嫌悪感を感じるのだが、このアンキモはねっとりしているのに、その不快感がまるでない、それどころか濃厚で重みのある重低音の様な浸透するとろける旨味!魚と動物でこんなに違いがでるなんて!? 

 

 そしてそれをかぐや姫、純米酒で流し込むと、川の流水の様にサラサラと流れるのを感じる。 

 

 この日本酒と言うものが、一向にわからない!米で作られていると言うのに、色々な種類の味そして果物の味がするのだ。 

 

 時には桃、梨、リンゴ、珍しいものならバナナの様な妖艶な味わいのものまである。 

 

 米をガツン!と感じる物もあれば、フルーツの香と味わいのものが生臭い魚や濃い味の食べ物を綺麗に流し、時には花畑にでも囲まれたかの様な陶酔させてくれる程の酒。 

 

 魚や内臓系の料理の為にでも存在しているかのような酒、それが日本酒なのだ。 

 

 魚と酒は合わせるのが難しい、ワインなどは基本魚とは合わないものだ。 

 

 ぶどうと言う果物を使っている以上、ぶどうの成分的に魚介系のものとは基本的に合わないのだ。 

 

 生臭い成分を増長させてしまうのが今あるワインの大半の物だ。 

 

 日本酒と言う存在を八百万で知らされて、これほど魚の生臭さを消す、もしくは味を豊かにさせる酒があるとは思いもしなかった。 

 

 白子を食べ、口の中でクリーミーに広がる魚の風味、味、そこに日本酒をあわせると、サ~っと草原の様な青々しい爽やかさを感じる。 

 

 「八百万の内臓!どれも素晴らしいじゃない!これからが楽しみだわ!私もこれから通わせてもらう事にするわ!世界でここだけよ!こんなに豊かな内臓を扱う店は!」 

 

 「ちぃくしょう!なんか負けた気分だ!」 

 

 「昨日今日きた小娘に、もってかれた感じだなぁ」 

 

 「嫌、でも確かにあいつの頼んだメニューどれも美味いぞ!おれたちゃ通ってて知らなかったんだから情けねぇな」 

 

 「ちくしょう、俺も味の開拓してやる!まけてらんねぇ!」 

 

 「常連の俺らが知らないってのは確かに、なんか情けねぇ」 

 

 「旦那!明日からは色んなメニュー挑戦するよ!」 

 

 夜の部でも新たな風が吹き始めたのだった。

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