第87話邪神とうどん

 私の目の前でとぼけた顔をしている男、私を作り出した創生神似た輝きを放つ男、でもこいつは創生神ではない。 

 

 男が近づいてくる。 

 

 「どこの子か言える?お父さんとかお母さんはいる?」 

 

 ボロボロの服、泥だらけの体、神に性別はない、あったとしても自分で選べるから中性的な見た目、痩せ細った手足を見て、斗真はどこかねねやリリにあった時の事を思い出していた。 

 

 「どれ、まずは風呂か?その後にその長い髪整えるか?それともまだお腹すいてるか?デザート食うかい?」 

 

 ゆっくりと近づき私の側に座る男に、私は牙をむいた、今できる精一杯の牙を。 

 

 「ぐううううううう!ぐう!ぐうううううう!」 

 

 唸り声をあげると、男の後ろから二匹の小さな生き物が飛び出てきて私を威嚇する。 

 

 「きゅ!きゅ~~!ぎゅ!」 

 

 「しゃああああああ!」 

 

 ぐっこいつらは!神の眷属!神龍アルビオンと神猫キャスパリーグ!!こいつ!やはり神の眷属だったか!!うるさいぞ!私が貴様らなんかの圧に押されるものか!! 

 

 「こら、アリスにキャス子、駄目だろ?怖がらせちゃ」 

 

 「きゅきゅ!ぎゅ~~~↓」 

 

 「ふにゃぁぁあ↓」 

 

 叱られて罰の悪そうな顔をする二匹。 

 

 「うむ、こうしていても仕方がない、ほらおいで」 

 

 男は手を伸ばして私に触れようとする。 

 

 やめろ!くるな!くるな!私は男の腕に噛みついた。 

 

 ぎりぎりと歯を立て、皮膚を割き血が流れる、食いちぎるつもりで噛みつくが骨の硬い感触に顎の力がこれ以上奥に進まない。 

 

 「いだだだだだ」 

 

 男は私に噛まれたまま、私を抱き寄せると、そのまま私を優しく撫でる。 

 

 「ほら、怖くないだろ?大丈夫、ここにはお前を傷つける奴はいないよ」 

 

 男があまりに私を優しく撫でるので、思わず噛んだ腕を離すと、息の荒い私が落ち着くように背中を撫でる。 

 

 大丈夫、大丈夫といい、優しく撫でるのだ。 

 

 初めての他人の温もり、暖かさ、私が大いなる父からもらいたかったもの・・・・・。 

 

 「よし!とりあえず風呂だな!泥だらけだし、お前さんも僕もちょっと匂うな」 

 

 そういうと、男に抱きかかえられ、風呂なるものに入れられる、暖かいお湯をかけられて訳が分からずパニックになる。 

 

 「ふぎゃああああああ!」 

 

 「暴れるな、ほらあったかいだろ?」 

 

 私は相当汚れていたのか、お湯はあっと言う間に黒く染まり、男は私を根気よく洗った。 

 

 風呂なるものから、綺麗になってあがると、今度はぼさぼさの髪を整える為に切られた、もう私は抵抗しなかった。 

 

 さっぱりとした清々しい気分になる、服も男の大きなシャツを着て風通しもいい。 

 

 この男の側は気持ちがいい、心地が良い、どこか安心する。 

 

 あれだけ食ったのにまた腹が鳴る、飢餓感が襲ってくる。 

 

 「腹減ったのか?この世界の人はよく食うし、子供だったらなおさらだろうな。怪我した時も治す為によく食うっていうもんな。うどんでも作るか」 

 

 そういうと男は私を膝の上からおろして、奥の部屋にいこうとする。 

 

 私は混乱しながらも、男の立ち上がった足にしがみついた。 

 

 「おっとっと、飯作ってくるだけだぞ?すぐそこだぞ?」 

 

 引きはがそうとする手に抵抗して、強くしがみつく。 

 

 「やれやれ、なつかれたもんだ。どれじゃあ一緒にいくか」 

 

 男は観念すると、私をくっつけたまま移動する。 

 

 「うどん、昆布と魚介出汁のつゆも美味いんだけど、鳥出汁のつゆも美味いんだよなぁ、上には天かすにネギ、鴨肉、鶏肉の団子にかまぼこ、卵の天ぷらなんかもいいなぁ。アナゴの天ぷらもあるから、豪華に乗せるか?」 

 

 いい香りがする!とてもとてもいい香り!うまいものの香だ! 

 

 目の前にどんっと広がるのは香りのよい、スープの何か。 

 

 「一人で食えるか?無理そうだな、どれ」 

 

 男は私の目の前で二本の棒をつかって、中から長くて白い紐を私に近づけると。 

 

 「ほら、あ~ん」 

 

 ???言われるがままに口をあけると、その紐を口の中に入れられる。 

 

 ちゅるちゅると口に入れると、美味い!肉!肉の味がするスープと白い長いもちもちとした紐がぷるんぷるんでくにくにと口の中で跳ねまわる。 

 

 「あっは、きゃっはぁ!ままままま!うまままま!」 

 

 「おぉ~そうか、美味いか、よかったなぁ、はいもう一口、あ~ん」 

 

 「あ~ん、もにゅもにゅもにゅ、ごくん、ままままま!あ~ん!あ~ん!」 

 

 「はいはい、まってね。今度はお肉食べてみようねぇ、あ~ん」

  

 むちっとした肉!そして分厚くとろりとした脂身が美味く、私は興奮してしまう。 

 

 「歯もしっかりしてるみたいだし、大丈夫そうだね。アナゴの天ぷらは食べれるかな?あ~ん」 

 

 大きくて、さっき私が食べた茶色くちょっと硬い奴に見た目が似ている。 

 

 あれぐらいの硬さを想像して噛みつくと、うん?さっきよりふわふわさくさくしている!中もふっくらしっとりでスープを吸ってとろとろになってる!美味!なんという美味な食べ物なのか!もっちもっちと小さな口を賢明に動かして味わう。 

 

 「まぁ~!うまま!!きゃっはぁ!あは!うまままま!」 

 

 声をあげてだんだんと手で喜びを表現する。 

 

 「おうおう、よかったね、これも美味しいねぇ、一旦お水のもうね、飲める?」 

 

 丁度良く乾いた喉を水で潤す、これも美味い! 

 

 興奮気味、息をきらしながらはぁはぁと食べていると、背中をとんとんと撫でてくれる。 

 

 「ゆっくりでいいからね」 

 

 天カスとネギがうどんに絡まり、味にアクセントがついて変化する。 

 

 卵!ぷるんとした弾力があり、中からは黄身がまたとろ~りと出てきて舌が喜ぶ!かまぼこ、魚の味がする!ぷりぷりとしてむっちりして口の中で独特の風味を放つ、鶏肉の団子、肉がきめ細かく、口の中でとろける様にほどけていく、美味すぎて笑いだしてしまう。 

 

 そしてスープをごくん!やはり鳥の旨味がぎゅっと詰まっていて、このスープが非常に美味い!こんなに美味いのに濃い!とかしょっぱい!とかの嫌悪感が一切なく、こくこくと軽く飲めてしまう。 

 

 そのスープがもちもちの太い麺と絡まり、麺から出る美味さとあい説明の難しい味を醸し出す、かと思えば天かすで味わいが深く変わり、ネギでまた味が変わる。 

 

 そうしてこれだけ強い旨味の鳥を味わっているのに、肉に噛みつくとまた新鮮でスープとは違う力強い肉の旨味と脂の味に酔いしれる。 

 

 肉団子もそうだ、同じ肉なのにちょっとした違いで、これだけの旨味や舌触りなどの感覚が変わってくるのか!?驚きと興奮を隠せない。 

 

 さっきの料理も美味かった。 

 

 さっきの料理もこの男が作ったのだろう、それにしてもさっきよりもこっちの方が美味い!断然私の好みだ。 

 

 満腹になり、満足感と言うものに浸っていると、神獣共が私を恨めしそうな目で見ていた。 

 

 食事の間この男を独占して、満腹な今、この男の膝の上を独占しているのが気にいらないのだろう、ふふふっいい気味だ。 

 

 「お兄ちゃん?その子何処の子?」 

 

 「うう~ん、何処の子なんだろうか?孤児院とギムレットさんに連絡してみたんだけど、迷子や子供がいなくなったって騒いでる人なんかはいないって言うんだ」 

 

 その瞬間、耳鳴りと共に視界が歪んだ。 

 

 俺が倒れたのかと一瞬驚いたが、そうではないらしく、声が聞こえる。 

 

 -八意斗真さんー 

 

 -お久しぶりですね。この世界の管理人をしている女神です。その子はこの世界の理の一人である神の子、長い間一人で耐え続けた為に歪み、人々には邪神と呼ばれる神となってしまった子の慣れの果です。どうやらあなたを気に入ったみたいなので、その子を貴方に託します。一方的ですみませんが、よろしくおねがいします。それとたまにでいいので、美味しそうな食事を女神像に備えてくれると、私がとても喜びます。ああ、それと二匹の神獣達もよろしくお願いしますね?他にも増えるかもしれませんが、きっと大丈夫でしょう。それではー 

 

 キーンと音が沈んでいき、我にかえる。 

 

 え?邪神!?そんでもって神獣!?いっぺんに急に言われても困るんですけど!どどどどどうすれば!?そんなに度胸もあるほうじゃないので、動揺する。 

 

 「お兄ちゃん?大丈夫?」 

 

 「ああ、大丈夫、なんかこの子、神様の子らしい。よろしくって、他二匹も」 

 

 「えぇ!?神殿でもないのに神託を受けたの!?それに神の子!アリス達って神獣なの!?」 

 

 「そうらしいよ。僕もいっぺんに急に言われてなにがなんだか?」 

 

 「神様の子でも神獣でも、ここにいる以上私がお姉ちゃんだからね!」 

 

 「きゅきゅ!」 

 

 「なぁ~ん」 

 

 「あぅ」 

 

 なんかよくわからんが、ねね達の間で既に序列が出来ているようだ。 

 

 しかし、元邪神ってねねやリリが聞いたらきっと嫌な事思い出すだろうし、言えないよなぁ。 

 

 他の人たちにも到底話せないなぁ、俺の中だけに留めておけって事だろうけど、大丈夫だろうか?

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