第42話ハイリューン・ヒルデガルド 再び チキン南蛮
-ハイリューン・ヒルデガルド 再びー
すっかり常連となったわたくし、どうにか!どうにかして店主である稀人様、そう八意斗真様とお知り合いになりたい。
どうすれば、こんな数々の料理が出て来るのか知りたい。
そして出来る事なら我が里に斗真様を招待したい!
この感動を私だけで消化するのは、もったいないと同時に同族に教えてあげない事は罪ではないかしら?
いつの日か勇気が出たら、臓物が出ると言う夜の部にもチャレンジしたいと思っているわ。
そして毎日変わるメニュー。
今回も私最前線ですわ、だって聞いたんですもの、今日のメニューは三回目のラーメン!!
一度目は濃厚で白いスープが美しく、鳥の旨味が爆発した塩ラーメン、二回目は家系?と言う豚を前面に押し出したラーメン、未だにあの暴力的な味が忘れられない、出来る事ならもう一度家系ラーメンを食べたいと強く思ってしまう。
強烈でクリーミーに舌の上を蹂躙していくスープに、ニンニクとご飯のコンボ!海苔の磯の香!
海苔でご飯を包み、ニンニクを乗せて食べた時の衝撃!勝手に顔が笑みになってしまう!
くぅぅ!悔しい事に忘れられません!
もしリクエスト出来るならぜひ!家系ラーメンを!あれは悪魔のラーメンですわ!私以外にも多くの人間を惑わし、一時期はギルド内で家系の話で持ち切りになりました。
いっそみんなで嘆願書をだして、もう一度作って貰をうと署名を集めている人達もいるとか、わかりますわ。
わたしくは天丼と家系ラーメンの嘆願書に署名しましたもの!それにお蕎麦!あの香のいいお蕎麦、つゆの美味しさと絡んで風味よく鼻を抜ける香に、ツンとした辛みのある刺激、ネギの香、そして刻み海苔がまたいい仕事をするんですの!とても素晴らしかったですわ、ぜひまた食べたい!。
でも今日はラーメン、三回目のラーメン、毎回出て来るラーメンが変わっていると言う事は、今回もきっと違うラーメンが出て来るはずですわ。
一体どれだけの種類があるのかしら?出来る事ならまた強い豚の風味を味わいたいですわ。
息を整え後方を見ると、いつも以上に列が長い事に気が付く、やはりラーメンとなると、みんな諦めずに並ぶ人が多いですわ。
開店して、水を先に確保してから席につくと、すぐ料理が運ばれてくる。
丼を覗いて見ると、これは・・・・非常にどろっとしている。
いつもの様なすーっと通るスープではなく、本当にとろとろとしてる。
これがラーメン?これもラーメン?恐る恐るスープを口にすると、口の中にぶわっと広がる豚の濃厚な風味!それでいて驚くほどまろやかに口全体に広がっていくスープ、醬油の旨味もギンギンと感じながらも、しょっぱ過ぎる事もなく、こくこくと飲めてしまう塩分の濃さ。
そこに細麺がとろりと絡んで、麺の小麦の心地よさも感じつつ、スープと混ざり合う!
これはまた家系とも鳥の塩ラーメンとも全然違う流儀のラーメン!豚をガツンと感じつつもまろやかで落ち着いた棘のない塩分が丁度良く、飲みやすい。
スープをレンゲで飲むまでのなく、麺と絡み一緒に存分に味わう事が出来る。
チャーシューのしっとりして程よい脂が甘く、美味い。
あまりの美味さに、あっという間に麺はなくなり、スープだけが残る。
「替え玉もあるけど、ご飯を混ぜても美味しいよ!ご飯とニンニク!」
ご飯とニンニク!?
家系でもやったニンニク・・・・どろっとしたスープにご飯を投入して、ニンニクと紅ショウガを乗せてバクり。
きたああああああああ!!!
豚の味わいに強烈なニンニクの旨味!それでいてさっぱりと食べれてしまう紅ショウガ!
豚の濃いスープは麺とも相性良く、また米とも喧嘩せずに混ざり合う。
豚と米のワルツ!ネギとこりこりのキクラゲのアクセントがまたいい!
ああっ豚の!豚の海に溺れてしまうかのような、濃厚な味!それでいて強引ではなくゴージャスな豚さんのエスコート!紳士的にリードされているのに、なんて強烈な美味さ!
脂の甘味も感じつつ、それでいて程よい塩味でありながら、色々な素材の溶け込んだまろみの豊かな醬油、そこに混ざり合う豚!更にはそこで米が混ざる、この一見味気ない様に感じる米が実は一番の癖もので、スープの旨味をこれでもかと伝播させる役割を担っている!。
家系とは違う衝撃を放つ、ポタージュラーメン!
家系では全部飲み干す事も、米と一緒にでも完全には飲めなかったスープが、このとろとろのラーメンでは余す事無くスープもぺろりと食べてしまいましたわ。
それでいてしょっぱ過ぎる事もなく、水がとても美味しい!
すっかり平らげたどんぶりを覗いて思う。
わたくし豚の虜になっているのかしら?それともニンニクの虜になったのかしら?それとも種類の豊富でまだ底の見えないラーメンにハマってしまっているのかしら?。
ポタージュラーメンを食べる前までは、頭をちらついていた家系ラーメンが、今までは何処か脳の中の遠くに封印されたかのようになっている。
豚骨で満足したから?ニンニクで満足したから?水を飲みながら考えるけど、今は清々しい程にさっぱりしている。
次に会うラーメンはどんなラーメンかしら?
店を出て、太陽を見上げる。
今日も自分が眩しいわ!
七色鳥、セブンフェザーとも呼ばれ、七色シリーズの代表とも言われている美しい鳥だ。
皮はもちろん肉の部分ももちもちしていて美味く、脂の多い豚や差しの入った牛の様に脂肪分は少ないはずなのに、もっちりむちむちしてパサつかず、それでいて噛むと、どこからこんなにジューシーな脂が出るんだと疑問に思ってしまうほど、じゅわっと肉汁が溢れ、ソテーやステーキはもちろんあげても美味いし煮てさっぱり食べるのにも丁度いい、まさに魔法の鳥である。
王家から頂いた、この超高級鳥を最初は北京ダック風に仕上げて、皮を楽しんでもらう為にお客様に出した、高級なだけあって、その美味さはまさにビックバンかと思うほど美味かった。
貴族のお客様に一品ものとして提供した為、在庫はまだまだある。
問題はどう料理するかだ。
はっきりいって、どう調理しても美味いのだ。
だからこそ悩む、この七色鳥はどう調理すればいいか、いっその事刺し身や叩きなどもいいかもしれないと思ったが、そればっかりになってしまうのもなぁ、と思って刺し身や叩きは夜の部に回すことにした。
さぁ問題は昼の部の定食だ。
からあげは大成功だったなぁ。
七色鳥のからあげ定食は大人気で、未だに頼むから作ってくれ!と泣きながらお願いされる事がある。
普通の定食屋なら、注文をもらってから作ってとテキパキできるかもしれないが、そこは素人の俺なので、注文が立て込んできたら多分パニックになって、失敗すると思う、そんなミスを無くすための事前にメニューを決めて、それ一本で勝負が売りの定食屋なのだ、マジックボックスのお陰で、大勢のお客さんに素早く提供できる様になった。
下ごしらえなんかもまとめて、大量にやって保存できるのでかなり助かっている、冷蔵庫ではすこしずつ劣化していくが、マジックボックスには劣化がないからだ。
それにしても鳥・・・・やはり俺は庶民なので、鶏肉の特別な料理などがあまり思い浮かばない、どうしても唐揚げとかが頭をちらつく、甘酢あんの唐揚げとか、ニンニクと醬油の効いた唐揚げとかだな、つくづく発想が貧困なのに悩む。
とりあえず、今回は無難に鳥南蛮とかでどうだろうか?卵に鳳卵があるから、これでタルタルソースを作ったら濃厚できっと美味いはずだ。
七色鳥の胸肉を、卵、衣に潜らせ、油で揚げる。
揚がったら、醬油、酢、みりん、砂糖のタレに漬けて。
上から鳳鳥の濃厚タルタルソースをかければ完成だ。
じゅわじゅわと音を上げながらソースに絡まる鳥肉が、美味さを助長する。
リリとねね、ニーアさんの分も出来上がり、ご飯に味噌汁に小鉢を用意すれば、昼食の準備は完了だ。
サラダは食べやすさを求めて、細切りサラダにした。
人参、レタス、キャベツ、大根、キュウリ、をスティック状に細切りにして、凄く食べやすい。
「みんな~、ご飯だよ~」
競うような足音が聞こえる。
「お腹空いた!」
「今日はなんだ!?」
「今日はチキン南蛮だよ」
「美味しそう!食べましょう!」
「「「「いただきます」」」」
ザックザクの衣から、豪快に出て来る肉、甘酢と絡んで暴威の様に舌の上で暴れ回る。
それをまろやかなタルタルが抑え込むが如く、怒涛な旨味のせめぎ合い!
どこか相撲の様な?力と力のぶつかり合いの様な、バチバチとしたうま味のぶつかり合いが舌の上で演出される。
そしてどちらの旨味も土台を支えるかの様な米!そういつも後から口の中にやってくるこの米が実は一番の曲者なのだ!
散々舌で暴れ回ったあとに、喉奥にグイグイと運ばれていく様がなんともいえず美味い!
「鳥さん!ナニコレ!ぷりぷりで美味しい!」
「七色鳥だ!唐揚げとはまたタレが違うのか!?これも美味いよ!肉のソースと上の白いソースで味が違うんだ!七色鳥の旨味とばっちりでさいこー!!」
「唐揚げも凄く美味しかったですもんねぇ!またこんな形があるなんて知ったら、お客さんびっくりしますよ!今日も混みそうだなぁ」
噛みしめる肉の旨味に喉越し、素材が違うだけで夢の様な料理に変わる、俺の腕は料理人スキルはあっても日本の超一流料理人にはまだまだ敵わない所か、腕を考えると超一流は遥か遠い、そんな凡人の俺でも、こんなに美味い感動的な料理を作れるのは、素材の力が強い事で発揮されている事が多い。
まさに庶民の料理が、王侯貴族が食べる食事に変化するかの様な、そんな魔法だ。
それだけ、現代日本の食のレベルの高さ、一般人まで広められている調理法のその素晴らしさが際立ってわかる。
現代の素晴らしい調理法に、異世界の超絶美味しい食材を掛け合わせる事で、俺と言う料理人が注目を浴びている、この日本人の調理へのあくなき挑戦の結晶に感謝してもしきれない。
「うみゃい!うみゃい!他の料理店も八百万を出来るだけ真似ようっていい所はどんどん盗んでるみたいで、街全体の料理店のレベルがちょっと前とは段違いであがってるんだぜ」
「へ~知らなかった」
「話だけは聞いてます。みんな負けられないって、それでいて自分達の良さも追及して頑張っているらしいですね。でもまだまだ負けません!」
家も気合いれて頑張らないとな、料理人としてはまだまだひよっこなので、気合をいれて、それでいて丁寧に、美味しく食べてもらえる様に努力しないと、あれ?本職なみに料理に気合入って来てるな。
もちろん現代の仕事もちゃんとやらねば。
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