魔法少女の死んだ街
御伽草子ここな
第1話
魔獣という奇妙な生き物が人々に襲い掛かろうとした刹那、彼女達はどこからともなく姿を現した。水のように透き通った瞳。嫉妬もできないくらい綺麗な髪。いずれもこの世のものかと疑うほど整った顔立ちをした少女だ。彼女達はにっこりとこちらに微笑むと
「安心して、もう大丈夫」
と杖を一回振り下ろす。すると、邪悪な気配に覆われていた空は晴れ渡り、怪物はもうどこかに消えてしまっていた。
魔法少女だ。
その姿を目の当たりにした人は皆一様にそう口にする。魔法少女なんて恥ずかしい呼び名を付けられてるな、と当時の私は思っていた。しかし、今思えば年端もいかない少女達への感謝と敬意が込められていたのかもしれない。
「助けてくれてありがとう」
「戦ってくれてありがとう」
「守ってくれてありがとう」
人々の笑顔は絶えず、優しい声が街を飛び交った。理想の世界。理想の街。こんな暮らしが永遠に続くのだと馬鹿な私達は本気で信じていたのだ。
「ま、全部あんたのせいだけどな」
鉄板と遮光テープ、それらを何重にも重ねてできた深海のような部屋で、パソコンのブルーライトだけがただ無機質に光っている。溶けるように言葉をこぼした私は画面に映った記事をただ読んでいた。
『連続少女失踪事件 死亡した犯人の身元が判明』
『魔法少女現れず、半年が経過』
もう九年前にもなる記事。
だけど、未だに納得がいかない。
どうして殺してしまったんだ。死んだ犯人を生き返らせて、永遠に問いただしたい。
あぁ知っている。それは叶わない願いだ。だけど、願わずにいられるか? 地獄の底から生き返って口を開いてくれ、そして教えてくれ。
瞬きする度、眩しいほどのフラッシュと溢れんばかりの群衆を思い出す。
「今の心情をお聞かせ願えますでしょうか」
「普段変わった様子はなかったのでしょうか?」
「世間は謝罪を求めています! どうして何も答えないんですか?」
悲鳴、怒号、罵声。
聞きたいのはこっちだってのに、今でも外はそんな声で溢れている。
「――なぁ、姉さん」
記事に書かれた「綾崎」の文字を睨むと、私は周囲に聞こえないようにこっそり静かに息をした。
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