私は見つけてもらえますか?
りゅうこころ
東京での日常(1)
「ただいま」と誰も居ない暗い部屋に帰宅して、ストーブに着火し部屋が温まるまでしばらくこれまた冷たいコタツに潜り込むといった時代から、帰宅時間に合わせてスマホで家電を遠隔操作し、快適な独り暮らし生活を送ることができる時代に変わってきている。
鍋にお湯を沸かして即席めんを作り、鍋ごと持って食べていたあの頃とは違って、食事だって帰りのコンビニで味の研究者たちが十分吟味して作った美味しい弁当を会計の際に温めてくれる。その際に必要な物は大体揃ってしまうし、もちろん酒類からソフトドリンクまで品ぞろえは多種多様。
「まったく便利な時代になったものだ」
と呟きながら会社帰りに自宅のマンションまで徒歩二分のコンビニから寒風に肩をすくませながら帰宅する。会社を出る時にスマホでお風呂のお湯はりと部屋のエアコンを起動させているので、帰宅する頃には昔のように寒さに凍えることなく快適な空間になっていることだろう。
この遠隔自動化は何も生活家電だけに限ったことではなく、同居しているネコの餌やりなどにも応用が利くので本当にスマホが無いと生きていけない世の中である。言い換えれば一人で自由に暮らしていたい自分としては『結婚して誰かが待っていてくれる幸せ』よりは『スマホとネコ』の生活の方が幸せなのだ。両親や親戚が集まる場に顔を出したりすると、
「そろそろ嫁さんもらって温かい家に帰った方が幸せじゃないのか?」
なんて言われるが全くもって大きなお世話で、それを家電がやってくれるし、言葉は通じなくても何となく雰囲気で意思の疎通ができるような気がしているネコが居てくれる方が僕としては居心地がいいのだ。
結婚して一緒に住むといったって気心知れた親兄弟とは違い産まれた場所も育った環境も違う赤の他人なのだから、惚れた腫れたで最初のうちは良くてもそのうち見たくないものまで見えてきて不快な気分になるであろうことくらいは周囲の話から想像がつく。
『結婚とは鎖につながれた地獄』
なんて言葉を今まで何人から聞いてきたことか・・・
振り込まれた給与から僅かばかりの小遣いをもらい、会社の飲み会などで足りなくなるとこちらが頭を下げてお金を受けもらわなければならない。ストレス社会の中で働いて稼いでいるのは自分なんだから、自身が便利に快適になるように設備投資する分には苦にならないが、先々嫌な気分にさせられるであろう同居人に投資するのは僕としては納得いかない。
ちなみに同居人である現在のネコは、いつも会社帰りに立ち寄るコンビニのおかみさんから
「一人じゃ寂しいでしょ? 子猫が生まれたばかりだから飼ってみない?」
と断りづらい環境で押し付けられたもので最初は悪戦苦闘したものの、今では気心知れた愛猫となっている。
ネコがイヌと違うのは気まぐれで一人の時間を満喫できるところであり、僕と似ているという点だ。散歩に連れて行けと騒ぐこともしなければご近所迷惑になるほど鳴き散らすこともない、強いて言うならば与えている餌の問題もあるが、トイレが異常に臭いという事くらいだろうか。
とはいえ、
「ちょっと、私が入った後のトイレにすぐ行かないで!」
なんて面倒を言われることもないし、きれいに交換してやれば済むだけのことなのだからこんなもの可愛いものだ。最初は
(めんどくさいなぁ)
と思ったりしたが、帰ってくるとどこからか出てきて足元にすり寄ってきたりする姿はまんざらでもない。トイレをきれいにして水もきれいなものに交換し、ちょっと高級な美味しいエサをあげたりするときれいに食べつくしてご機嫌に顔を洗っている。漫画を読もうがテレビを見ようが邪魔はされず、反対に寒い時期に膝の上に乗せてくれと時折寄って来たり、布団の中で湯たんぽ代わりにぬくぬくと静かに寝てくれたりするのは一人身の冬には、ことさらカワイク感じる。
こんなカワイイ奴でも会社から帰ってきてソファに座ってぐったりしていると、勝手に足の臭いをしばらく嗅いだ後に『カァー』っと口を半分開けて目も半開き。
「うわっ、なにこれ。くっさー!」
と言われている気分であるが、毎日同じことをしては同じ反応なので
(フレーメン反応というらしい)
僕の足の臭いもまんざら嫌いではないのだろう。
体もすっかり大きくなり最近ではよく食べるせいか、腸の動きもすこぶる快調なようで強烈なにおいと共に大量のお土産が用意されていることが多い。まあそれでも僕の中では『元気に生きているだけで百点満点』なので何の文句もない・・・というほど大袈裟なものではないが、一人で居るより癒されるのは確かだ。
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