超能力100%
凡人
第1話 只野 力の力
「なんなんだよ、あのガキ!」
横腹が猛烈な痛みで今にも蹲りたいが、それでも俺は走っている。
「ちくしょう! あのガキさえいなければ!」
路地裏、ただ俺一人がたった一人のガキに怯え逃げている様子ははたから見ると滑稽に見えるだろう。それでも俺は捕まるわけにはいかない。
[サラマンダー]
裏社会では有名な犯罪組織の一つ、俺はその組織に属している幹部の一人だった。
だが、一つのミスを犯して下っ端、いやまだ下っ端のほうが救われている。
俺は最難関任務である、ある組織[超能力100%]とかいう裏組織を粛清しまわっているという組織の機密情報を取ってこいと言われた。
はじめは簡単な任務だと思ったんだ。最難関なんてどうせ嘘で、俺の力さえあれば簡単に終わる。幹部にもすぐ戻れると思っていたのに――
「ふざ、けんなよ!!!」
息が切れて、まともに呼吸もできない。それでも止まったら俺はあのガキに殺される。
震える足を奮い立たせて逃げるしかなかった。
「――ッ!!」
俺の数メートル先に人影のようなものができたと思ったその瞬間、その場には俺を追いつめた、いや現在進行形で追いつめているガキが降り立っていた。
「くっそぉ! こうなりゃやけだ!!」
サラマンダー、俺の所属している組織では主にパイロキネシスを得意とする超能力者が多い。実際に俺もパイロキネシスが得意で、少し力を使うだけでマンションの一つや二つは真っ黒に焼け焦がせる。
でも、このガキの前では――
「なんで! なんで力が使えないんだよ!!」
このガキの前では俺の力など無意味だった。
力を込めた感覚はあるのに、少しの火も出せない。
「お兄さん、ごめんね。でもあんたが悪いんだよ、あんたがその力を使わずに生きていたらこんなことにはなってなかったんだからさ」
目の前のガキが俺に一歩、一歩と近づいてくるたびに俺は全身から嫌な汗が出て、脳が逃げろと警告してくる。でも、一度止まってしまった足がもう一度前に出てはくれなくて、俺はただこの先の嫌な未来を思い描くしかなかった。
そして目の前に来たガキは、こぶしを思いっきり握って俺に――
ぽふっ
かわいらしい音と主にガキのこぶしが俺の腹にあった。
「よ、よわーー!!」
あんなにおびえていたのがばかだと思うほどにガキのこぶしは弱かった。
今の今まで超能力に頼って、身一つも鍛えていない俺はこぶしを握り――
「こうなったら殴りあいだな? ガキィ!!」
力強く握ったこぶしがガキの顔面をとらえた、と思った瞬間――
「ガッ!!」
後ろから何かに強く殴られた感触とともに俺の意識は消えていった。
「なーにをやってんだよ、力」
「粛清さん…」
「あれほどお前の力はタイマンでは無意味と言ったろうが」
スーツ姿のこの人は超力 粛清さん。わけあってこの人の組織に入ることになった僕が只野 力。
これが僕らの日常だ。
「おい、反省してんのか!?」
超能力100% 凡人 @sindasakananome
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