S級冒険者が歩む道~追放され最強を目指す少年と、追放した少女が最高を目指す物語~
さとう
第一章 二人のS級冒険者
プロローグ
「聞いたか!? あの『銀の戦乙女』サーシャが、ついにS級冒険者に認定だってよ!!」
「バカ、そんなのとっくに話題になってるっつーの」
人間界最大の国、ハイベルク。
ハイベルク王都リュゼンの酒場で話題になったのは、最年少の十六歳で『S級冒険者』に認定された少女、サーシャだった。
流れるような美しい銀髪をなびかせ、十六歳とは思えないスタイルの持ち主。冒険者の多く集まる酒場では常に人気者で、彼女に告白した冒険者も数多い……が、全員が撃沈したそうだ。
酒場では、サーシャの話題で持ちきりだ。
「な、S級冒険者ってことは『クラン』も設立できるんだろ? うちのチームも加入できないかねぇ」
「バッカ。うちみたいな万年C級のチームが相手にされっかよ」
「でもでも、サーシャさん、すっごく優しい方よ? 低ランクの初心者にだって優しく微笑んでくれるし」
「それお前のことだろ」
「サーシャってさ、男はいないのかね?」
「いるって。同じチームのレイノルド。あいつももうすぐS級って噂だぜ」
「でもでも、レイノルドさんは独立しないで、サーシャさんと一緒のクランでやるんじゃない?」
「かもなぁ。で、認定式っていつだ?」
「バカ、今日だよ。しかもとっくに終わってるっつーの」
「あ!! そういえばさ、もう一人いたよな……S級認定されたやつ」
と、次の瞬間───酒場のドアが開き、一人の少年が入って来た。
少年が入るなり、酒場は静まり返る。
少年はそれを無視し、カウンターに座った。
「…………いつもの」
「はいよ」
黒い少年だった。
黒く分厚いコート、シャツ、ズボン、ブーツととにかく黒い。顔立ちは端正で、少年のような顔つきだ……が、右目の部分に引き裂かれたような跡があり、眼帯をしていた。
異質な気配に、酒場は静まり返る。
そして、少年の前にステーキの皿が置かれた。
少年は無言で肉を食べ始めると、ようやく酒場に控えめな喧騒が戻る。
そのうちの、一人が言った。
「あいつだよ……」
「あ?」
「そういやお前、王都に来たばかりで知らねぇよな」
酒場客の一人が、黒い少年の背中を見ながら言う。
「サーシャ以外にもう一人、S級認定された冒険者が、あいつなんだ」
「……ただのガキだろ?」
「タダの、じゃねぇ。あいつはソロでSレート級のドラゴンすら狩るバケモンだ。付いた二つ名が『
「へぇ……なぁ、すっげえ傷あるけど、あれなんだ?」
「知らん。関わらねぇ方がいいぜ、あいつ、仲間を置かないのは、奴の『能力』が仲間を巻き込んじまう危険な力らしい。それで仲間殺しちまったんだとさ」
「こっわ……さっさと出て行けよ」
少年は、肉を完食。
代金を置いて酒場を出て行った。
途端に、酒場には喧騒が戻る。
「そういや、噂なんだけどよ」
「また噂かよ。噓クセェなぁ」
「うっせ。今のガキと、サーシャ……同じチームだったらしいぜ」
「はぁ? んなわけねぇだろ」
酒場での夜は、更けていく。
◇◇◇◇◇◇
黒い少年が食事をしたところではない、別の酒場。
この酒場は二階が宿になっており、一階は酒場になっている。
今日は、S級冒険者に認定されたサーシャのチーム『セイクリッド』の貸し切りだ。
酒場の真ん中に大きな円卓があり、そこにびっしりと料理が並んでいる。
円卓を囲むのは、五人の人間。
「じゃ、みんなジョッキ持ったか?」
金髪リーゼントヘアの、体格のいい青年がニカッと笑う。
「レイノルドさん。その笑み、気色悪いからやめてって何度も申してますわよね? せっかくのお祝いなのに気が滅入りますわ……ああ、神よ」
「ピアソラ、ひっでぇな!? なあサーシャ、こいつの毒舌なんとかしてくれぇ……オレ、泣いちゃうぜ?」
金髪リーゼントのレイノルドのウソ泣きに、綺麗な白髪をなびかせたシスター服の少女ピアソラが「フン」と鼻を鳴らす……そう、ピアソラは大の男嫌いなのだ。
そして、銀髪美少女のサーシャは、凛々しい笑みを浮かべる。
「ピアソラ、今日ばかりは勘弁してくれない「サーシャが言うなら!! ああん、サーシャぁ……今夜、アナタのお部屋に行ってもいい?」
サーシャが言い切る前に、ピアソラは椅子ごとサーシャにすり寄り、腕に抱きついた。
そう、ピアソラは本気でサーシャを愛していた。いつかは子供を……と、考えている。
すると、大きなため息を吐き、茶髪のクセッ毛をした眼鏡の少年が言う。
「全く、同性愛なんて信じられないね。サーシャ、嫌ならイヤって言わないとダメだよ」
「あ? おいタイクーン、今なんて言った?」
「猫被り聖女って言ったのさ」
「あぁぁぁん!?」
額に青筋を浮かべ、ピアソラは顔を歪ませる。
だが、タイクーンと呼ばれた少年は眼鏡をくいっと上げて微笑むだけだ。
いつものじゃれあい……だから、サーシャは止めない。
すると、エメラルドグリーンの髪をポニーテールにした少女、ロビンが言う。
「ね、乾杯しよっ!! アタシ、お腹もう限界だしぃ~」
「そうだな。ではみんな、乾杯!!」
サーシャの号令で、全員が乾杯した。
そして、エールを一気に飲み干し……最初に、ピアソラが甘ったるい声で言った。
「サーシャ、S級昇格、おめでとうございます!」
「ありがとう、ピアソラ」
「えへへぇ~……これで結婚へまた一歩、ですね!!」
「あ、ああ」
ちょっと困惑のサーシャ。
そして、エールをちびちび飲むタイクーンが言う。
「S級に認定されたらクランの設立が可能になる。冒険者チームを傘下に入れてクランを拡張させれば、『四大クラン』の加入も見えてくる……いや、ボクらが入れば五大クランか。そうなれば、安定した生活も夢じゃない」
ピアソラの『結婚へまた一歩』とは、こういう意味だ。
ロビンは、エールを飲みながら頬を染めて言う。
「アタシは……ダンジョン、挑戦続けたいな。まだまだ世界には多くのダンジョンあるし」
「オレもだ。それに……サーシャはクラン設立して事務仕事やるようなタマじゃねぇ。戦う姿が何よりも美しいと思うぜ」
「からかうな、レイノルド」
サーシャは頬を染め、そっぽ向いた。
そのしぐさが可愛らしく、ピアソラがサーシャの腕に抱きつき、十五歳にしては豊満な胸をぐりぐりと押し付ける。男ならデレデレするだろうが、同性なので効果は薄い。
「ああ、サーシャぁ……私、本当にあなたが好きぃ。ねぇ、クラン作って、暇になったら、私と愛を育みましょう?」
「何度も言うがピアソラ。私は、お前の愛には応えられん……女だからな」
「関係ないわぁ!! 女同士もいいもん!! 子供作れるもん!!」
「作れるわけないだろう……馬鹿め」
「あぁ!?」
ピアソラがタイクーンにキレた。が、タイクーンは涼しい顔だ。
すると、レイノルドが言う。
「なぁ、サーシャ」
「ん?」
「クラン設立はするとして、やることは山積みだぜ。これからいろんな冒険者チームがクラン加入の申請をしてくる。それに、いつまでも宿暮らしってわけにもいかんし、オレらの本拠地も必要だ。それに、S級は国からの依頼も来る。お前は有名人だし、間違いなく来る。ここ数か月は忙しくなるぜ」
「わかっている。だが、心配はしていない」
「ん?」
「レイノルド。お前がいるからな」
「…………お、おだてるの上手いな、サーシャ」
「本心だ」
サーシャの、少し酔った赤い顔で言われ、レイノルドはそっぽ向いた。
食事、酒が進み、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
酔っていたせいか……ピアソラが、口を滑らせた。
「そういえば、あの男!! あの男もS級認定されましたね。まったく、どんな手を使ったのやら───…………ぁ」
あの男。
その単語に、全員が一人の少年を連想……黙り込む。
ピアソラですら、「やっちゃった」と言わんばかりに口を押さえた。
そして、全員がサーシャを見る。
「……強くなっていたな。本当に、驚いたよ」
「……サーシャ、何度でも言う。あの時のお前の選択は、間違っていなかった」
「…………」
レイノルドが慰めるが、効果は薄いようだ。
そして、サーシャは言う。
「まさか、ハイセが……私と同じ、S級に認定されるとはな」
黒い少年。
またの名をハイセ。
S級冒険者『
かつて、『セイクリッド』に在籍していた……いや、サーシャと二人で始めた『セイクリッド』の副リーダー。サーシャの幼馴染でもあった、心優しい少年。
そして……サーシャが『セイクリッド』から、追放した少年だった。
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