第10話 新たな婚約相手 ※マクシミリアン王子視点

「ふぅ……。少し、疲れたな」


 書類仕事が一段落して集中力が途切れた瞬間、どっと疲れが出るのを感じた。体がずしりと重くなるような感覚があった。背もたれに体を預けて目を閉じる。すると、さらに疲れを感じた。目の疲労と、肩が凝っている。


 首や腕をぐるぐる回して、軽くストレッチする。それでほぐそうと試してみたが、あまり効果は無いようだ。書類仕事は、この疲れが大変だった。


 仕方ない。彼女を呼んで、助けてもらおう。


「誰か! ルイーゼを呼んできてくれ」

「はい、すぐに!」


 近くに居たメイドが返事をして、急いで部屋から出ていった。俺の指示を聞いて、ルイーゼを呼びに行ってくれたようだ。


 再び、背もたれに体を委ねる。そして目を閉じると、しばらくぼーっとしていた。


 あぁ、疲れた。だけど、この後にも処理しなければならない仕事が大量に溜まっていた。だから、休むわけにはいかない。これでもまだ、俺の任された仕事は少なめ。王位を継承したら、もっと大変になるらしい。


 婚約破棄の件と、新しい婚約相手の手続きなどが色々とあって仕事が滞っていた。婚約の相手を替えるだけなのに、あんなに面倒なことになるとは思わなかった。


 だけど、これからは大丈夫。マリアンヌよりも能力が高いルイーゼが、回復魔法で助けてくれるから。


 彼女の回復魔法を見た時、とても美しかった。素晴らしかった。今までに俺が見てきたモノとは格が違っていた。あれは、すごい効果があるに違いないだろう。


 俺は、ルイーゼの回復魔法に期待していた。


「お待たせしました、マクシミリアン王子」

「おぉ! 来てくれたか、ルイーゼ。君が到着するのを待っていたぞ」


 部屋にやってきたルイーゼを歓迎する。彼女に会えて嬉しい。彼女の到着を待っていたんだ。さっそく、回復魔法の力を見せてもらうことにしよう。


「それで、どうしましたか?」

「早速だが、回復魔法を頼むよ。かなり疲れが溜まっているようで、仕事を処理するのに支障が出ているんだ。疲れて集中できない。どうにかしてくれ」

「わかりました。それじゃあ、早速」


 ルイーゼに頼んでみると、すぐに回復魔法を使ってくれた。早いな。もう回復してくれるのか。マリアンヌの時とは違って、ルイーゼはすぐに回復魔法を使って俺を癒やしてくれるようだ。


 部屋の中に、光が溢れた。彼女の回復魔法が発動している様子が、目に見て分かる。やはり、素晴らしい魔法だ。


「はい、終了です」

「え? ……これだけか?」


 思ったよりも早く終わった。早すぎて、思わず声が出てしまった。彼女の扱う魔法に見惚れて、あっという間に時間が過ぎていたようだ。


「えぇ、そうです。終わりですよ。まだ足りませんか?」

「うーん、どうだろう……」


 まだ、体の中に疲れが残っているような気がする。でも、勘違いなのか。あの魔法が効果を発揮しているのなら、疲れは取れているはずだ。


「念のために、もう一度やっておきますね!」

「……そうだな。頼む」


 そして再び、素晴らしい魔法の光が部屋を包んだ。、また、一瞬にして時間が経過していく。


「はい、終わりです」

「ありがとう、ルイーゼ。疲れが取れた気がするよ」


 まだ、なんとなく違和感があるような気がした。体の奥に疲れが残っているような感じだった。だけど、さっきよりも楽になった気もする。


 彼女に回復魔法で疲労を癒やしてもらうようになってから、まだ日が浅い。だから俺が、ルイーゼの魔法に慣れていないからなのかな。しばらく時間が経てば、彼女の扱う回復魔法に体が馴染んできて疲労もスカッと回復するはず。


 慣れるまで少しの間は辛抱しないといけない、ということなのだろうか。


「それじゃあ、今夜も睡眠の魔法を頼むよ」

「わかりました。それじゃあ、また夜に会いに来ますね」

「あぁ、待っているよ」


 最近、寝付きも悪くなってきた。仕事が忙しくて大変だからなのか、眠れない日が続いていた。なので、ルイーゼには睡眠の魔法を使ってもらって、なんとか夜に眠ることが出来ていた。


 前は、眠れない日にマリアンヌを頼っても断られていた。睡眠の魔法を何度も繰り返し使うと体に悪いから、という理由で。だが、夜に寝ないほうが体に悪いだろう。あれは、面倒だったから断っていただけだと思う。


 しかし、ルイーゼに頼んでみたらすぐに睡眠の魔法を使ってくれた。それで、夜もちゃんと眠れている。やはり、マリアンヌの言っていたことはデタラメだった、ということ。もしかしたら、マリアンヌは睡眠の魔法が苦手だったのかもしれない。だから、俺の願いを断っていたとか。


 しかし、実力者のルイーゼなら睡眠の魔法も自由自在に扱えている。睡眠の問題はルイーゼが解決してくれるので、安心だった。


 毎日のように仕事が溜まり、それを処理する日々。とても忙しいが、やらなければいけない。王位を継承したら、更に忙しくなるかもしれないのだから。


 大変だけど、ルイーゼが助けてくれる。彼女に頼って、これからは生きていくことになる。早い段階で、マリアンヌよりも実力が上のルイーゼに婚約相手を替えることが出来て、本当に良かった。


 やはり、これから先の大変な人生を考えると、パートナーは実力者のほうがいいに決まっている。


 実力者であるルイーゼが、新たな婚約者になってくれてよかった。これから先も、ずっと彼女と一緒。幸せに過ごすことが出来ると思う。楽しみだな。

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