第6話 他国へ向かう道中

 女の一人旅は、想像していたよりも危険は少なかった。運が良かっただけなのかもしれないが、危ないと感じる出来事に一度も遭遇することなく目的地に向かうことが出来ていた。


 王都から旅立ち、夜の森を歩く。道中でモンスターと出会っても、魔法で倒して冷静に対処していく。朝になる前に近くの街へと辿り着いた私は、そこから馬車を乗り継いだ。王都から最速で辿り着ける国境へ向かった。


 家を出てから数週間の長旅。何の危なげもなく目的地の国境に到着した。


 危険は全く感じなかったが、旅の間に一度だけ乗合馬車を襲う盗賊と遭遇したことがあった。


 突然、馬が悲鳴のような声で鳴いて馬車が急停止した。何事かと思って荷台の外を見てみると、そこには剣を手に持って武装した汚らしい格好の男達が居た。他にも、森の中からゾロゾロと出てくるのが見えた。かなりの数だ。


「てめぇら、抵抗したら痛い目を見るぜ!」

「ヒッ!?」


 盗賊の男が一人、大剣をチラつかせて乗客を脅していた。悲鳴を上げる乗客の声。男の後ろに居る仲間達も、乗客を次々と脅す。


「大人しく、荷物を置いていきな!」

「おい! 若くて、いい女が居るぜ!」

「今日は運が良い。ガッツリ報酬が手に入ったぜ」


 とても気分が良さそうな男達。そして、表情を真っ青にする乗客達。


 このまま大人しくしていたら、私は奴らに捕まって酷い目に遭うのでしょう。簡単に予想できる、悲惨な未来。そんなのは嫌なので、魔法を使って抵抗する。


 奴らを上手く倒さなければ、乗客達に危険が生じるかもしれない。一人でも人質を取られてしまったら最悪だろう。そうならないように注意して、どのタイミングで攻撃を仕掛けようか、私は機会を伺った。奴らを一撃で倒す、その瞬間を。精神を集中させて、いつでも魔法で攻撃できるように。


 その時、乗客の中に座っていた青年が急に立ち上がった。そして、盗賊に向かって大声で叫び始めた。


「盗賊なんか怖くないぞ!」

「あ、おい! 危ないって!」


 横に座っていた同い年ぐらいの青年が、大声で叫ぶ青年を止めようとしている。だが、止まらない。


 盗賊たちの視線が、叫ぶ青年に集中する。そして、彼の無謀な行動を笑った。


「ん? なんだ、コイツは?」

「命知らずの馬鹿だな。こっちは仲間が何十人も居る、ってのによ!」

「さっさと殺しちまおうぜ」

「金は持ってるか? 俺が頂いてやるぜ」


 青年は荷台から飛び降りて、腰から下げていた剣を抜いた。そして、盗賊達の前に飛び出していった。どうやら、戦うつもりのようだ。あれだけの数を相手にして、勝てるのだろうか。おそらく、勝てないと思う。とても危険な行為だった。


 だけど、他の乗客を守ろうという気持ちは伝わった。彼がチャンスを作ってくれたので、この機会を逃さない。


 青年が注意を引いている間に、私は攻撃魔法を放つ準備をした。

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