悪役令嬢の嫌がらせが恩情で、愛らしい!

はにはや

Chapter1

1

 馬車に揺られながら、外を眺める。故郷は既に見えなくなっており、見知らぬ土地の風景ばかりが横切っていく。


『──帝華魔法学園。入学条件は魔法が使えること。』


『魔法が使えるのは基本的に貴族のみ。なんだけど、突然変異で平民である私も魔法を使えることが発覚し、入学することになった。』


『これからどうなるんだろうか。解消することのない不安を抱えたまま、私は目を閉じた。』




***




 目が覚めたら知らない天井、知らない部屋、知らない格好、そして──


「なに、これ……」


 知らない顔、だった。

 慌てて辺りを彷徨き、何か事件に巻き込まれたのか、と危惧していた私。しかしふと鏡に写った私の姿は肩辺りまで伸びた黒髪で赤色の目をした結構美形な少女だった。

 それから私は思考を巡らせる。昨日はまず何をしていたか。確か大学に行って、友達の野薔薇と会う約束をしていたけど、その行きに……


 フラッシュバックする。トラックが此方に来る映像が流れる。


「あ……」


 私は事故にあったんだ。

 ということは、私の身に今何が起きているのだろうか。よくある異世界転生とかいうやつなんだろうか。

 最近野薔薇がそういうゲームをしていたから分かる。交通事故に巻き込まれたりして大体転生している。

 しかし私にまでそういう現象が起きていたとは。まさかあれは全部実話? 大きな発見ができた。

 いやいや、そういう馬鹿みたいな考えは置いておいて、これからどうするのか考えないと。

 まずは私の名前を探さなきゃ。もし名前を間違えたら大変なことになる。

 部屋には質素なベッドと、机、クローゼットがある。そして部屋の真ん中にはぽつんと置かれたキャリーケースがあった。

 引っ越しでもしたのだろうか。荷物を漁っていく。折り畳まれた制服の上には生徒手帳の様なものがあった。

 開くと、私の顔写真の隣にアリス・シェイルという名前が書かれていた。アリス──私の名前は佐藤有栖だった。一緒なのは運がいいことかもしれない。童話の主人公の名前とだけあって、この名前で嬉しいことは多くはなかったけど。


「つまり、これから新生活ってことね」


 私は荷物を整えつつ、これから来たるであろう未来に不安を抱いた。

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