転生しましたが、悪役令嬢の婚約破棄とかどうでもいいから、とりあえず殴ってもいいですか?

松原 透

プロローグ

 何もかも、全てが嫌になり、生きていることが辛すぎた。

 私は死ぬためにビルから飛び降りた。


 だけど、私はまだ生きていた。


 病院のベッドの上ではなく、幼い子供の姿で……


 アストレイナ・シルフォード。シルフォード公爵家の一人娘として転生をしていた。

 私はそんな物を願ったつもりはないし、お嬢様と呼ばれる人間でもない。

 生きている上で楽しみの一つでもあったけど、それは物語として楽しむだけで十分だ。


 


 十歳になった私の前に、ラクシャーナ王国第二王子。

 貴族の娘である以上、政略結婚は当たり前だと言ってもいい。第二王子であるアイン殿下との婚約。

 そのお見合いの場に私は今いる。


 公爵令嬢、王子との婚約。

 つまり、この世界は私ことアストレイナが悪役令嬢であり、眼の前にいるこの王子が乙女ゲームなら攻略対象、小説なら主人公であるヒロインと結ばれるのだろう。

 それに舞台は揃っている……だけど、ストーリーなんてどうでもいい。

 力強く手を握りしめると、指からパキッと音が鳴る。



 椅子から立ち、苛立ちを隠しきれない私は殿下の方に手を置く。

 体をビクリとさせ小さく震えている。前髪で目元を隠し、オドオドとした王子。こんな人が私の婚約者?

 ヒロインにとってこんなのが正直言って、何がどういいのかわからない。だけど、ここがストーリーの始まりは分かった。

 魔法のような特殊能力を持った人間がこの世界にいる。


 私もその一人だ。


「とりあえず、殴っていいですか?」


 驚くように顔を上げたアイン殿下の顔面を、私は渾身の力で殴り飛ばした。

 転生してから五年。私は毎日体を鍛えた。

 幼い頃から剣を振り、清楚で可憐な存在でない令嬢。


 公爵家にいる騎士から付けられたあだ名は【暴虐の公爵令嬢】

 

 アイン殿下の体を宙を舞い、周りからは悲鳴が飛び交う中、私は拳を天に向けて突き出す。


(スッキリした)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る