鳥に恋した魚の話
北の国のぺんや
第1話
あるところに、一匹のお魚がいました。
お魚は、あったかい海に住んでいました。
その豊かな海へは、渡り鳥や、あるいは潮の流れに乗って来た、違う海からの訪問者など
いつでもお客さんに溢れていました。
そんなあたたかな海で その魚は生まれ、友達の魚たちとぴちぴちと喋ったり、わかめと良い友達になったり、隣のかっこいい貝に恋をしたりして、育ちました。
この海が、この魚のふるさとでした。
あるとき、一羽の鳥がやってきました。
魚は、その鳥を好きになりました。
最初、魚は、「魚の自分が 鳥を好きになるなんてありえない」って 自分の気持ちを認めませんでした。
だけど、その鳥は、魚のそういう気持ちまでも 包み込んで優しくしてくれたので
魚は、その鳥のことが大好きになりました。
『鳥さんのことが 大好き。あなたがいなければ、私は どこにいたらいいのかわからない。あなたが帰ってきてくれるから 私は、ここにいればいいんだ、ってわかるの。』
魚は、鳥のことを とても大切に思っていました。
鳥も、魚のことを とても大切だ、と言ってくれました。
魚は、それだけで とても幸せでした。
でも、あるとき魚は気づいてしまいます。
鳥には 羽があるのだということ。
羽は、飛ぶためにあるのだということ。
鳥は、いつかは 飛び立たなければいけない。
その、「いつか」は いつかわからないけれど、でも きっと 必ず来るのだ、と。
魚は苦しく思いました。
鳥に会えない日を思うと、心が締め付けられるように痛みました。
ずきずきと痛くて、毎夜泣きました。
だけど、飛び立つ鳥に、未練を残すようなことは してほしくありませんでした。
自分が、未練となり、鳥の翼を重くすることは 絶対にしたくありませんでした。
だから、魚は 鳥には 苦しく思うことも 毎夜泣くことも 言ってしまわないように
思わず本音がこぼれてしまわないように… かたく 口を閉ざしていました。
鳥は 変に思って 魚にたずねます。
始めは 知らない振りをしていた魚でしたが、ついに ぽろっとこぼしてしまい、
一度こぼしてしまったら、もう 止まることを知らず、次から次へと本音をこぼしてしまいました。
鳥は、困っているように見えました。
魚は後悔しました。言うべきでは無かったのに…と。
魚は、鳥が幸せでいてくれれば良いと思いました。
鳥が 飛び立った先で 幸せに暮らしてくれれば それで良い、と思いました。
そう考えることは、とても辛く 悲しいことでしたが、
自分が翼を重くして、それによって 鳥を失ってしまうかもしれない という心配に比べたら
どうってことない、と思いました。
鳥が、行き着いた先が、自分のいるこの海よりも 居心地がいいところだったら
ずっと そこにいてくれても良い、と思いました。鳥が幸せなら。
鳥が、行き着いたその先で、自分よりも素敵な誰かと 出会って
その誰かを好きになったならば、それでも良いと思いました。鳥が幸せなら。
考えれば考えるほど、魚にとって 辛いことばかりでしたが、
鳥が幸せになるならば、それで良いと思いました。
それに、今、鳥は ここにいてくれるのだから。
たとえ、あのどれくらいか後に、飛び立つ時が来ようとも、今はここにいるのだから。
今、鳥が 自分の隣にいてくれることを 幸せに思おう と思いました。
そして 鳥が飛び立つときが来たら…
きっと、笑顔で見送ろう と思いました。
鳥が飛び立った後でも、きっと 魚は この ふるさとの海を離れられないでしょう。
だって、いつ、鳥が帰ってくるかわからないから。
ずっと 帰ってこないかもしれない。
もしかしたら 次の瞬間帰ってくるかもしれない。
そう思ったら、この海を…
今、鳥と並んで 一緒にいるこの海を
きっと 離れることは出来ないでしょう。
そうして、ずっと、待っているのでしょう。鳥が帰ってくるのを。
鳥に恋した魚の話 北の国のぺんや @kitapen_com
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