ヤベー奴
ネルシア
ヤベー奴
大学1年生でそれなりに時間が経った。
仲のいい人もでき、ゼミの活動も積極的に行っている。
このゼミは皆で何かをする、というよりも、個人の研究成果のを比べて高め合う、という感じ。
私はそれなりにコミュニケーションが取れる方で同じゼミの子達とあーでもないと相談しながら研究を進めている。
そんなゼミの中に明らかに1人浮いている人物がいる。
眼帯に腕には包帯。
見た目もV系?っぽくてピアスも開けてる。
正直怖い。
最近ヤケに私のことを見てるような気がしてならない。
そんなある日、図書室で1人残って頭を抱えながら資料を漁っていると、そのヤベー奴がいきなり隣に座ってきた。
若干パニくるが、表に出さないように務める。
「今日ここに来て。待ってるから。」
声も初めて聞いたが、低く怖い声だ。
渡された紙にこの近くの誰も行かない展望台が指定されていた。
返事を待っているようでじっとこちらを見つめてくる。
断ろうにも断れず。
ただ一言「はい」と返事をせざるを得なかった。
資料も漁り終わり、約束の時間が近づいてくる。
断ればよかったァァァァああ。
深い深いため息が出る。
しかし、口は災いの元、後悔先に立たず、後の祭り、
と覚悟を決め、指定された場所な向かう。
ヤベー奴しかいない夜の展望台。
暗いけどシルエットくらいは確認できる。
あーあ、来ちゃったよ……。
帰りたくなるが、ぐっと気を引き締めて近づいて行く。
私に気付くとそのヤベー奴の顔が急にぐにゃりと崩れる。
てか、泣いてる。
どういうこと……?
「き゛て゛く゛れ゛た゛あ゛ぁ゛ぁ゛。」
文字通り膝から崩れ落ち泣きじゃくる。
「いやいやいや、どうしたのよ。」
なんだか可哀想に思い始めて、ベンチに腰掛け宥める。
ポツリポツリと話し始めてくれた。
「私……治る目の病気で眼帯してて……私ドジだから腕すぐぶつけたり、料理する時に包丁当たったりしちゃって割と大きめな怪我しちゃうから包帯外せないし……。
大学も引っ越してきたのはいいけど近くの服屋さん知らない上にこの見た目だからかわいい女の子の服屋には入りにくくてこういうのしか残ってなくて……。
ほんとは1人は怖くて寂しいのに話しかける勇気もないし、かと言って話しかけられないし……。
勇気を持って話しかけても逃げられるし……。
初めて……来てくれた……。」
うぇっ……うぅ……。
と泣きじゃくる。
うぅーん、庇護欲!!!!
思わず身を寄せてよしよししてしまった。
「そういう事だったのね、いいよ。休みの日一緒にお出かけしよ?
色々買ってあげるし、みんなに紹介してあげる。」
「ほ、ほんと!?」
よく見りゃ顔もいいし私よりチビだしキュンキュンしますねぇ!!!!!
「もちろん。ほら、顔拭いて。」
「う、うん。」
元ヤベー奴が自分のハンカチで顔を拭い、一緒に帰ることにした。
「……て、てて、手繋いでいい……?」
「いいよ。」
また一段と明るい笑顔で私の腕をギュッと大事そうに抱える。
ん"ん"!!!!!!
その後、みんなに紹介すると、初めて沢山の人に囲まれたのか、泣きそうになっているのが目に見えてわかる。
大丈夫、と口パクで伝えるとほっとした様子で自分のことを話し始める。
みんなもわっと笑い、仲良くしよう!!と元ヤベー奴を取り囲む。
チクリと私の胸が痛む。
え、嫉妬……?
いやいやいやいやいや、まさか……ねぇ?
後日、ピアスもやめるように伝え、服屋で色んな服を試すが、かわいい服が似合いすぎて鼻血が出そうになる。
思わず、その子の服を全部買ってあげてしまった。
その後も大学では人気者になった。
まぁ元から顔いいし、照れるのが何より可愛いし、それが益々周りの人を焚きつけるし。
うーん、ただ友達第1号は私だからな?
と謎の嫉妬がある。
そんなある日、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
なんの変哲もない、よくある女の子のふざけ合い。
ゼミの子が「キスしよー!!」と唐突の提案。
もちろん、元ヤベー奴はキョドる。
「え、でも私キスしたことないし……。」
いーじゃんいーじゃん!!
減るもんじゃないし!!!!
とまくし立てられ、断りきれない様子。
ちょっとずつ顔を近付けられるが、逃げようともせず、ただ困惑している。
キスする、5、4、3、2秒前。
もう我慢できなかった。
「ちょっと来て。」
腕をぐいと引っ張りズカズカと連れていく。
「い、痛いよ……。」
「なんで私以外とキスしようとしてんの?」
自分でも驚くセリフだった。
「え、だって……断れなくて……。」
明らかに元ヤベー奴の顔が歪む。
可愛いなぁ!!!!(キレ気味)
「いい、あんたを可愛くしたのは私。
だから、あんたは私の物なの。」
うわぁ!!!!
何を言ってるんだ私!!!!
「え、えへへ、うん……分かった……。」
あぁぁぁ!!!!!!
そんな嬉しそうな顔するなァァ!!!!
「契約のキスしよっか。」
そして私はその子を壁に押しやって口付けを交わす。
「今日からあなたは私の物。ね?」
その子が思いっきり赤面しながらも小声ではい。と返事をする。
その後もその子が男と一緒にいたり、別の女の子と抱き合ったりする度に問い詰めるようになってしまった。
その度に気まずそうな顔をするのがたまらなく好きになる私で、
ほんとにヤベー奴だったのは元見た目ヤベー奴じゃなくて、束縛系彼女になった私だったとさ、ちゃんちゃん。
Fin.
ヤベー奴 ネルシア @rurine
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