それでもきっと恋だった

 寂しさが必要な愛だった。寄り添っても消えない虚が、いつまでも私の心にあった。その人の痛みを知っても、棘を刺されても、私は傍にいた。そうしたかったから。後悔などあるはずもなかった。だけど、その人の言葉の虚と実を私には選り分けることが出来なかった。全て嘘のような気もしたし、全て真実のようにも思えた。どちらでも良かったのかもしれない。ずっと隣で夢をみていられれば、それで私は私としていられるような気がしていた。私の為だけの寂しさであり、それに根を張るような私の為だけの恋だった。その人がいなくなった時、ぽっかりと空いた寂しさよりも強い何かを私は感じた。それは愛惜のようでいて、多分、違う気もした。何が本当かはどうでも良いのかもしれないと、私はその人のことを思いながら考えた。私にとっても偽りの寄り添いだったのかもしれない。それでもきっと恋だった。






 さよならを言う隙間もなかった。気が付くと、本当にいつの間にか音もなくあなたはいなくなっていた。まるで季節が移り、役目を終えた葉が枝から落ちるように、或いは風に乗って旅立つようにして、あなたは私の前からいなくなっていた。それを寂しいと思うよりも強く、私はあなたが元気であってほしいと願った。あなたの口から出る言葉は、まるで何もかもに少し嘘が混じっているように感じていたから。それは私が相手だからというよりも、世界中の誰に対しても、もっと言えば自分自身に対してですら、そうしているように思えた。私の考えすぎであれば良いと思うと同時、脳裏に蘇るあなたの声がそれを否定しているように感じた。季節はあなたと出会った夏を終え、秋を越え、冬を迎えた。移ろう時間の中に私はあなたの存在を見出す。同じ空の下で、元気でいてくれるようにと願う。






 此処まで歩いて来た私とあなたが出会ったのは全くの偶然だったのだろうか。必然と思えるほど、私は自惚れてはいなかった。だけど、あなたの話す言葉や声に私は少しずつ惹かれて行くことを自覚していた。あなたも私にそうであってほしいと思い始めて行った。けれど、私とあなたの時計は別々の時間を刻んでいるのだと思い知った。それは初めからのさだめだったのかもしれないし、もっと言えば気が付いていなかっただけなのかもしれない。お互いの時計を利用していただけだったのかもしれない。流れた時間が巻き戻らないように、得てしまった思い出が私から消えることはないだろうと思う。一年後、五年後、十年後になっても私はあなたを記憶している。記憶し続ける。自分の時計を見るたびごと、あなたを思い出す。遠い場所にいるあなたの中に私がいなくても。

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