第11話
無言で俺らが昼食をとっている時にいきなり俺は言った。
「夕飯は俺にも手伝わせてくれよ」
「…はい」
そして、食べ終わった俺は聖女様のあっ…と言う声を無視して皿を流しに入れて洗い始めた。
「あの、私が洗うのに…」
「これくらいやらせてくれ」
「でも…」
「じゃあ、洗ったやつ拭いてもらえるか?」
「…分かりました」
こうして俺らの初日の昼食の時間は終わった。
「夕飯作り出すとき呼ぶから。それまで好きなことしてて」
「はい。分かりました。お願いします」
俺はそう言い、聖女様からの返答を受け取ると、昨日寝れなかった分を取り戻すために、聖女様から隠れてとある薬を水で流し込み、自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。そして、しばらくすると俺の意識は暗闇の中に引き摺り込まれた…。
そうして大体二時間後、俺は目覚めた。
「うっ…はぁ…はぁ…」
起きた俺をいつも通り悪寒が襲う。壁によっかかり、カーペットを強く握りしめる。
俺はそうして俺を襲った悪寒になんとか耐えて、時計を見る。時計は既に四時をまわっていた。俺はそれを確認すると、自分の頬を軽く叩き、部屋を出て聖女様の部屋のドアを叩いた。
「夕飯作るぞ」
「は〜い」
聖女様は部屋から出てくると歩きながら俺に訊いてくる。
「それで夜ご飯は何作るの?」
「初日だから、カレー」
「レシピとかって…」
「ああ、見るんだったら持ってくる」
「お願いします…」
俺はリビングにあるレシピ本を持ってきて、カレーのページを開いて聖女様に渡した。
「ありがとうございます。それで…私は何をすれば…」
「じゃあ、包丁で人参とじゃがいもの皮剥いといて」
「…分かりました」
そう俺は彼女に言うと左手が上手いこと使えなくてもギリギリいける玉ねぎのカットを始めた。
切りながら、チラリと聖女様の方をを見るとあまり作業が進んでいないのに気付き、俺は声をかけた。
「あれ、なんかあった?」
「いや…、そうじゃないんですけど…」
何故か聖女様の言葉の歯切れが悪かった。俺はとりあえず思い当たることを訊く。
「その包丁使いにくい?それだったらピーラー出すけど」
「…お願いします」
彼女がそう言ったので俺はピーラーを出し聖女様に渡した。
そして、俺がなんとか玉ねぎを切り終わった頃に、聖女様のことを見ると何故かまだ皮剥きをしていた。俺は流石に疑問に感じ、聖女様に尋ねた。
「あの、畑山ってひょっとして…料理作ったことない?」
「…一応、調理実習のときに」
「ってことはそれ以外ないんだな」
「…今日一応作りました」
「あれが初めてか…」
俺らの間に気まずい空気が流れる。俺は空気を変えるために慌てて口から言葉を吐き出した。
「初めてだったら、あれ、凄いって。普通はあの、ほら、漫画とかでよく見るよくわかんない黒い謎の物体を生成するから…」
俺は言いながら絶対に違うことを言っていることに気付いていた。ただ、俺は止まれなかった。言い終わってから俺は馬鹿すぎる自分を呪いながらその場にうずくまってしまった。また、同じことをするのか…。
その俺の肩を慰めるように聖女様が叩いて言ってくる。
「蒼人くんが不器用なのは知ってますし、私のことを気遣って言ってくれているのも分かってますから」
「…」
そう言われた俺は本当に自分が情けなくなった。聖女様が空気を変えるようにわざとわしく明るい声を出して言った。
「ちょっと暗くなっちゃったね。続き作ろう!」
「ああ…。じゃあ、俺が一回やってみせるから…あっ…」
俺は言いながら左手が使えないことを思い出した。
聖女様もそれに気付いたようで一瞬悩んだ様子を見せた後に俺に言ってくる。
「じゃあ、私が持つからそれを蒼人くんが右手で皮剥いてみてよ」
「えっ?」
いや、普通に言ってるけど…、それ難しくないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます