第2話 私流余生と読書の話
余生を送るには現代社会では微妙な年齢だが、僕本人はもう人生は余生に入ったと考えている。五十代で、と思われるだろうが、僕が学生だった昭和の頃には定年退職の年齢って、これが普通だったはず。
嵐のような三十代を終えて、何も残っていない燃えかすのような四十代からようやくゆっくり歩き始めたのが今である。
ちょうど三十の初頭、唯一無二の親友を病で失った。その後病気になった我が子の世話をして十年以上を費やし、途中から勤務していた大学を辞めて療育活動に専念した。あの十年ちょっとの期間はちょうど三十歳から四十代前半だった。世間の人たちは一番の働き盛りの頃だ。その後、妻との離婚により独り身となって今に至る。やれることや人のために動くことは随分とやった感があるので悔いはない。周りの人もほぼ文句はなかろう。潔く言えば、自分の使命は全うしたのではないかと思う。もう人のために動く余力もない(笑)。
子供の頃から馬鹿正直で損をすることが多かった(笑)。でもそんな性格なので、振り返ってみれば理解してくれる友人も多かったのだと思う。自分が出来る範囲での正義感も持っていたので、助けた人が自分の難局を察知して助けてくれることも多かった。ことわざの「情けは人のためならず」そのままだ。文字通り、多くの人に助けられて生きてきた僕だ。知らぬまに人様に迷惑をかけてはいまい、と思いたい(笑)。
今は年齢も年齢なので正規採用よりも契約社員のような期間雇用の方が気が楽である。いまさら課題を渡されて資格試験や能力開発などを遂行できる年齢でもない。雇用する側とて、こんな者にそれを望んではおるまい。かといって、若者のように、仕事で迷惑をかけて良い年齢でもないので、静かに正確な仕事を遂行できる職種に就くことが相応しい。そして穏やかに、足手まといにならず、簡潔な仕事をする方が今の僕の性分には合っている気がするのだ。
そんな下地を持つ僕なので、今のこの生活は既に余生に近いと感じながら過ごしているということだ。特に未来に対する夢もなく、楽しみもなく、面白くもない生活だ。だからといって毎日が不快な人生というわけでもない。こうして文章を書いているだけでわずかに楽しくなる。気負いのない人生というのもそう悪くない。全てが平坦な平常心だけの毎日。
若いときのようにおなかを抱えて笑ったり、馬鹿話に興じるような時間を持つことは出来ないけど、心の落ち着きとゆとりある時間を送ることは適度な心の余裕を僕にもたらす。これで僕の人生はなどは十分だ。
僕の日常。それは日用品の買い物に悩み、夕食を何にするかを考え、天気予報を見て洗濯や布団干しの日程を考え、日ごと順番に部屋の部分毎に掃除をしていく平坦な毎日。それが穏やかに過ぎる安堵感が嬉しい。
後は物書きの趣味に興じる。平坦な生活の中にも、チャンス、空想力や文章力を授けてもらえれば、この上ない至福の時間だ。
高校生の時からショートショートの作品を書き始めて、大学生の時は同人誌のメンバーにも加わった。あとはずっと小説のコンテストに投稿して、音楽と文学を心と生活の礎に生きている。その心情は十代から変わっていないような気もする。ある意味では、僕のレベルでという限定付きだが、初志貫徹しているのかもしれない(笑)。
心を穏やかに、おかげさまという気持ちを胸に、幸せがどんな形にせよ、僕の元に訪れることを楽しみに生きているのが僕流の余生である。
眉村卓さん、筒井康隆さん、星新一さん、赤川次郎さん、内田康夫さん。この五人が現代作家で若い頃によく読んだ小説家だ。前三人はSFと短編小説の名手、後者は推理の名手である。ポアロやマープルと言ったクリスティやホームズのドイルも翻訳物で結構読んだと思う。ホームズはロンドンの記念館にも行ってしまったくらいなので(笑)。あとはベルヌとOヘンリーがお気に入りだった。詩歌なら高村光太郎、朔太郎、犀星、ワーズワースかなあ?
そして音楽は、マッカートニーとナイアガラサウンド、これで僕の青春は語れるのかも知れない。仲道さんと小山さんのピアノの音も青春末期の記憶に残る。
少し真面目な内容で今回は書いたが、いつもはもっとシニカルな、少しだけおちゃらけた文章を書くことが多い。まあこんな感じの文章に、だんだんと慣れていって頂ければ僕も嬉しい。拙作、小説もよろしく。
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