第6話

 アンデッドの神を自称する、メヴィアと名乗ったその女を一言で形容するならば、彼女自身の言葉を肯定するように、正に女神だ。

 理性を溶かす甘い声、一糸まとわぬ美しい肢体、白い長髪はこんな森の中であるというのに土埃1つ着かずに美しさを保っている。その髪の奥から覗く顔立ちは、美しくも可愛らしくも見え、神秘的で、しかしどこか妖しい色気を漂わせていた。


 しかしながら、そんな彼女の身体は痛々しいまでの風貌。

 全身の表皮は剥がれ、赤と黒の交じり合う血に染まっている。出血はしていないようだが濃厚な血の匂いを漂わせるその体は、徒人が目撃したならば神々しさよりも先に吐き気と嫌悪感を感じるであろう。


 それは目撃したのが徒人であれば、という話ではあるのだが。


「あら? あらあらあらっ!? これは嬉しいですねっ!」


 彼女のその匂いに刺激され、活動を活発にした俺の臓器。どういう訳だかそのことを察したようで、メヴィアは俺の腹部を見つめて嬉しそうに声を上げた。


「な、なんだ」


「いえっ、嬉しいなと思っただけですよっ? だって、これってそういうことですよね? ワタシの容姿でしょうか? それとも匂い? いずれにしてもそれだけでこんなに反応してくれるなんて、ワタシとしてはとっても嬉しいですっ!」


 そう言って、彼女は俺に歩み寄る。

 その吸い込まれるような瞳で見つめられ、俺はヘビに睨まれたカエルの如く動けなくなる。

 威圧感……いや、これは畏敬の感情だ。彼女が自身よりも圧倒的に上位の存在であると。そう本能が屈服しているのだ。


 無意識のうちに俺は、右手に握りしめていた刀を取り落としていた。


「ふふっ、存外可愛らしいものですね」


「うっ……」


 目と鼻の先、というほどの距離まで近づくメヴィア。彼女はそっと、俺の腹部を撫でさする。

 その感触に、至近距離まで迫ったことでより濃密になった血の匂いに。むせ返るような臭気に、彼女の手のひらが触れている腹部の奥で、胃袋が苦し気に悲鳴を上げた。


「飢えていますね? この感触からして……もしかしてアナタ、人間を食べたことがないのですか?」


 慈しむように腹部に触れてくる。

 それに呼応するかの如く、撫でられる動きに合わせ俺の中で衝動ともいえる欲望が活性化した。


 食欲だ。目の前の肉を食らいたいという純粋な欲求だ。


「ぐ、ぅっ」


「何故我慢しているのですか? アナタはアンデッドでしょう? 人間を食べるのは自然なことですよ。まあ、アナタの種族であれば他のモノを食べていれば死ぬことはありませんけれど……それじゃあ満たされない。違いますか?」


 分かるのか。俺の種族のことも。


「そんなに不思議そうな顔をしないでください。分かりますよ、当然ですっ。だって、ワタシは神様なんですからねっ?」


 楽しそうに笑うと、彼女は俺の耳に口元を寄せて囁いた。


「いいですよ? 食べても」


 それは、呪いのような言葉であった。砂糖菓子のように甘く、鎖のように重い呪いの言葉であった。


「な……何を、だ」


「決まっています。私を、ですよ?」


 その言葉に、自身の内の獣性がさらに肥大化した。


「人間のそれと同質、とはいきませんけれど。それでも、結構美味しいと思います。だって、神の体ですもの。アナタ達アンデッドの神様の体……とっても魅力的だと思いませんか? ああ、そうです。食欲だけで我慢できないというのなら、その後も好きにしてもいいですよ。そういう欲求も満足に満たせていなかったでしょう?」


 優しく、穏やかに、それでいて何が嬉しいのか隠し切れない喜びを声に滲ませて。

 淫猥な色を仄めかす囁きを彼女は続ける。


「勿論、同時にだってかまいませんよ?アナタもアンデッドであれば知っている通り、ワタシ達は痛みを感じにくいですから。お行儀は悪いかもしれませんけれど、食べながら犯してもいいんです。男の子って、そういうのが好きでしょう? 沢山食べるのも、エッチなことをするのも。いいんですよ? 欲望に素直になっても」


 右腕を掴まれ、裸体を晒す彼女の胸元へと引き寄せられた。血で湿った柔らかな感触が手のひらに広がった。


「そうですね、まずはおっぱいでも食べますか? 他の男のアンデッドが女の人を襲う時に食べていたのを見たことがあるんです。好きでしょう? おっぱい。想像してみてください。今、手のひらで触れているここに、歯を突き立てる感触を。口の中に柔らかさと血の味が広がる感触を。皮膚を裂いて、それを噛みちぎる瞬間を、想像してみてください……そうしたいでしょう? 食べてみたいでしょう?」


 甘く、柔らかく、何処までも淫靡に。

 彼女の声が脳へと届く度、飢餓感が広がっていく。暴力的な衝動が思考を、理性を押し流そうと迫ってくる。


「――あ、あれ?」


 しかし、しばらくの間囁いていた彼女であったが。


「あれ? おかしいです……どうして食べないのですか?」


 俺が衝動に耐えたまま動かないでいると、不思議そうにそう呟いた。


「どうして? そんなにワタシは魅力がありませんか? 美味しそうと思えませんか? エッチだと、そう思えないのですか? ……おかしいです、空腹は感じているのに。こんなはずでは……」


 突然動揺を見せるメヴィア。その声色からは、甘さも淫靡さも感じられない。ただ可愛らしいだけの女の声だった。


「べ、勉強不足だったな……」


 欲望に押しつぶされかかっていた理性と知性を奮起し、なるべく皮肉気に、敵対的な色を乗せて俺はそう口にした。


「勉強不足、ですか?」


「どんなに『統率力』が高くとも、リーダーユニットは適切なイベントを熟さなきゃ支配できないんだぜ?」


「『統率力』? リーダーユニット?」


「なんでそこで疑問形なんだよ。ステータスの1つだろうが」


「ステータス、というのも良く分からないのですけど……」


「…………」


「あ、あれ? ワタシ、おかしなことでも言いましたか?」


 目の前でワタワタと困惑したように振舞う彼女からは嘘の気配を感じない。先ほど感じたカリスマともいえるような雰囲気も既に霧散していた。ただ顔が良いだけの女でしかないように思える。本当に分かっていない、のか?


「お前、プレイヤーキャラだろ? アンデッドや人間のユニットのステータスを見れたりするんじゃないのか?」


「プレイヤーキャラ、ってなんですか? ええと、ワタシはただの神様でしかないんですけれど……そんな不思議な力は持っていません、ごめんなさい」


「……そうか」


 いや、考えてみれば当然か。


 ここはどう考えても『アンデッド・キングダム』の世界ではあるんだが、そのゲームそのものって訳でもないのだから。移動だってクリック1つではできないし、飯を食わなければ腹が減る。似てはいるものの、ここは何処までも現実だった。

 だから、たとえ主人公と呼べるプレイヤーキャラであっても、ゲームでは可能であったステータスの閲覧なんかは出来ない……そもそも数値化されたデジタルなステータスなんて概念は存在しないのかもしれないな。


「ええとぉ……怒りましたか?」


「うっ」


 上目遣いで、媚びるような視線を向けてくる。思わず身を逸らそうとしたが、背後には樹木の太い幹があるため逃れられない。


 先ほど、メヴィアが行ったのは『支配』である。


 これは自身より下位のアンデッドを支配下に置きコントロールする際に必要となるコマンドだ。自身の『統率力』が高く、相手の『知性』が低いほど成功しやすい。また、対象によっては特定の行動によって成功率を上昇させることが出来る。飢えているアンデッドに食料を差し出す、特定の相手に恨みを持つアンデッドには復讐の援助を掲げ交渉する、等である。

 要するに、アンデッドを仲間へと引き入れるための行動ということだ。


 最終的に『統率力』を高めれば大抵のアンデッドを従えることが可能ではあるが、ゲームシステム上の例外も存在する。

 それが、公式にはリーダーユニットと呼称される各種アンデッドに数名存在するネームド個体に対して、だ。


 リーダーユニット達は、名前持ちのリーダーだけあって能力値であったりグラフィック面であったりと他のモブ個体と比べかなり優遇されている。当然、仲間に引き入れることが出来たらゲーム攻略においても大活躍。全員ではないのだが、中には専用のそういうシーンまで用意されているものも存在するため、そっちの目的であっても是非仲間に引き入れたいと思ったプレイヤーは多いだろう。


 しかし、当然そういう特別なキャラクターが他のモブ同様にステータスを上げるだけで簡単に支配できる訳もなく。

 作中ではおつかいであったり特定の地域で虐殺を行ったりと、数段階に渡るイベントを熟すことでようやく仲間にすることが出来た。


 フラグ管理という防壁によって、彼らは支配から守られていると見ることも出来る。


 ……この世界で、その防壁がどこまで意味を持っているのかは怪しいのだがな。

 メヴィアの言葉を受けて刺激された衝動が彼女の支配によるものであったのか。それとも、それは純粋に俺が飢えていたが故の欲望であったのか。俺自身判断できない。

 強がってはみたものの、彼女に『支配』されない保証などどこにもないのだ。


「やっぱり、飢えにかこつけていきなり支配しようとするのは良くなかったですよね……えへへ」


 バツが悪そうに、彼女は目を逸らしながらそう呟いた。

 その様に、少々毒気が抜かれる。


 頭では警戒すべきだと分かっているんだが……それでも彼女を見ていると、自然と気が緩んでしまうな。

 その理由は分かりきっている。彼女が、メヴィアが『アンデッド・キングダム』作中登場キャラクターにおいて最推しだからだ。

 外見が、設定が、CVが。その全てが俺の好みど真ん中であった。ゲームをやりこんだ動機の半分くらいが彼女のためであったと言ってもいい。それくらい惚れ込んでいた。最高に好みのヒロインだった。


 ……プレイヤーキャラだからあんまりヒロインって感じもしないし、アドベンチャーパートでほとんど話すこともなかったからどんな性格なのか正直よく分かってないけど。


「……それで、どうしてだ」


「ほへ? なにがどうして、なんですか?」


「俺の所に現れた理由だ」


 流石に、この出会いが偶然だとは俺には思えない。

 彼女は俺の種族のことを分かっているようであった。出会い頭にこう言っていたからな。『特別なアンデッド』、と。


 ……俺の種族は弱小アンデッドだが、確かに特別だろう。原作では仲間にすることによってゲーム難易度を大幅に低下させることが出来た。


 この世界におけるゲーム攻略とは、即ち人類滅亡だ。

 いくら推しとはいえ、絆される訳にはいかない。


「ああ、そうでしたそうでしたっ! あまりにも熱い飢えた視線を送られてしまったので、つい忘れてしまっていましたっ」


 はいどうぞ、と。それこそなんてことないものを手渡すかのように。

 何処から取り出したのか、彼女が差し出してきたのは腕であった。


 痩せた男の左腕だ。肘から指先までの部位である。切断されて間もないのか、未だに傷口が湿っている。誰かに踏まれでもしたのか、指や前腕の骨が折れてしまっており一部は肌を突き破って露出していた。


「これ、アナタの腕ですよね? 落とし物です、拾っておきました!」


 差し出されたそれは、酷く傷ついてはいたものの確かに俺の左腕だった。


「おっと。このままくっつけたりしたら痛いですよね? いくらワタシ達アンデッドが痛みに鈍感であるとはいえ、それでも痛いのは嫌ですものね、サービスしておきましょうか」


「お、おいっ!」


 メヴィアは鋭く伸びた爪を使って、自身の右手首を切り裂いた。鮮血、とはいえない黒く淀んだ血飛沫が上がる。その漏れ出た血液を、彼女は俺の左腕に振りかける。


 すると、どういうことだろうか。傷ついた俺の左腕は、奇妙な動きを始めた。

 肉が盛り上がり、骨が伸び、かと思えば小さくなって。それは細胞分裂とアポトーシスを無数に繰り返す。まるでガン細胞と免疫系の戦いの縮図のようだ。


 次第にその肉と骨の蠢きは穏やかになり、それが収まるとそこには綺麗な左腕。


「ふふっ、大したものでしょう? 先ほども言いましたけれど、これでも神様ですからね? こんなことも出来るのですっ、ふんす」


 ムカつくほどのドヤ顔を向けてくるが、目の前で開催されたゴア表現全開のショーに俺はただ絶句するしかなかった。


「どうしましたか? さぁ、くっつけますから腕を出してください」


 未だ衝撃から立ち直れない俺の腕を掴んで、彼女はもう片方の手に持つ腕を傷口同士で合わせた。


「はい、これでくっつきました! もう落としちゃダメですよ?」


 そう言って手を離すと、本当に腕同士がくっついていた。手を握りしめてみると、しっかりと動く。感覚も正常であるように感じる。


「……落としたくて落としたわけじゃ、ないんだがな」


「もう、いけませんよっ? こういう時はまず、ありがとうと感謝の言葉を言わなくてはいけませんっ」


 ぷんすこ、と軽い怒りを露わにするメヴィアだったが、俺の腕の様子を見ると安心したかのように微笑んだ。


 その表情に、不覚にもドキリとしたものを感じてしまった。

 いくら最推しとはいえ、彼女は人を滅ぼす化物だというのに。

 そして、俺が絆されてしまえば人類の絶滅はほとんど確定してしまうというのに。


「さて、と。今回はこれくらいにしておきましょうか。怖いお姉さんも近づいてきているみたいですし」


「え……」


「こほん……何でもありませんよ? それではまた、近いうちに会いましょうね?」


 柔らかな、そしてどうしてだか寂しげにも見える笑みをその言葉と共に残して。あたかも空気に解けてしまうかのようにメヴィアの姿が霞んでいく。ゆっくりと、揺蕩うように。

 瞬きをした次の瞬間、彼女の姿は何処にもなかった。俺を食らおうとしていたあのグールの姿も消えている。


「どういうことだ、ホントに」


 狐にでも化かされたかのような気分だ。

 今起きた出来事は、それくらい現実感がなかった。


 だが秋風に残る血の匂いと俺の左腕だけは、彼女の存在が現実のものであったのだと主張している。

 夢ではないのだと、そう語っている。


「……グールにまで育っていたな。ゲーム開始前だってのに。いや、グール程度で良かったと思うべきか?」


 ぼんやりと考えながら左腕の傷跡を眺めていると、遠くから聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。

 イカれた笑い声ではなく、純粋に俺を探す声であった。


――――


 その少年が大柄な女に抱えられていく様子を、遥か上空からメヴィアはつまらなさげに眺めていた。

 アンデッドの眼は光だけでなく熱をも捉える。故に、生い茂る木々は彼を眺める障害とはならなかった。


「――いいのかよ、行かせて」


「よいのです。彼が、そうしたいと思ってしていることですから」


 宙に浮かぶ自身の傍ら、闇から這い出るように現れた青年の言葉に、感情の伺えぬ平坦な響きをもって彼女は答えた。


「しっかし、アレがカミサマご執心の男か。オレにはどこがいいのか分からねぇな。どこにでもいるような弱小アンデッドじゃねえか。人間の群れに混じってんのは珍しいけどよ」


「ええ、そうですね。彼は弱い。アナタの言う通り、弱小アンデッドです。特別とはいっても、この世界においてはただの1ユニットにすぎません。無価値、とまではいきませんが、そう価値のある存在ではないでしょう」


「へぇ。それじゃあなんでカミサマはそこまでアレに執着してんだよ?」


「決まっているでしょう――彼が、ワタシにとっての特別だからですよ」


「特別、ねぇ。数百年を無駄にするだけの何かがあんのか、アレには」


「数千年を無為に過ごしてきたアナタが言いますか。それに、彼のための歳月であればワタシにとって無意味などではありません」


 野性味溢れる顔立ちには疑念が浮かぶ。

 彼は、地上にて運ばれていく少年とは真逆とも言える風貌をしていた。

 短くワイルドな金髪に真っ赤に染まった灼眼。2メートルは優に超える体格は筋肉質で、表情は常に自信に満ちているかのよう。背中からはコウモリを思わせる一対の翼を生やしており、それをゆっくりと羽ばたかせていた。


 彼もまたアンデッドであった。

 それもヴァンパイア、その中でも始祖と呼ばれる上位者だ。


 グールと比べ遥か上位に位置するアンデッド。そんな彼に、無感動に、無表情に、無遠慮な態度でメヴィアは接する。


「理解されない、ということは分かりきっています。人間も、アンデッドも。この世界の誰もが彼の価値を理解し得ないでしょうね」


「それはカミサマがカミサマだからか? 徒人とは異なる価値観、考え方だからか?」


「いいえ、違いますよ。それはワタシが――女だからです」


 その答えに、青年は思わず吹き出す。


「ふはっ、なんだよ。もっと高尚な理由かと思えばただの色ボケか」


「いけませんか?」


「いいや? むしろ小難しい理由を並べられるよか好感が持てるね」


「あら、ありがとうございます。けれど、そう口説かれてもアナタに靡くようなことはありませんよ? 心に決めた方がいるもので」


「口説いてねえし」


 『アンデッド・キングダム』の主人公、プレイヤーキャラクター。

 そのメヴィアというアンデッドに与えられた役割は、神であることだった。


 製作陣は彼女に、アンデッド達の願い、欲望が具現化した偶像の支配者という役割を与えたのだ。

 神であるが故に、アンデッド全てを支配して人類すべてを飲み込むような災厄をふりまける。そして神であるが故に、全てのアンデッドが滅びぬ限り、彼らの欲望から何度でも復活する。


 人類にとって最凶最悪のアンデッド。それがメヴィアであった。


「つーか、よくあんな演技出来るよな、カミサマ」


「演技、ですか?」


「演技だろ。ああも媚び媚びの態度してくれてよ。神の威厳なんてまるでない、見ているこっちが恥ずかしくなるようなやつをよ」


 先ほど少年の前でぶりっ子染みた甘えを見せていた神に、青年はそう苦言を呈する。恋や愛などとうに忘れた老獪な彼は、先ほど繰り広げられた場のあまりの甘さに吐き気すら覚えていた。


「……多少発言に嘘を混ぜたことは事実ですが、態度を変えた覚えはありませんね。恥ずかしくなる、とはどういうことでしょうか?」


「嘘だろお前」


 真顔のままそう問うてくる彼女に、彼は心から引いていた。

 あの態度、まさかの素かよ、と。

 どれだけアレに首ったけなんだコイツ。


「うっ、ご、がっ……おぇ」


 問いかけに青年が答えないでいると――あるいは、そもそも答えなど欲していなかったのか――メヴィアは口から1巻の巻物を吐き出した。


「――ふぅ」


「……毎度のことだが慣れんな。その気色悪い取り出し方はどうにかならねぇのか」


 青年の言葉を無視し、彼女はその巻物を開く。


「ええと、ここですね。ハーフアンデッド。アンデッドに孕まされた母体、あるいは妊婦が後天的にアンデッド化した場合にごく稀に誕生するアンデッド。リーダーユニットはナナシ……」


「趣味の悪い産まれ方だな」


「アンデッドであれば、その生誕は多かれ少なかれ悪趣味ですよ」


「違いない」


 メヴィアはゆっくりと、その巻物に記された彼の情報に目を通す。

 無表情、無感動。しかしながら、どうしてだかその表情は柔らかく微笑んでいるようにも見えた。


「『  』、ワタシの神様……待っていて、くださいね?」


 隣に佇む青年にも聞こえない程の小さな声で彼女は呟く。


 彼女が手に持つその巻物の背表紙には、焦げ付くような文字でこう記されていた。


 『アンデッド・キングダム 攻略情報7.txt』

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