大親友に裏切られた私は公爵でもある魔術師に頼まれてハーブ栽培をしたら女軍師としてヘッドハンティングされ溺愛?~死の森に放置されたけど逆にスキル開花で人生好転する模様~
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与えられた使命
プロローグ
「紫水晶があんなに光っているわよ」
向かい側に住むハリスさんの奥さんが、震えながら窓に置いてあるアメジストを指して呟いた。あのアメジストは、顔なじみ医術師から酒場の開店祝いにと頂いたものだ。
ハリス夫妻は不思議な人だ。若い頃、旅芸人として各地を転々したという。そして、ありとあらゆる言い伝えや神話を聞いたそうで、私たちにも教えてくれる。
紫水晶、つまりはアメジストが光った時、それは災いの知らせだという話を思い出したのだろう。確かに悪いことが起こりそうな胸騒ぎを私も夫もしている。けれど、それが終わりの始まりだという確信に近い予感も同時にしていた。
「あなたには不思議な力がある。そして、娘はさらに強力な何かを秘めている。あちこちで聖女や魔術師に会ってきた私が言うのだから間違いないわ。もっと自分のカンを信じなさい」
ハリスさんの奥さんはこれから訪れる運命を思い、寂しげな表情を浮かべた。どうやら私たち一家は死かそれに近い状況に追い込まれるようだ。
「……ご忠告ありがとうございます。どういうわけか、我が家で育てているラベンダーやハーブ、そしてハーブ酒をハリスさんに預かってもらいたい気分なのですが」
「えぇ、ええ。命にかけてでも守りぬきますよ」
家の中から乾燥したハーブや植木鉢で育てているハーブを運び出した。娘に見られると何かを勘づかれる。そっと、静かに運び出そう。
「どうしたんだ?」
暗がりから夫が顔を出してきた。普段は身につけない放浪を続けていると言っていたゴブリンから貰ったお守りのペンダントをつけている。彼も何かを感じているのだろうか。
「アメジストが光っているのをハリスさんの奥さんが心配して」
「……なるほど」
「何かあったらいけないから、ハーブ類などを預けようかと」
「オレも手伝うよ。ただ、気づかれないように」
「そうね」
街のパン屋さんに納めている乾燥ラベンダーは、ハリスさん経由で渡してもらおう。そして、なぜだろう。貯蔵庫の辺りにカモミールの花びらを撒きたい気分になってきた。
「オレが全部ハリスさんに渡しておく。やるべきことがあるなら、やってきてくれ」
「ありがとう……」
運搬作業を夫に任せ、酒を保存しておく倉庫を開けた。ここが何かとても重要な場所のような気がしてならない。
「娘を守ってください。何があっても、何があっても……」
そう念じながらカモミールの花びらを一枚ずつ取り、床に落としておくと娘から災いを遠ざけるような気がした。
「ハリスさんに全てお願いしてきた。もう遅いから寝よう」
「……そうね。寝ましょう」
寝室に入った夫が一瞬息を飲んだ。何かあったのだろうか?
「あぁ、アメジストが消えてしまったよ」
さっきまで光り輝いていたアメジスは跡形もなくなくなっていたのだ。
「どういうことかしら。災いが起きないように身代わりになったのかしら?」
「きっとそうだよ。明日ハリスさんから植木鉢とか取りに行くか」
「大変な作業になりそうね」
私はこれから太陽が出るまでの間、何事もなく無事に朝を迎えられることを無性に祈りたくなった。
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