カベ、進めよ

おう カベのせいれいとして

うぬら ニンゲンに

言わねばならぬ。

わしが すべてのくるしみの

根源であると……


まず、わしには詩の才がのうて。

平たいフミになったこと。

わびよう。



おう カベっちゅーのは

うぬの 前にあるものじゃ

見えるか 見えぬか

そんなことははなから 問題でない

うぬを まもり

おう そしてとじこめるものじゃ


うぬは じぶんの 性根に

ぜつぼうしたことがあるか?

うぬは おのれの おこないを

悔いて こころがはりさけそうに

なったことは あるか?


おう カベっちゅーのは いつもただ

そこにあるだけじゃ。


ぶつかるのは うぬらの勝手。

こわそうとするのも うぬらの自由。

のりこえるのは うぬらの責務。


うぬらに告げん カベという ふたもじすら

解らぬという顔をする うぬらに告げん


おう カベっちゅーのは とどのつまりただのカベじゃ


つかうも こえるも むぼう承知で たたかうにも

そこにカベの文句のいいようはない

あるのはなにもいわぬカベと

うぬらだけじゃ


うぬらは うぬらが うぬらだけは えらばにゃならん

こえるか よけるか こわすか それとも。

しっぽをまいて にげだすか。


カベはうぬらにせまっていくぞ

うぬらがわしに つっかかるんじゃ

どけ どけ

どけぬ。わしはただ在るだけじゃというに

うぬらはたたくだけで なにもせぬ。


うぬらだけじゃ

うぬらがやらねば うぬは カベにはさまれてしまう

はさまれて しんでしまうんじゃ



カベを こえよ。

うぬらはうぬらのちからが ある

うぬらは それを つかおうとはせぬ

わしは かなしいきもちで みているだけじゃ


カベを よけよ。

うぬらはうぬらのあたまが ある

うぬらは それを つかっていきる

せまるカベをいなし すすむものの

とうとさを わしは しっておる


カベをこわせよ。

うぬらはうぬらの剣が ある

うぬらは わしと たたかうのじゃ

わしは うごかぬ おれるのは そっちじゃと

そのけんでは わしを きれぬと

なにもいわずに 立っておる

それでも あらがうものたちが

しあわせなのだと しっている

わしは はっきり しっている



わしは古今東西あらゆるモノを はさんできたのだ

いつも くるしく うめくうぬらの

ひめいをきいて わしはおもう。

だれか わしの代わりに 哀れなうぬらを

救えぬものか


救えぬ。カベの前にはしょせん ひとりぼっち

だれも助けてはくれぬ 声ばかりが 聞こえてくるのじゃ

うぬを支え うぬに託し うぬを恨む 声が!


最後に。

わしはうぬらがわしに打ち勝ったとき

いちばんうれしい



カベ、進めよ。

カベのせいれい

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