沈んじゃう 僕らの舟が 沈んじゃう

ネズミはとうに 逃げ出しちゃった

指先ほどの 木屑に乗って


舟底の 小さな穴から 水が来る

なんどふさげど 穴は消えずに

僕だけ必死に 手を動かして

凍てつく水を かきだしている


冬の夜 穴があいた 舟の中で

げらげらわらう 人たちがいた

どうしてあなた 笑っているの


笑う人 ただひたすらに 笑うのだ

だいじょうぶ この舟は沈まない

なぜと聞いても 答えはかえらぬ

かれらはしらぬ 暗い未来を


膝濡れる 海水がもう 登り来た

つめたいよとは いえるがしかし

笑う人々 笑って飛ばす


笑う人 震えながら 言いました

だいじょうぶ 沈まないから

だいじょうぶ 誰かがきっと

なんとかすると いったのです


だれかとは だれのことかと 問いかけて

彼らは聞こえぬ ふりをしたのだ

もうすぐ沈む この船室で


ある人は 最後のポーカー 逃げ出した

甲板の上で 震えて漏らす

誰か助けて もう遅いんだ

全ては君らが なにもしないから


ゆっくりと 僕らの船が 沈んでく

波がゆらりと 大口開けて

月の明かりに 見守られてる


さようなら 僕は沈む 最後の一人

笑う人たち 海へと消えた

何かをすれば 生き残れたのに

しらなかったの あの穴のこと


きっとそう 知らなかったよ 笑う人

知ろうともせず わらっていたんだ

自分のいるとこ もう ないのに


西の果て 東の果てにも 浮かぶ島

沈むこの島 僕だけ残る




シマのせいれい

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