唐突にシリアス
「かわのーながれーはーむげんのごとしー」
「ひとつぶきらめくーみずのつぶー」
「はああーきよらかーえっちらのみぃーずー」
三人で気ままに川沿いを歩きながら進む。
結局ぽちの席は私だけが乗ることになった。二人が騒ぐから。あとぽちの咆哮で二人とも気絶するんだよね。
だから大豆と小豆にも鞍をつけて三匹で進んでいる。
「ここまで順調に来ましたね、主どの」
「そだね、一度山賊に襲われたくらいか」
「全員首を切り取って縄で足を縛り逆さづりで木に吊しましたけど、一人だけ逃がしておいて良いんですか?」
サキの疑問はもっともだ。
「見せしめは広まらないと意味がないからね」
私は全てに寛容なわけではない。
さて、ここは川が大地を削り取ってグランドキャニオンのような渓谷の形状になっている。ここを抜けると今度は平原が広がっているそうだ。
川沿いにかろうじて道があるためそこを進んでいる。暇なので三人で歌を歌ったりしていた。
そのとき
ズギューーン
「敵襲!!」
「ガオォォン!!」
私めがけて真っ黒な生物が突撃してきた。
とっさに棒で殴り返して難を逃れる。
跳ね返された生物は二足で立ち上がると、
「グアアアアアア!!」
こちらに咆哮し返してきた。
「叫んでも意味ないよ! ぽち!」
「グガァ!」
他のみんなは軒並み怯んじゃったけど、私とぽちは怯まなかったので突撃を仕掛ける。足場が狭いからぽちの最高速が出ないな。
「イセカイジン、イラナイ」
奇妙な生物――いや、真っ黒な人間は構えを取るとぽちの体当たりに合わせて蹴りを放つ。
巨大な力が交差する。
ぽちの体当たりと蹴りはほぼ同じ力で、ぽちの体当たりが止まった。
「まだ私がいる!」
騎乗からの薙刀攻撃。
真っ黒な人間は片手でガードする。刃が効かない!?
「刃が駄目なら棒で打ち抜くのみ!」
ぽちから真っ黒な人間めがけて飛び降りて、一回転しながらの棒の叩き付けを放つ。空中だと力入らないからね、遠心力を使う!
「ウオオオオ!」
真っ黒な人間は棒を殴り返す!
巨大な力が再度交差する。
今回は私の方が打ち勝ったようで、地面を削りながら後ずさりした。ただ殴った拳はあまりダメージが入っていなさそうだ。
「ガァ!」
間髪入れずにぽちの右前足のいぬぱんち。
「アマイ」
真っ黒な人間は左手を刃のように変形させると、なぎ払った。
「クゥン」
「ぽち! 引いて!」
私の声と同時に、ぽちの右親指と中指が吹き飛んでいった。
「その刃物、見たことある。覚えてる。忘れるもんか貴様、貴様!」
「師匠の仇だな!」
真っ黒な人間はにやりと微笑む。口の中から顔をのぞかせた、真っ白な歯が異様に光る。
「イセカイ、カエレ」
真っ黒な人間が左腕をまっすぐと私の胸元へ刺しつける。
そこに降り注ぐ無数の光の刃。
サッと飛び退く真っ黒な人間。
「させません! 『極上天使の極悪地獄』の力を見よ! ジェノサイドモードまで九〇秒!」
いつの間にか天使になっていたシャルが空から魔法を放っていた。なんか凄そうなモードチェンジもするらしい。
「ぽち様こちらへ! 応急処置をいたします!」
「わう」
少し後ろではサキが全体魔法で支援魔法をかけていた。力がわいてくるのはそのせいか。怪我を負ったぽちは任せるしかない。指が吹っ飛んだのは気になるが……。
「大豆と小豆はサキを守ってね」
「わん!」
「わんわん!」
こちらの布陣はとりあえず完成だ。
「私だってこっちに来たかったわけじゃないんだよ!!」
「『抗我増幅』作者様も別に異世界に来させたかったわけじゃありません! 主様を引いたトラックが悪いのです!」
シャルから攻撃魔法の援護射撃をもらいながら真っ黒な人間を叩きのめしていく。
サキの支援がかかっているこの場面、先ほどとはまったく展開が違う。
幾度も棒で叩かれた真っ黒な人間は胸をしたたかに突かれ、崩れ去っていった。
「勝った、師匠の仇に」
「まだいます! ジェノサイドモード完了! 『極上な破壊の悦び』」
無数の光の筋がシャルから飛んでいく。
それ一つ一つがエネルギーの塊となり、周辺にいた数体の真っ黒な人間を破壊していった。
「ふう、これで周辺はひとまずいません」
「ありがとうシャル。本当火力だけはあるね。サキ! ぽちの様子は!?」
サキは暗い顔をしてゆっくりとかぶりを振り、
「根元の関節部分からざっくり切り取られてます。縫合は難しいでしょう」
「そんな……」
「わうわう」
「自分はモンスターだから自然と生えてくるって? でもその間歩けるの? 何年かかるの?」
「わう……」
サキが何か気難しい表情でうんと頷いている。
「魔導義肢を取り付けましょう。自由都市サキに何個か素体はあります。次の街でメールを発射します。王都で受け取れるように手はずを整えますね。モンスターの体が上手く融合するように国有数の魔導技師を揃えさせます」
「それでぽちは完全に治るの?」
「完全とはいきません。でも普通に歩けるようになります。全力走行と戦闘は難しいかもしれません」
「そっか、完全じゃないんだ」
「動けない今の状態で復活を待つよりは断然良いと思います。本当に何年かかるかわかりませんからね」
そうだよね。うん、そうだ。じゃあまずはどこかの街へよってメール打ってもらわないと。
失った指の箇所をぐるぐると包帯で巻いて、化膿止めの魔法をかける。
早く移動することは出来なくなったけど、のんびり歩くのもまた一興。
王都までのんびり行きますか。
「師匠の仇、討ち取ったけど、なんなんだあれは……」
「世界の異物排除機構かもしれませんね。この世界を一定に保つために超自然的に存在している機構です。作者はそういうのを作った覚えはないはずなのですが、自然と生まれ出てしまった。物語は常に一点を目標として動きますから」
なんにせよ、みんなで戦って討ち取った。次は私一人でも討ち取ってみせる。絶対に。絶対。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます