右ストレートでぶん殴る。思いっきりぶん殴る

 熊はじっとして動かない。唸るだけだ。

 私は牛の尻を叩いて逃がそうとする。

 牛が動いた瞬間に熊が襲いかかってきたが、棒を振って牽制する。

 にらみ合いが続く。やべーしにたくねー。

 数秒が数刻のように感じる。やべーしにたくねー。

 どちらも動きを見あぐねているようだ。やべーしにたくねー。


 私の服装はジーンズに白いシャツ、そこに革鎧がついているくらいの格好。あんまり良い防護体制とは言えない。〈守〉をつけていると言っても当たればごっそり精神力を持っていかれるだろう。


 まず私が動く。牽制の突きを放つ。熊は軽快に後ろに下がって回避。ガルルと唸る。

 それから何度か牽制をしたがそれを避けるだけだ。

 熊は攻撃をしてこないか? 一応〈瞬〉に切り替えて思い切り後ろに下がる。


 熊は後ろに振り向いて全力疾走していった。


 とりあえず今はなんとかなったか……。


「――と、犯人は凄く飢えた巨大熊です」


 村へ帰り村長に報告をする。


「そうか、人に被害が出なければ良いが」

「山には入らない方が良いですね。見境みさかい無く攻撃、つまり捕食しに来ると思います」

「討伐隊が来るまではお主が頼りだ。すまないがよろしく頼む」

「守勢にまわることになりますが、頑張ります。終わったら特別ボーナスくださいね」


 牛に関してはこの時期は飼葉では無く放牧して新鮮な草を食べさせるそうで、飼葉の在庫が無いという。

 牛小屋に入れて完封といきたかったがそれは無理そうだ。


 熊との対峙に関して、数日は変わる所が無かった。が、今日、強烈な変化が現れた。


「ええ!? 牛小屋が壊されて一頭連れて行かれたですって!?」

「そうなんだ、朝牛小屋に行ってみたら放牧場側の仕切りが壊されていて、それで一番近くにいた小牛が枠ごと壊されていなくなっていて、血が点々と……」


 強硬手段に出たか。相当な空腹だったようだ。


 自分は小屋に堂々と侵入できる、自分と対峙するきつねは自分を殺せない。食えば食うほど力は回復していく。守っているきつねなんかすぐに倒せるようになる。


 これは味を占めるな。攻めないとどんどんと牛が死んでいく。牛だけじゃ無く人間もここには居る。


「やるとしますか……」


 夜間。


 牛を食いに堂々と熊がやってくる。

 その前に立って待っている私。

 熊は私を警戒して立ち止まる。

 前日小牛を食べたおかげか力がみなぎっているようだ。


「やあ、熊くん。今日はね」


 ――君を殺しに来たよ


 〈瞬〉を使い、今までとは打って変わってかなりのスピードで熊に突撃し、一気に懐へ入り込む。

 熊が右クマパンチを放ってくる。〈守〉で耐えきり、〈力〉で思い切り顎を棒で突く。のけぞる熊。顎からは血が滴り落ちてくる。

 いける。


 一度距離を取って、再突撃。

 熊は立ち上がって咆哮を上げる。ぐおおー

 気にせず次は熊の右手を棒でぶっ叩く。確実な手応えがあった。手先だけでも右を潰せたか?

 また一度後退。

 熊はしびれを切らしたのか右手の不利を悟ったのか、突撃してきた。


「ここだぁぁぁぁ!!」


 突撃に合わせ、全身全霊の精神力を〈力〉に込めて、棒に込めて、思い切り熊の脳天を棒でぶっ叩く!! ものを操る正確性は師匠にたたき込まれたシロモノだ!

 血しぶきが吹いた後、熊は私にのしかかるようにして倒れて痙攣し、動かなくなった。


「勝利。やりましたよ師匠。師匠の残した魔術の杖、グニャグニャ変形して、巻き付けた道具に精神力を流せるんですね」


 そう、熊がその分厚い脂肪を貫通して血液を流していたのは、魔術の杖の力を棒に流し込み、先端に私の魔力と精神力で鋭い突起を作っていたのだ。それで脳天を串刺しにして内部まで突起を侵入させ、突起を爆破、即死させたってわけ。

 最後の突撃で勢いそのままにのしかかられた私も負傷して動けないけどね、ハハッ。


 朝になって村は大騒ぎ。熊は死んでるし私は下敷きになってるし討伐隊が到着したし。

 討伐隊は数日山を探って他に犯人がいないか捜索するそうだ。危険動物討伐証はくれたけど。これで臨時収入だ、ラッキー。


「あ゛ー、作者教の作者様による回復は、D! N! A! に直接届くーびゃーさくしゃさいこー」


 作者教の神父様がいらっしゃったので回復魔法を唱えてもらった。しびれたぜ、さくしゃ。

 肋骨かなり折れてたからね。念力で深く刺さらないようにし続けたの大変だったわ。そういえば〈念〉は紫色だけど、現在の属性関係なく属性変化も無く使えるな。ふしぎである。念力はサイコパワーってやつ?


 さて、いろいろと書類作業もこなして、ポニーに乗って帰還。

 やっぱポニー最高っすわ。

 ポッカポッカパッカパッカ。尻尾ふりふり。


 そして街へ戻ってポニーを返したんだけど、ポニーを返す際の涙の別れは忘れない。


「ぽにー、またくるからなあ」

「ひひーん」

「ほら、また会えますからポニーから離れましょうねモナカさん」

「ぽにぃぃぃ」


 ひしと抱きついて離れない私


「いい加減離れなさい馬鹿きつね」


 職員さんにポカリと頭を殴られて、フギャッという声とともに引き剥がされたのであった。

 永遠の別れじゃ無い、また愛に行くよポニー。愛に。


 街の中央区にある立派な役所。バロック調かな? その役所の一角で討伐証や依頼の完結証などを引き渡し換金してもらう。

 身分証明書兼電子マネーになっている、地球の日本にあった免許証サイズの魔導カードにお金をチャージしてもらうのだ。マイナンバーカードって言うらしい。

 よっし、ひとまずは今回のお仕事終わり。追加の賞金が出たらまたここに来てお金をもらうのだ。



 仕事終わりにすることは仕事道具の補修と相場が決まっている。棒は返却しただけで済んだが服装が血まみれだ。熊の脳天から血が噴き出したからね、全身シャワーだったよやったね全く嬉しくない。

 ジーンズにシャツは新しくすれば良いけど、革鎧はそう簡単に修理するのは難しい。

 革は撥水加工していてもどうしたって水分を吸うからどうしたって血液臭くなる。ワイドブリーチでもあれば良いのかもしれないけど。とにかく、血液の匂いは野外ではかなり危険だ。ケモノがよってくる。

 つまり今のは使えない。防具はオーダーメイドだしそうそう簡単には作れない。



 どうしたものかねえ

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