座布団


 朝のゴミ捨て場付近や職場の給湯室、マダムの集まる喫茶店やタイムセール直後のスーパー横など。

 井戸ではなくても、井戸端会議は開かれる。

『ヒソヒソとした大声』や『周りが気付きやすい小声』という、特殊な表現能力も有する。

 女性陣の井戸端会議は、男性陣が近付きにくい雰囲気を放っているものだ。



 夜毎に幽霊たちが集まり、怪談会の開かれる香梨寺こうりんじ

 本堂の奥には小部屋があり、襖の隙間から暗い本堂を覗いている青年が居た。

 怪談会の準備を始めようとしていた、MCの青年カイ君だ。


『この前の法事で、自前の座椅子ざいすを持って来た人が居たでしょ?』

『結構ふくよかな中年女性だったわね。膝を悪くしてるとかって』

『そうそう。重くてつらいって、ぼやいてたのよ。重い人確定じゃない私たちが羨ましいって』

『人間に聞こえないものだから、いつも家では座られるたびに、重い重い! って、叫んでるんですってね。笑っちゃったわよ』

『大切に使ってくれるならまだしも、そうじゃなければ文句も言いたくなるもんね』

『あははっ、そうよねぇ』

『本当、わかるわぁ』


 クスクス、あははっと笑う声は、5人ほどの女性たちらしい。


『でも、私たちだって、お寺の本堂に置かれてる割に出番が多いわよね』

『幽霊は軽いなんて言うみたいだけど。霊的な重さってあるもんねぇ』

『そうそう。時々、すごく重い幽霊さん居るわよ』

『幽霊の重さって不思議よね』

『ペタンコなんて言ってくれちゃって。毎晩毎晩、使われてるんだから当然じゃないのよねぇ』

『利用者の少ない他所よそのお寺が羨ましいわぁ』

『あら、それじゃあ廃業の危機にひやひやするじゃない?』

『それも嫌だわねぇ』

『まぁねぇ』


 暗い本堂に、女性陣の笑い声が広がる。

 笑い声の出どころは、本堂の隅に積み重ねられた紫色の座布団の山だ。

 覗いていたカイ君は、

「うちの座布団たち、みんな女性だったのか……?」

 と、呟いたのだった。

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