主人公ヒロインを寝取ろうとしてざまぁされた悪役チャラ男、高校で地味女と仲良くなる。
惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】
第1話
ツンツンした黒髪に耳には複数のピアス穴を開けたチャラ男な俺、
「ま、遅かれ早かれこうなることはわかってたけどな」
先生からの用事を済ませて教室に戻っていざ帰ろうとしたらこれである。窓から茜色の夕陽が差し込む中、教室の俺の机には「死ね」「クソ野郎」「キモい」といったありとあらゆる罵詈雑言が書き連ねられている。きっとクラスメイトの誰かが書いたのだろうが、残念ながら犯人はわからない。中学の頃に散々見た光景だ。
俺はゆっくりと溜息を吐くと、先程保健室の先生に断りを入れて持ってきた消毒液が入ったボトルと雑巾、そして消しゴムを用意して早速ゴシゴシと机の落書きを落としていく。
「くっそ、全然消えねぇ……」
———かつて陽キャだった俺は親友の幼馴染を寝取ろうとして、そして失敗した。中学ではクラスメイトからはハブられ、孤立し、机の落書きはもちろん教科書の紛失、内履きに画鋲を入れるなど悪質なイジメのオンパレードを受けてきた。
寝取ろうとした事実が事実なだけに、俺は何も反論出来なかった。
だけど何よりも辛かったのは、当時怒りと嫉妬で親友を突き飛ばしてしまった俺を、好きな子が親友を支えながら憎悪の籠った瞳で睨んできたことだった。
その顔を、俺は一生忘れることはないだろう。
やがて中学を卒業した俺は金髪を真っ黒に染め、ファッションとして身につけていたピアスを全て外して過ごすようになった。高校デビューというわけではないが、誰も自分の知らないところで高校生活をひっそりと送りたかったからだ。
しかし何事も思い通りにはいかない。地元から離れた高校に入学したといえど、噂は当然流れてくる。結果、元々の目つきの悪さも相まって噂は教室中に浸透。仲良くしていた男子からは好きな子を横取りされるんじゃないかと全く話さなくなり、女子からは不潔、最低と距離をとられて中学時代のように孤立してしまった。
高校ではひっそりと過ごそうとしたのに、最悪の高校生活になってしまった訳である。
「良いよなぁ、ヤンキーはたった一度良い事しただけでがらっとイメージ変わんのに、俺なんか噂があるだけでマイナスだ」
そう言いながらアルコールを吹きつけた雑巾で何度も擦ると、やがて少しずつ汚れが落ちてきた。
悪い印象というのはそう簡単には払拭されない。
中学の出来事以来、どれだけひっそりと過ごしても、人助けや善行を重ねてもそれには一切の見向きもせず悪い方にみんな関心を持つ。きっと誰しも心の中には勧善懲悪を飼っているのだろう。悪役のその後なんて、その大半が興味ないに違いない。
「ふぅ、こんなもんか」
何度も何度も雑巾で机を擦り、ようやく文字が見えなくなってきた。手を動かし続けたせいで両腕に疲れと痺れが同時に襲い掛かってきたが、まだ後片付けが残っている。
今回は見つけてからすぐ行動に移ったので比較的早い時間で作業を終えたが、もし日が空いて油性ペンのインクが乾いていたらと思うとゾッとする。絶対に日が暮れていただろう。
「ま、結局また落書きされるんだろうけど」
自業自得。因果応報。別に誰にも言い訳するつもりは無いが、お先真っ暗な高校生活に再度溜息を吐く。そうして雑巾をゴミ箱に捨て、残り半分を切ってしまった消毒液のボトルを返しに行こうと教室を出ようとするも、突然扉が開かれた。
姿を現したのは、一人の少女。
「—————————」
真っ黒な長髪を三つ編みおさげにして瓶底のメガネを掛けている見た目がパッとしない女の子。俺が所属するこの二年二組のクラスメイトである。
名前は確か、
部活は何もしていない筈だし荷物もないのでもうとっくに帰ったと思っていたのだが、何か忘れ物だろうか。
「…………ねぇ」
「あっ、悪い」
俯いているせいで目元が髪に隠れて表情がよくわからないが、どうやら俺が目の前に突っ立っていた所為で教室の中に入れないようだった。
慌てて退けるも、彼女は何故か入り口から動かない。一体どうしたのだろうか、と不思議に思っていると、やがて野暮ったい顔を上げた彼女はちらりと俺の席を一瞥したのち、こう言葉を発した。
「鬼頭くん。親友の彼女を寝取ろうとしたって噂、本当なの?」
「…………っ!!」
碌に交流してこなかったクラスメイトによる突然の問い掛けに思わず顔を
(いきなり何なんだコイツ……?)
正直に言って気分が悪い。無口でおどおどしてそうな見た目の割に本人に直接遠慮なくずけずけと聞いてくる度胸は誉めてやりたいが、最悪な気分である。
何故かもやもやした気持ちを抱きつつ、俺は目の前の地味女を睨めつけながら憎々しげに言葉を吐いた。
「…………お前には関係ねぇだろ」
「それもそうね」
あっさりとそう返事した彼女は淀みない歩みで自分の席へ向かうと机の中から小説を取り出した。おそらくだが、帰りに忘れ物に気がついて本を取りにきたのだろう。
俺は肩透かしを喰らった気分になりながら動けないでいた。その間に引き返して教室から出て行こうとした地味女だったが、直前になって立ち止まる。
「それじゃあまた明日、鬼頭くん」
そう言ってそのまま立ち去る少女。三つ編みのおさげが揺れる後ろ姿を眺めながら呆気に取られていた俺だったが、ハッと正気に戻る。
「………………なんなんだアイツ」
“また明日”と言う辺り、嫌がらせに遭っている俺への嫌味だろうか。でなければわざわざ彼女と無関係な俺に噂の真意を聞いてなどこない筈だ。きっと腹の中では俺のことを嘲笑っているに違いない。
とはいえ、もうこれまで通り二度と関わることはないだろう。この時俺は、少なくともそのように考えていた。
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