第4話 あれから
シャワーを借りている恵に「タオル置いておくよ」と矢島は声をかけた。
「お前は相変わらず、お人好しだな。何で声かけた?」シャワールームから出てタオルで体を拭きなながら問いかける恵。
(相変わらず、綺麗だな····こいつは)質問は右から左に流れ久方ぶりに会った級友にドギマギしてしまった。
「矢島、人の話を聞いているのか?」
「ごめん、聞いてない」
少し呆れたが「ま、いいか」と呟いて恵は辺りを見回し
「パンツを貸してくれ」と訴えた。
「あんな所で何やってたの?」
矢島は新しいパンツをごそごそ探しながら質問した。
「これから人と会う事になってたんだがな、スッ転んで、ずぶ濡れになったからダメになったな。あっ、電話しなきゃな」
「お前、変な事になってないよな?」矢島は高校時代が頭を過って顔を強張らせた。
「あはは~お前が想像している事ではないよ。で、パンツはあったかい?」恵は乾いた笑い声を響いかせ再度パンツを要求した。
「ごめん新しいのないや」
「いいよ別に気にしない。何でもいいから貸してくれ」矢島の隣に行きタンスの中を勝手に漁り始めボクサーパンツをゲットしおもむろに匂いを嗅ぐ。
「わぁー! 止めろよ! 変態、貸さないぞ」矢島は唇を尖らせてパンツを取り上げようとするが恵は
「あー矢島の匂いだ」笑いながらフガフガと匂いを堪能した。
「バカ! ちゃんと洗濯してるよ !」
(こいつは、まっ裸で何やってんだよ。本当、変態)ますます唇が尖る。
「そう言えば電話するんじゃなかったの?」
「忘れてた」パンツを穿いて濡れたバッグから携帯を取り出した。
「石本です。本日20時からお約束でしたが、私の都合で申し訳ないのですが、お伺いできなくなってしまいましたので日を改めていただきたいのですが、桂木さんは大丈夫でしょか?」
(さっきまでパンツの匂いを嗅いでたのに、まともな社会人の会話をしてるよ)
「では来週ということで、すみません、ありがとうございます。よろしくお願い致します。失礼致します」電話を終えて安堵のため息をついた。
「そう言えば、お前、今何やってるの?」
「私はこの先にある大学病院の内科医やってるよ。で、お前は?」
恵の返答に納得した。
(やっぱり医者になったんだな····)
医者を目指し大学受験をした恵。大学からの恵と矢島は違う進路になり連絡も取らなくなった。
「自分が目指した職の内科医をしている。専門は循環器なんだが本来は肝か腎を診たかったんだよな~」と言われても矢島はピンとこなかった。
中学の時「誤診は許さない」泣きながら恵が宣言通りの職に着けたのは流石、有言実行の恵だと思った。
「和也の墓参り行った? 俺はお盆に行けた」
「そうか、私も仕事初めてからはお盆休みには行けたな。で、何処に勤めてる? 」
「やっぱりスイミングからは離れられないよ、駅向こうにあるスイミングスクールでインストラクターしてる」
「やはり河童は水場でしか生きられないんだな」
恵は「あはは~」と乾いた笑い声を上げた。
「来年のお盆はまた一緒に和也の墓参りに行きたいな」矢島の言葉に恵は微笑み返した。
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