追い掛けたはずだった ▲〈300字〉

「ハンマーを渡す。これで短刀を叩き壊してくれ」

 目に見える形で証明しろということ。探偵は事務所から出ていった。

「……」

 刀身は少し、黒ずんでいる。幾多もの犠牲者の、そしてあの殺人鬼自身のものか。

 指が切れるのも構わず刃先に触れて、あの鬼を、あの人を思い出す。

「……あぁ」

 ずっと探偵と共にあった、正義の側にいた。それなのに、どうして、あの人を忘れられない。

「ボクは貴方の名前も知らないっす」

 呼ぶべき名前も知らないのに、求めるのは──そういうことでは?

 一目惚れなんて、少女漫画の世界の話なはず。

 彼は死んだ。話すことも知ることもできない。

「……」

 立ち上がるボクが向かうのは、彼と初めて会った場所。


 そこで、ボクは。


◆◆◆


『きままにショートブレッド』オリキャラ、安助柳。過去編。そして現代へ。

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