連れ去る ☆〈400字〉

「声が大きければいいってもんじゃねえんだよ!」


 階段を降りていくと、怒鳴り声が耳に入る。

「……すみま、せん」

「逆に小せえんだよ!」

「すみません」

 そういえばこの建物、全国チェーンの居酒屋が入ってたな。そこの店長と従業員か。

 一度利用したがあまり雰囲気の良い店ではなかった。

「すみま……せん……」

『お楽しみ中の所、申し訳ありません』

 従業員はそんな風に接客してくれていた。

「ちょっとよろしいですか?」

 階段を駆け降り姿を見せれば、両者共に喫驚した顔を私に向ける。

「従業員の指導も店長の義務と思いますが、それにしては場所がよろしくない。あと、ご自分の顔を鏡でご覧になられては? 口角が上がっていますよ」

「なっ……」

 従業員に視線を向ければ、帰る所を捕まったのか私服姿。その手を取り更に降りる。

「あの」

「あそこはもう辞めなよ、間もなく潰れるさ」

「……辞めたらもう、どうしたら……」

 握る手に力を込める。

「うちに来なさい」


◆◆◆

 妻に先立たれたアラ還・銀杏田慶滋と、働く所働く所パワハラに遭ってしまう青年・小金井圭人。(前回の人達の前日譚)

 あったかい手料理を振る舞ってもらい、涙ながらにこれまでの人生を語られ、「君、私の家政夫になったらいいよ。大丈夫。いけないことでだけれど、蓄えはそれなりにあるから」と不穏な言葉で採用決定。

 のんびり隠居ライフを穏やかに送っていく。



 むかーし、ゲーセンの帰りにこんな現場に遭遇しまして(説教オンリー、なんか飲食店でキツイ香水を付けてはいけないみたいなことを)え、ここで? と思いながら通り過ぎたのを微妙に覚えてやす。

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