第39話 開会宣言

 翌日午後、俺とウィル、キャニスさん、クレア、更にギャラリーとして王様と第一王子が

 王宮の執務室付きの大型バトルフィールドに集まった。


「ウィル、こうして対峙するのも久々だな」

「そうだね、まだたいして時間も経ってないのに懐かしい気がするよ」


 当然ながら闘うわけではない、今回は<光響>デッキの強化とカード贈与の為の説明

 に来ているのだ。


「ウィル、多分お前はこう思ってると思う、他のカードに比べて<光響聖騎士ハルモニア>は弱くないか?とな」

「…」

 光響聖騎士ハルモニア 3/4000/5000

 <光響>と名の付くコスト3のユニット+コスト3のユニット


 OU:このカードが戦闘する時に発動できる

 戦闘中のみアタックを+5000する

 相手ターンの終わりまでタフネスへのダメージを一度だけ0にする


 <運命狂恫態ガベルザード>、<天下三槍>、<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>

 このあたりと比べれば明らかに<光響聖騎士ハルモニア>は弱い。3コスト追加で9000まで殺せるのは強いは強いがタフネスが低すぎる。


「だがこの弱さには理由がある、とりあえず俺が今から自分のデッキで<光響聖騎士ハルモニア>を呼ぶから、適当なユニットを出してくれ」

「わかった」


 俺とウィルはターンを進め、準備する。

「ではまず<光響聖騎士ハルモニア>で<光響軍曹ガトラ>を攻撃する」

 <光響聖騎士ハルモニア>が<光響軍曹ガトラ>を手に持った両手剣で両断し、破壊する、その瞬間に<光響聖騎士ハルモニア>が急に光に包まれ、騎士風のフォルムだったその姿は更にいかつく重装甲になり、手に持つ両手剣は更に大きく、長くなっている。


「これが<光響聖騎士ハルモニア>の真の力だ」

 光響重装騎士ハルモニアD 3/6000/11000

 <光響>と名の付くコスト5のユニット+コスト5のユニット

 このカードは<光響重装騎士ハルモニアD>以外の<騎士ハルモニア>と名の付くカードにどちらかの条件を満たした時に重ねて場に出しても良い。

 この効果は1ターンに一度しか使えない。

 条件① <騎士ハルモニア>と名の付くカードの下に重ねてあるカードを2枚セメタリーへ送る

 条件② <騎士ハルモニア>と名の付くカードがユニットを破壊した時


 OU3: このカードに対するダメージが一度だけ0になる。0にしたダメージの数値の半分をこのカードの攻撃力に追加する。

 この効果は1ターンに一度しか使えない。


 このカードが破壊効果で場から離れる時、変わりにこのカードの下にあるカードを3枚セメタリーに送っても良い

 そうした場合、破壊は無効化される


 これこそが<光響>、というよりはハルモニアの強み、重ね出しである。

 ハルモニアからシチュエーションにより全く違ったハルモニアに分岐強化して戦闘を有利に進める。

 <光響聖騎士ハルモニア>単体のパンチの弱さはスタート地点でしかないからこそのもの。

 シーズン11で環境入りをしたのも新たな分岐形態とサポートカードが追加されたおかげだ。

 ちなみにアニメで主役だった時に追加された形態は全てまあ…とかうん…とか呼べれば強いけど…という評価である、推して知るべし。


「なるほど…こういう事だったのか…」


 俺の話にウィルもクレアもキャニスさんも驚いている。


「とりあえずどんな姿のハルモニアがあるかまず見てもらい、その後実際にカードを渡して特訓する。今日1日で一通り全部教えるつもりだからな、急いでやるぞ」


 シーズン11で環境に入ったとはいえ、ハルモニアデッキには明確な弱点もある、そこらへんのケアもしないとダメだからな。








 国内選抜大会。

 開会から閉幕までの約2週間、参加貴族は闘いに明け暮れる。

 当然ながら貴族が一堂に会する中々ない機会だ、開会式の1週間ぐらい前に王都入りし、情報収集や交流に勤しむのは貴族の嗜みである。

 そんな貴族の間で踊ってる噂が1つある、王家が国竜ミラエルの召喚に成功した、というものだ。

 だが殆どの貴族は一笑に付した、国竜ミラエルの召喚の噂は何年かおきに出ては消える風物詩のようなものだからだ。


 だが、いつもと違う違和感を感じ取った勘の鋭い貴族もいる、普段はあるはずのセレクター家やハルモニア家主導の晩餐会が今回は開催されなかったからだ。

 ここ数年新たな関係の開拓に必死だった落ち目のタケハヤ家も姿を見せていない。


「なんともまあ、落ち着かんですな」


 そう言ったのはギハル家家長のネール=ギハル、<地底戦士の長ギハル>の剣を家紋とした中堅の召喚貴族である。


「というと?」


 参加者の貴族が問いかける。



「ファドラッサが夜会をしないのはまあ、分かる、あそこはお家騒動が終結したばかりだ、対抗戦に参加できたのがそもそも奇跡というもの。しかしハルモニアやセレクターも夜会をやらんというのは不可解だ、あそこは表立ってこそではないが敵対状態で、互いのシンパを固定する為にも毎回やっていたハズなのだが」

「和解が成立したのかもしれませんな」

「それならば合同で開催しておるよ。片方どちらかがやるわけでもなく、両方やらぬというのはどうにもきな臭い」


 過去この時期になるとハルモニア家とセレクター家はお互いに見知った北部貴族やその他の地域の貴族に手紙を競って出し、集まった貴族家の数で密かにマウントを取り合うというような張り合いをしていたのだ、一応北部派閥に属するギハル家はどちらとも付かず離れず、交互に夜会に顔を出し中立の立場に立っていた。


「そのファドラッサのお家騒動にも王家が絡んでいるとか」

「一方的な肩入れをしたのであれば処分されておろうが、そうでないのであればうまくやったのだろうな、カスミ王女様は」


 ファドラッサ家のお家騒動は事情が事情だけに貴族の間ではあっという間に話が広がり、既知の出来事として扱われている。

 御用商が解任されたことも、長男とそれに賛同した家臣が処刑されたことも。


「しかしまあ、そういう話を聞いていると今巷で流れている国竜ミラエルの召喚成功の話も本当なのではないかという気になってきますな」

「それこそいつもの話であろうよ、ハハハ」


 王家の夜は更けていく。

 今回集まったテンマに係わる者達以外の人間は当日、度肝を抜かれる事となる。









 大会当日、会場となった王立公園には貴族とその従者と関係者が臨時で作られた客席に座り大混雑の様相を呈していた。


「うう…」


 天馬は控室で1人緊張していた。外の喧騒が石造りの建物内にも聞こえる、それほどの大観衆に視線を向けられるのだ。

 緊張するなというのが難しい話である。


「落ち着け。君は今回喋る必要はない、出ていったら歩いて手を振って王と客席に一礼し、父の言葉を待って戻る、それで良いのだ…というのも難しいか」


 第一王子カーネルは励ましつつも天馬に理解を示す。


「このようなことには縁遠い生活をしていたものですからね」

「それは誰でもわかるから心配するな」


 ずばりと言い切られ、微妙な顔になる天馬。


「ともあれ、お膳立ては父と私でやる、君は笑顔で手を触れば良い。気張れよ」


 そう言いカーネルは会場へ向かった。








「ミラエル王国にいつも忠義を尽してくれている貴族の皆よ、今年もよく集まってくれた」

 大きな野外ステージにミラエル王国国王ガンデラの声が響く。


「開会宣言…と行きたい所では有るが、まず皆に話しておかねばならぬ事がある」


 会場にどよめきが起こる。

 ここで観客席にいた貴族の大部分は王位継承の話か、と思案した。

 第一王子カーネルも横に控えていたからである。

 開会宣言を行うのは王の権利、それを息子に譲る事で王位継承を確かなものにするのだと誰もが思い、王の次の言葉を待つ。


「我ら王国の研究部と協力者の共同研究により、ついに<緋紋機竜ミラエル>の召喚に成功したのだ!」


 群衆の想定とはかけ離れたこの国王の言葉により、会場は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。


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