第18話 セレクター領

今回少し短めです。

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 4日間限界まで楽しみ(俺の素顔見られるわけにはいかなかったから外ではあんまり遊べなかったけど)

 2人に見送られ馬車に揺られる。


「次はセレクター領って所だっけ?」

「そうなんだけどちょっと問題があってね、カスミ王女が付いてくる最大の理由でもあるんだけど」


 ん?なんだ?


「すっごい仲悪いんだよね、うちと」


 ウィルが苦笑しながら答える。


「直接的な原因は祖父母の代に起こったことで、世代が2つ進んだしもうそろそろなんとかしないとなって思っててさ。それで今回のテンマの一件が丁度いいかなと」

「私は立会人みたいなものだから期待しないでね」

「なんか俺いいように使われない?」

「否定はしないかな、ただこの行動が回り回ってテンマの立場を補強することになるのは間違いないよ」

「そういうことならまあ…」


 釈然としないが、自分の立場を考えるとコネは多いほうが良いなというのはわかるのでこの場は黙る。


「セレクター家って事は<運命の女神セレクター>だよな」

「そう、その呪文の伝授もお願いしたいんだよね、あとできればカード提供も」


 <運命の女神セレクター>を要する<運命>デッキは[選定]という共通効果を使用して戦う。

[選定]は2つか3つの効果の中から1つを選んで発動する効果だ。

 ただこの2つか3つの効果から1つを選んで発動する効果というのは、<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>や他のカードでもよく見る。

 これは早期にカテゴリ化されてしまった事の弊害で、あまりにもカードを作るのに便利過ぎて後年他のカードにも搭載せざるを得なくなってしまったのだ。

 それをなんとかするために定期的にテコ入れされ、環境に入ったり入らなかったりを繰り返しているのが<運命>デッキの特徴だ。

 シーズン11でも10で追加されたカードのお陰で環境入りを果たしている。



「こんな事を言うのはアレだけどさ、一応敵対してる家なんだろう」

「そういう一触即発の状態じゃあないんだけど…どっちかと言われれば敵対してるね」

「そんな家にカード回して良いの?」


 ここは率直に気になった部分だ。


「揉めた要因がうちにあるからどうしてもそこは下手に出ないとダメでね、個人的な気持ちとしてはハルモニア家に提供する予定のカードよりも強くしてくれなければいいなと願ってるよ」


 祖父の世代の尻拭いは大変だなあ…。


「あと、セレクター家に関しては王家からテンマ君に関しての説明はされてるから、タケハヤ家みたいな事にはならないと思う。ただ向こうの出方が分からないからちょっと怖いんだけどね…」

「そのあたりはもう行き当たりばったりでいくしかないな、俺もがんばって助け舟出すからさ」



 その後トラブルもなく旅程は進み、予定通りセレクター領に到着した。

 盗賊とか山賊っていないの?と聞いたらまずこの馬車と兵士見たら襲わないらしい。

 そりゃ俺と遭遇した時にあんな対応になるわ。




 セレクター領の首都アヘルム。

 ここは占いが盛んで他領からわざわざ占って貰いに来る人も多いそうだ、大金を払って出張占いをさせる貴族もいるらしい。



「ようこそセレクター領へ、カスミ王女、それにテンマ様。そしてハルモニア家の方々」


 頭に半透明のヴェールをかけた緑髪のロングヘア、右目にモノクルを掛けたそこそこの年齢の女性が門の前に立ち、馬車を出てきた俺たちに頭を下げる。

 ウィル達より貴族でもない俺を前に持ってきたあたり戦闘態勢って感じだ。


「委細伺っております、こちらへどうぞ」











「まずは自己紹介を、セレクター領領主をしておりますネフィと申します、こちらは夫のセクト」

「テンマです、よろしくお願いします」


 バイザーをしたまま頭を下げる、女性の領主なのか。

 夫のセクトさんは言われなければ執事というかボディガードに見える、身長は俺と同じぐらいだが鍛え方が明らかに違うガチガチの体つきをした白髪のロン毛の兄さんだ。

 見るからにネフィさんより若いので姉さん女房って感じっぽい。

 セクトさんが厳しい顔をしてるのに対してネフィさんは常にニコニコしている。


「聞けば<運命の女神セレクター>の召喚方法を伝授して頂けるとか、それが本当ならば神のもたらした僥倖と言う他ありません」

「当然ながらいくつか条件があります、特にハルモニア家とセレクター家の関係改善は王家にとっても重要な事柄ですので」


 カスミ王女が言う。流石王女、よそ行きモードだとキリっとしてる。


「ええ、ええ、それはもう。私どもとしても否がどちらにあったにせよ、もう終わった親世代の話をいつまでも引っ張る気はありませんから」

「そう言って頂けると大変助かります」


 おー怖。ネフィさん微笑みながらすげえ事言うな、ウィルが小さくなってら。


「ですがやはり家臣の中には当時の事を知る者が多くいます。ですから非はハルモニア家にあった、という物語は必須だと考えています」

「それは存じていますがこちらもメンツがありますので…」


 おっと、腹の探り合いが始まった。

 これは長引きそうだな…。


「領主様、よろしいでしょうか?」

「発言を許します」


 先程紹介されたセクトさん、ネフィさんの旦那さんが発言する。


「テンマ様はハルモニア家の食客とはいえ両家の諍いにはまったくの無関係。この御仁のいらっしゃる前で家同士の恥部を晒し合う事はありません、この話は後に関係者のみで行うべきかと」


 なるほど、俺は無関係と。


「…そうですね、では先に<運命の女神セレクター>を…」

「いえ、無関係ではないんです」


 俺はネフィさんの言葉を遮って言った。


「ハルモニア家には多大な恩がありましてね、ここらへんでそれを少しは返しておこうと思いまして」

「…」


 ネフィさんが俺に目で続けろと促す。


「<運命の女神セレクター>の召喚方法に加えて、セレクター家が所有していないであろう<運命>のカードも何枚かお渡ししましょう、正しい運用方法の教育も込みでね。これをもってハルモニア家への負担を軽くしていただきたい」

「…そういう事なのであればこちらも当然考慮しますが、教育とは?」


 当然そこが引っかかるよな。

 俺はジャケットの内側からデッキケースを取り出す。


「俺も持ってるんですよ<運命>デッキ、闘りながら教えましょう」


 ネフィさんから笑顔が消えた。










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