第16話 おっさん増殖とタケハヤ家の今後
俺が<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>で<神風戦士タケハヤ>を攻撃し、相手にターンを回すと、ヤクモさんは2回目の長考に入った。
これで向こうのライフは42000。
10分ほど経っただろうか、ヤクモさんが声をかけてきた
「…一つ貴殿に聞きたい」
「なんでしょうか」
「貴殿はタケハヤを弱いと断じた、その詳しい理由が聞きたい」
「上げればキリはないですが、一番は中型以上のユニットが並ぶバトル後半の勝ち筋が薄すぎる事ですね、これに加えてタケハヤは攻撃力も低く早期決着させるような力もない」
あとAoE(範囲ダメージ)がしょぼいとか色々あるんだけど、一番の問題はこれ。
どの時間帯も決定打がない。
「…」
「身に覚えがあるのではないでしょうか」
ヤクモさんはしばらく考え込んだ後、なにかを押し殺すような声で呟いた。
「私には逃げることは許されない」
「いくら馬鹿にされても旗持ちは最後まで胸を張って旗を振らねばならん」
「それが貴族家を継ぐものの指名だ」
そう言ってカードを出す。
「<秘剣カグツチ>を<神風戦士タケハヤ>に装備させ、<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>を攻撃」
<秘剣カグツチ>6
<神風戦士タケハヤ>の入ったデッキにのみ投入できる
アタックを+7000し、戦闘時にライフに5000のバリアを貼る。
3回戦闘すると破壊される
<秘剣カグツチ>、タケハヤデッキには必要だが使いづらいという悪魔の武器である、コスト6がとにかく重い。
これで相手のライフは39000まで減る。
対面を見ればヤクモさん以上にヤエさんが悲痛な表情になってて、俺の視線に気付くと射殺すような顔で睨んできた、ごめんて…。
「俺のターン、2マナで<羽振りの良い常連客>を召喚し、<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>を強化。<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>の効果で<羽振りの良い常連客>は破壊される」
これで盤面に残ったのは10000/5000に強化された<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>と<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>のみとなる。
「俺は<持ち込まれたねずみ花火>を3マナで発動する」
持ち込まれたねずみ花火 3
フィールドのユニットにランダムで1000ダメージを合計5回与える。
ヤクモさんが膝を付いた、やりたいことが分かったようだ。
ねずみ花火の結果は<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>に1発、<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>に3発、<神風戦士タケハヤ>に1発命中した。
その結果、フィールドにはおっさんが5体並んだ。
もうおわかりだろう、<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>を出す、pingダメージ(1000ダメージずつ合計x回攻撃する事)を撒き散らす、おっさんが増える。
相手は1体でも倒しきれなければ返しのターンでおっさんが増える
ドローでおっさんとpingダメージを引けばまた増える、おっさんが死ねば<酒場>カテゴリなので<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>がほぼ無償で出てくる。
<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>がpingダメージを撒き散らす、おっさんが増える。
これがおっさん増殖である。
「…降伏しますか?」
「言ったはずだ、旗持ちは最後まで胸を張って旗を振らねばならんのだ」
「そうですか」
次のターン、ヤクモさんはマナを使わず<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>をタケハヤで破壊しターンを終えた。
その後俺は2ターンかけておっさんを増やし続け、そのまま<神風戦士タケハヤ>を殴りつけライフを0にした。
「申し訳ありませんでした」
「良い。確かに怒りはしたし憤りも感じたが、誰かに言ってもらわなければならなかった事なのだろう」
試合が終わり、建物内のバトル場横の観戦席でヤクモさんと話す。
ちょっと離れた所にヤエさんやカスミ王女、ウィルやクレアもいる。
「…薄々わかってはいたのだ」
ヤクモさんが切り出す。
「父のデッキを引き継いで他の貴族と戦っても思った。<神風戦士タケハヤ>はあきらかに力不足だ」
「兄さん!」
ヤエさんが叫ぶ。
「いいのだヤエ、事実なのだから。父は継承式の時にしきりにすまん、すまんと謝っていた、俺に対する不甲斐なさからの謝罪かと思っていたが、あれはこのデッキの弱さというのが父も分かっていて、それもあったんだろうと今なら思える」
恐らく、この10年あまりで<神風戦士タケハヤ>はデッキの内容が割れて対策されてしまったんだろう。
カードプールが狭くカードが貴重なこの世界においてはメタは貼られにくいが、逆に一度貼られると逆転が容易ではないのだ。
<神風戦士タケハヤ>デッキは対策が簡単なのも嫌な方向に転がった。
「しかし、私はタケハヤ家当主だ、弱いからといって<神風戦士タケハヤ>を使わないという訳にはいかないのだ」
「まさにそれを解決する為に俺がここに来たのですよ、タケハヤ家当主ヤクモ様」
ヤクモさんが何いってんだこいつという顔でこっちを見る。
ここしかない、俺は勇気を出し、深呼吸した後に言った。
「無理難題を言っているのは承知です。3分だけでいい、デッキを俺に預けて貰えませんか」
「貴方は何を!調子に乗るのもいい加減に…」
「やめろ、ヤエ」
すごい速度で俺の横に来て肩を掴んできたヤエさんをヤクモさんが制止する。
「…見てなにか変わるものでもないだろうに…」
「変わります、変えてみせますよ」
「…」
ヤエさんは凄まじい形相で今にも俺に掴みかかりそうだ、それを必死になだめるカスミ王女と制止するヤクモさん。
やがて観念したヤクモさんが俺にデッキを渡してきた。
「兄さん…」
ヤエさんは泣きそうになっている。
ほんとごめん、もうちょっと待ってくれ…。
デッキを受け取りざざっとカードを眺める。
うん、良いデッキだ。
<神風戦士タケハヤ>を使うのならばほぼ最適解だろう、<神風戦士タケハヤ>を使うのであれば。
俺はそのデッキからカードを14枚抜いて、抜いたカードをヤエさんに手渡す。
ヤエさんもヤクモさんもあっけに取られている
特に渡されたヤエさんは泣きそうな顔から一変、頭にハテナマークが浮かんでいる。
そりゃそうだ、その中に<神風戦士タケハヤ>が混じってるからな
俺はジャケットの内ポケットからデッキを取り出し、その中からカードを同じく14枚抜いて
その抜いたカードをヤクモさんのデッキに投入する。
本来なら30枚ぐらい変えたい所だけどこれぐらいでいいだろう。
「これ、使ってください」
「今のは何だ!貴殿は…何が」
「うちの家の食客だよ」
ウィルが笑いながら言う。
「とりあえず、そのデッキでバトルブースに立ってみてください、すぐ分かりますよ」
ヤクモさんは首をかしげながら、よくわからないといった顔で再度バトルブースに立つ
俺も対面に行き、バトルが始まった瞬間、俺以外の全員が声を出して驚いた。
タケハヤが出現した瞬間鎧が割れ、中から銀髪で露出度の高い巨乳の女侍が出てきたのだ。
<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>0/3000/0
ヒーローユニット
このカードは絶対にフィールドから離れない。
このカードは<神風戦士タケハヤ>としても扱う。
2ターン経過する毎にアタックが1000上昇する
最大値は8000となる
カテゴリに<神風戦士タケハヤ>のない魔法カードのマナコストが1増える
1ターンに一度、以下の効果から選んで2つ使用することができる
同じものを2つ選ぶことはできない。
1.<原初の暴風>カードをセメタリーまたはデッキから1枚選んで手札に加える
このターンこのカードは攻撃することができない。
2.<秘剣カグツチ>または<秘剣オロチ>カードをセメタリーまたはデッキから
1枚選んで手札に加える そのカードのマナコストを2下げる
3.<宝具>と名の付くカードをデッキから選んで手札に加え、更にそのカードのマ
ナコストを2下げる
4.セメタリーにある<宝具>と名の付くユニットを2枚までデッキの一番下に送る。
ヒーロースキル3
相手ユニットに4000ダメージを与え、ライフを3000回復する
この効果で相手を破壊した時、マナが1回復し、ライフ回復量が6000になる
結局のところ、<神風戦士タケハヤ>に限らずヒーローユニットはシーズン9までどう頑張っても、何をやっても弱かった。
タケハヤ以降のカード自体もコケてストレージの常連、タケハヤ以降3つほど出た構築済みデッキは福袋の常連。
もうカテゴリそのものがどうしようもないと思われてた。
だがヒーローユニットはシーズン9で弾けた、開発とアニメ制作陣が一丸となって本気を出したのだ。
シーズン9のアニメに<神風戦士タケハヤ>がレギュラー出演すると決まった時は誰もが笑った、お前なの!?とか他いただろ!とか散々な言われようだった。
だが2クール目開始直後のお風呂回で突如女性なのが判明し人気爆発、その上で発売された構築済みデッキが激強だった為長い間プレミアが付き転売が問題になるほどで、性能のついでに乳も盛ったのが勝因だった。
そしてこのタケハヤノミコトの強さの3割ぐらいを占めているのが、<原初の暴風>だ。
<原初の暴風>5
ワースカード
このカードは<神風戦士タケハヤ>の入っているデッキにのみ入れる事ができる
相手ユニット1体の特殊能力を消去し、30000ダメージを与える
ヒーローユニットに対する効果は10000ダメージのみとなる
このカードの効果でユニットが破壊された時、<原初の暴風>がもう一度発動する。
このカードはゲーム中1回しか発動することができない
ワースカードはデッキに1枚しか入れられないが非常に凶悪な性能のカードである。
<原初の暴風>は1バトルに1回しか使えない制約はあるがその効果はオバケとしか言いようがない。
何を並べようが基本5マナで場がリセットされるのだ。
その上特殊効果が消されるので破壊効果も使えないし魔法無効も意味がない。
これが俺の解決方法だ、<神風戦士タケハヤ>でなければならないのであれば<覚醒せし美麗なる神風戦士タケハヤノミコト>を使えば良い。
ただ、お土産物等の地域経済に影響がある可能性が高いため少なくとも領主には納得して使って貰わなければならなかったのだ。
「これが解決策だ、タケハヤでなければならないのであればこれで良いと思うんだが、どうかな?」
俺が胸を張って答える。
しかしヤクモさんは答えない、タケハヤノミコトを見つめたまま動かない。
あれ?ダメだったか?勢いで行けたと思ったんだが…。
そして暫く見つめたままのヤクモさんを見ていると、口の端から
「美しい…」
という言葉が溢れた。
これ多分いけるわ。
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タケハヤはもともと男性声優が声を加工して声を当てていましたが、
鎧が割れた瞬間に女性声優になったので露骨なテコ入れとして否定的な人もいました。
ですがそのような声は乳の前にかき消されました。
よろしければ評価・感想など頂ければと思います。
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