第15話 タケハヤの欠点
4ターン目、ヤクモさんは長考に入った。
7000/3000まで育った<穴掘りトロール>をどう処理するかを考えているのだろう。
これが<神風戦士タケハヤ>、というよりはヒーローユニット全てに通じる欠点、
敵ユニットを処理するのに自分のライフを削らないといけない点である。
このゲームにおけるライフは自分を守る盾であり、一概に気にしなければいけないのは相手のリーサル(一撃で死ぬかどうか)圏内に入ってるかそうでないかの二択で判断するのが一般的だ、この世界ではどうかわからんけど。
ただヒーローユニットは違う、全てをヒーローユニットで処理するためライフをコストとして常に支払う。
つまり相手のユニットの処理する度にライフを捧げなければならないのだ。
敵の数、使用ライフ、相手のライフを削る。計算しなければいけない点が増えるということはそれだけプレイの負担となる。
この点からヒーローユニットは何種類か出たが総じて運用が難しくなっていた、そう、いた。
シーズン9以降のヒーローユニットはその欠点がほぼないものになっているからだ。
そんなことを考えているとヤクモさんが行動に入った。
「ヒーロースキルを使用し、ライフを5000回復、その後<穴掘りトロール>に攻撃」
トロールが破壊されたが、これで相手のライフは50000。
「俺のターン、2マナで<酒場のガードマン>を召喚し終了」
酒場のガードマン 2/2000/4000
[盾持ち]
マナ封印1
このカードがフィールドに出る前にマナが封印されている場合、タフネス+2000
マナ封印デッキ、通称おじさん増殖は所謂コントロールデッキで、4~6マナ帯の動きがどうしても弱くなる欠点があり、これが環境下位に甘んじている理由でもある。
そのためこの時間帯はひたすら時間稼ぎに徹する、<酒場の常連客>も今は動かさない。
「…このターンで<神風戦士タケハヤ>の攻撃力は4000となる、私は<宝具オオナムチ>を召喚する」
宝具オオナムチ4/1000/3000
このカードは<神風戦士タケハヤ>の入っているデッキにのみ入れる事ができる
[盾持ち]
このカードは攻撃できない
このカードがフィールドにある限り、<神風戦士タケハヤ>の受けるダメージは2000軽減される
「<神風戦士タケハヤ>で酒場のガードマンを攻撃」
<酒場のガードマン>のタフネスが2000となり、向こうのライフは変わらず。
「俺のターン、カードをドローする」
ドローしたカードを見て密かにニヤ付く、キーカードが揃ったからだ。
「<神風戦士タケハヤ>は弱い、か…」
ウィルは観戦しながらそう呟く。
今必死になって戦っているヤクモを自分と重ねる。
<光響聖騎士ハルモニア>が呼べた事は確かにハルモニア家にとっては喜ばしい事だった、だがそれと同時にこうも思っていた。
このカード、そんなに強くないんじゃないか?と。
卓上研究として、実際のバトルではなく、厚紙で作った模造品を使って擬似的に
デッキを作って仮想敵を相手にデッキを回す、という事はこの世界でも誰もがやることだ。
ウィルも当然嫡子の責務としてそれをやっている、<光響聖騎士ハルモニア>を追加した上でだ。
確かにデッキは強くなった、だがその強さは結構強くなったという程度で、共和国との勝負に勝てるかというとかなり疑問がある、というのがウィルの出した結論だった。
こうなると人間期待してしまうのは他の<光響>カードも提供してくれると言っていたテンマの事だ、先日見せて貰ったカードは明らかにカードパワーが逸脱していた。
しかし、ハルモニア家はクレアの提言により今はまだあえて要求してない。
クレア曰く
私がテンマ様とより深い仲になってからのほうが沢山提供して貰えるでしょう?
親類となるのですから。
との事だ。うちの妹は父親似だな、とウィルは思い苦笑する。
そしてそんな事を考えているとふと1つの懸念が思い浮かぶ。
テンマはこのタケハヤ家にカードを何枚提供するつもりだ?ということだ。
カードの値段は高い、というか金で解決できるのであればそれは安い。
時に召喚貴族はカード1枚の為に採掘権・関税権・果ては自分の子供まで切り売りする。
カードの売却の条件として貴族が豪商に娘を嫁がせる、なんて話も稀にだがある。
カードと交換ではない、売ってもらう権利を得るために娘を差し出すのだ。
貴族側もメンツがあるので、嫁入りし縁を持った記念に特別に譲り受け、お礼に金を渡した、というストーリーにしたいのだ。
テンマの持つカードはとんでもない性能だ、そのようなカードを複数枚渡された時タケハヤ家は貴族としてどう対応するのだろうか?
そこまで考えて対面のヤクモの後ろで控えるタケハヤ家次女のヤエに目が行き、父親が言っていた縛る鎖のことを思い出す。
そして天馬に視線を戻し、心のなかで謝るのであった。
「俺はこのターン、<酒場の大乱闘>を発動する」
酒場の大乱闘 4
マナ封印3
フィールドにいる全ユニットを戦わせ、ランダムでユニットを1体残す
「何だと!?正気か!?」
ヤクモさんがカードの効果を見て叫ぶ。
このカードはテキストには含まれていないが、フィールドを離れないカードが混在する場合はそのカードが強制的に勝利する、そうなればカードで残るのはスサノオだ。向こうの<宝具オオナムチ>も破壊されたがどう考えても自爆としか見えないだろう。だが当然、理由なくそんな事をするわけがない。
「俺は手札から<酒場のケツ持ち ドゥーラーバン>を召喚」
酒場のケツ持ち ドゥーラーバン 7/5000/10000
このカードは、このターン中に破壊された <酒場>と名の付くモンスター1体につきマナコストが3軽減される
このカードがフィールドに出た時、自分以外のランダムなユニットに1000ダメージを3回与える
お互いのターンの最初に召喚されたユニットに対し 1000ダメージを与える
<酒場>が入ったデッキには間違いなく入る強力な踏み倒しユニット、それがドゥーラーバンだ。
1度でも軽減されればかなり優秀なスタッツで場に出てくる、自分が攻撃して死んだ後もう1体ドゥーラーバンを召喚するのも強い動きだ。
これはマナ封印全般に言えるが、ジョイント召喚やダブル召喚とはかなり相性が悪いためマナ封印を利用するデッキには投入しないのが基本となっている。
1マナで召喚されたドゥーラーバンの銃撃が<神風戦士タケハヤ>に3発命中する。
こういった対ユニットのみのダメージがライフに直撃するのもヒーローユニットの欠点の1つだ。
これで向こうのライフは47000。
ヤクモさんにターンが移ったがまたも長考3分ほど考えて向こうも行動に移す。
「…<宝具ウカノミタマ>を5マナで召喚する」
宝具ウカノミタマ 5 2000/4000
このカードは<神風戦士タケハヤ>の入っているデッキにのみ入れる事ができる
<神風戦士タケハヤ>が攻撃の行う際にダメージを食らった時、そのダメージは<宝具ウカノミタマ>が受ける。
このカードが破壊された時、セメタリーではなくデッキに戻す。
その後デッキをシャッフルする。
この瞬間、ドゥーラーバンの攻撃により<宝具ウカノミタマ>のタフネスは3000となる。
「<神風戦士タケハヤ>でプレイヤーを攻撃」
痛い。人の目が無けりゃうずまくってるよこれ。
これ体鍛えないとダメだな、これでライフは42000まで減らされた。
でもいい、この先3ターン以内に心を折る。
「俺はマナコストを7軽減して<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>を召喚する」
<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>10/8000/4000
このカードはこのゲームで発生で発生したマナ封印コストの分だけ
マナコストが軽減される。軽減されるマナコストの最大は7
このカードがダメージを受けて破壊されなかった時、このカードは<酒場のやっかいな傭兵団 ピグレー団>を召喚する。
これこそが酒場デッキのエース、ピグレー団だ。
スタッツは劣悪、コスト10でアタック8000は物足りないしタフネス4000は4コストや3コストの魔法やユニットでいとも簡単に討ち取られる、だが最大の特徴はマナ封印回数による踏み倒しとダメージを受けた場合増殖する所だ。
そしてピグレー団のグラフィックは全員中年男性である。もうおわかりだろう。
このおっさんを大増殖させて場を制圧するのがおっさん増殖というデッキだ。
ちなみにドゥーラーバンもおっさんだ。
このカードが出た瞬間、おっさんがおっさんを殴っておっさんが増えておっさんが3人になった。
当然この世界ではこのようなある種犯罪のような動きは見たことがないだろう。
ちらりと後ろを見れば3人共口あけたまま固まってるし、対面のヤクモさんとヤエさんの顔は真っ青だ。
でもな、おっさん増殖の強さはここからなんだ。
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みんなぁ!集まれ~!
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