第13話 タケハヤ領
謁見から3日後、俺たちは馬車に揺られていた。
旅程は至って順調、両隣にカスミ王女とクレアが座っていることを除けばだが。
対面のウィルはニヤニヤしている、ニコニコではない、ニヤニヤだ。
「何度目かの質問ですが何故両隣にいらっしゃるのでしょうか…」
俺が左右を見ながら呟く。
「何度目かの返答だけど別にいいじゃなーい」
「そうですよ、いいじゃないですか」
何度目かのやり取り。
「それに別に嫌じゃないでしょ?私達2人客観的に見ても可愛いし!」
王女がそう言う、いやそうなんだよ、2人ともめちゃくちゃかわいいから凄い嬉しい、嬉しいんだけどさ…。
ウィルはひたすらニヤニヤしている、こいつ…。
「お、おふたりとも婚約者がおられるのですしあまりベタベタしないほうがよいのでは」
「んー、そこは大丈夫だと思うよ?対外的にはちゃんと自重するし」
「ですね、まだ婚前ですから人前では最低限の節度は持ちませんと」
ダメだ無敵だこの人、大人しく従っておこう。
あとなんかイマイチ会話が噛み合ってない気がする…。
「ああ、そういえば」
ウィルが思いついたように口を開く。
「行き先の詳しい説明をしてなかったね、今向かっているのはタケハヤ領。ここまでは説明してるんだけどタケハヤ領は王妃様、つまりカスミ王女殿下のお母君の生家なんだ」
「ごめんねテンマくん、ママが実家の戦績悪いの気にしててさあ」
王女が手を合わせてごめんねのポーズを取る、かわいい。
召喚貴族のヒエラルキーは領地の広さではなく勝率で決まるらしい、いくら金を持っていてもカードラプトが弱ければ成金と蔑まれるし、過去に勝率が良くても低迷が続けば過去の遺物と笑われる。
あまりにも長期間負けが込むと王家から転封もあり得る為召喚貴族と認定された家はどこも必死なんだそうだ。
聞けばタケハヤ家は後者で、国家対抗戦で負けが続き、最近は国内でも成績が振るわないという。
王妃の生家ということで転封はまずないが、それが逆に批判を生み居心地がよろしくないとか。
「いとこが一昨年にデッキ継承したんだけど負けが続いてて本人も気を落としててさ、アドバイスとできればカード提供をお願いしたいなーと思って」
「もともとカードに関してはお渡しするつもりでしたので大丈夫ですよ、あとタケハヤって<
「そうそう、うちの国だと数少ない家名持ちカードを召喚できる家なのもあって、ママの事抜きにしても勝ってもらわないと困るのよね…」
<神風戦士タケハヤ>はヒーローユニットというかなり特殊なカードで、それをデッキに入れる段階で通常ユニットをデッキ投入不可、サポートデッキ使用不可となる
厳しい縛りがある。
その変わりにヒーローユニットが最初から場に出た状態でゲームが始まり、先行を絶対に取る事ができ、1ターン目から敵を攻撃する事が可能で、更に初期ライフが60000に増加する。
ヒーローユニット一体と、サポートユニットと呼ばれる限定的なユニットと魔法のみでデッキを組み、ほぼ単独で敵を撃破していく、というかなり実験的なデッキだ。
このデッキが発表されたのはシーズン5の中盤であったが、開発が難航し結局発売がシーズン6まで伸びた事でも話題になった、発売してからもひと悶着あったがここでは割愛しておく。
しかし、タケハヤか…タケハヤかあ…。
どうしようかな…。
翌日昼過ぎにタケハヤ領の領都に到着、キクノハと言うらしい。
王都やハルモニア領とはうってかわってやや和風というか、木の建築物が多い印象だ。
そして俺は窓から外を眺め愕然とした。
「タケハヤまんじゅう、タケハヤ木彫り人形、タケハヤ根付…凄いな」
車窓から眺めるといたるところに土産屋があり、タケハヤに関するものが売られている。
それは日本の商店街の町おこしのようで無性に懐かしくなる、帰りてえなあ…まだこっち来て1週間かそこらぐらいなのにもう半年ぐらい経過してる気がするよ。
「タケハヤは人気があるからね、うちもハルモニアを発表した暁にはこういうの作ろうと思ってるけど」
タケハヤは全身甲冑でフルフェイスの甲冑を纏った武士という感じで非常にいかつい
現実でもかなり人気がありハルモニアと同じくフィギュアも多数出ていた。
そしてこの現地の状況である、俺はカードとしてのタケハヤを取り巻いてる現実を相手にどう伝えるか到着までずっと悩む事になったのだった。
タケハヤ家門前に到着、外に出ると門のほうから声が聞こえてきた。
「カスミ、久しぶりだな。それにウィル殿にクレア殿もお変わりないようで」
「ヤクモ兄おひさー!またでっかくなったんじゃない?」
でかい。
ヤクモと呼ばれた男の第一印象はそれだった、黒髪のツーブロックで恐らく190cm強の体躯にその身長を支える確かな筋肉、所謂格闘家のようなフォルムで顔もいかつい。
そのヤクモが俺の方に視線を向ける
「失礼だが、そちらの方は?」
「おっと、紹介が遅れた、我がハルモニア家の食客でありカードラプト
俺を紹介してくれたウィルに続く。
俺は現時点ではハルモニア家食客兼国公認のアドバイザーという立ち位置になっている。
「ご紹介頂きましたアドバイザーのテンマと申します、本日は国王ガンデラ様とハルモニア領主キャニス様の要請により馳せ参じました。以後お見知りおきを」
俺は一礼しつつあいさつをする、当然ながら向こうは不信感バリバリだ。
黒い外套にバイザー、デッキで不自然に膨らんだジャケット、更に片手には謎の金属のケース、警戒しないほうがおかしい。
「…連絡は既に受けている、大方王ではなく姉の意向だろう。立って話す内容でもあるまい、ついてきてくれ」
「まずは自己紹介とさせてもらう、タケハヤ領の領主であり家長のヤクモだ、よろしく頼む」
タケハヤ家応接室にて、その言葉を皮切りに会議が始まる、こっからは俺の出番だ。
「ヤクモ様、よろしくお願いします。まずは現状の認識からさせていただきたい、気を悪くさせるかもしれませんが…」
「気にせずとも良い、全て事実だ」
そう言ってヤクモは資料を渡してきた、それは直近10年の勝敗表で、なるほど確かに最近は負けが込んでいる、ここ4年は勝率3割といったところだろうか、特に国家対抗戦では全敗とかなり苦しい結果だ。
国家対抗戦は4年に一度行われ、両国の王同士の対戦と、それに加えてそれぞれ7人の代表者が闘い、勝った数により緩衝地域の独占使用権や採掘権。漁業権などを得られるとの事。
ミラエル王国はここ10年グラトニゼーラ共和国に負け続けで勝率は4割を切っている。
特に前回はひどく勝ったのはヘルオード家という所のみという状況だ。
「…父は負け続けの責任を寄り子や王宮の官僚から追求され隠居させられた、姉が擁護に回ったがダメだった。俺はまだ継いで2年だから多目に見られている、だが1年先2年先はどうなるかわからん。継ぐ前からタケハヤに使えそうなカードを八方手を尽くして探したが具体的に見つかってはいない、正直八方塞がり状態なのだ、打開策があるのであれば是非ご教授願いたい」
ヤクモは立ち上がり頭を下げる。
カスミ王女も縋るような目でこちらを見ている。
「荒療治になりますがよろしいですか?」
俺は確認するように告げる。
「覚悟の上だ」
「わかりました、では言わせて頂きます」
深呼吸し、バイザーの下で表情を出さぬよう、声にも表情を載せぬように慎重に宣言した。
「<神風戦士タケハヤ>はどうしようもなく弱いのです、使い物になりません」
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