第4話 観測

 レイは男の子を銀河ラボの中心にあるらせん階段に案内した。階段をぐるぐる登っている途中、男の子は、たくさんの本や光る瓶が整列して並んでいる部屋を見つけた。



「ねえ、レイ。あの光る瓶はなにが入っているの?」 


「星花や星草だよ。散歩の途中で見つけて、保存しておくんだ」


「あんなにいっぱい! 散歩は毎日行くの?」


「いいや、ぼくは気が向いたら散歩に行くよ」


 レイは観測所である、屋上へ続く扉に手をかけながら、振り返って言った。


「あのたくさんの本や瓶は、銀河ラボの先代の博士、またその先先代たちが集めたものなんだ。さあ、外へ出るよ」


 扉がゆっくり開いていくと同時に、まばゆいばかりの青い光が差し込んできた。


 外へ出ると、目の前いっぱいに青い星が広がっている。


「地球だよ」


 まるで昔からの友人を紹介するように、レイはやさしく微笑んだ。


「こっちにおいで」


 立ち尽くしていた男の子に、レイは手招きする。


 銀河ラボの屋上は、小さな円形で、机と椅子が真ん中に置いてあるだけの、殺風景なところだった。


 レイが男の子を手招きした先には、足のついた長い筒があった。


「これは、望遠鏡。人間も星を観測するのに使っているけれど、ぼくたち銀河に住むものたちが使うのは、もっとよく見える」


 レイに言われるまま、男の子は望遠鏡をのぞきこんだ。

 



 子どもたちが見えた。

 赤い服を着た女の子。

 絵を描いている。

 走っている男の子。

 ボールを蹴って遊んでいる。

 どの子どもたちも、笑っている。




「なにか思い出したかい?」


 レイがたずねると、望遠鏡をのぞきこんだまま、男の子は首を横に振った。


「レイは、いつも人間を見ているの?」

「そうだよ」

「なにを見ているの?」

「人間が生きているところ」

「どうして?」

「とても、楽しそうだから」


 椅子に腰を下ろしながら、レイは言う。


「とても楽しそうなんだ。ほんのわずかな時間しか生きられないのに……なぜだろう。ぼくは長い間、本当に長い間、生きてきたけれど、わからないことばかりなんだ」


 レイが見つめる先の、青い星。


 男の子にはその星に、希望が詰まっているように見えた。キラキラ輝く、心がおどるような希望が。レイの疑問がもし解決できたら、きっと毎日が楽しくなるにちがいない。男の子はそう思った。


「そうだ! 君に名前をつけよう!」


 唐突に立ち上がって、レイは叫んだ。


「グロウ。君の名前は、グロウ」


 青い光を放つ星を背後に、グロウは笑った。


「ぼくの名前は、グロウ」

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