北の国の王との謁見時――その頃刺客達は……
北の国の王とカレン達が面会している時、その王宮の天井裏では、漆黒たちが有事に備えて待機していた。
もちろん、クリスティンの影達も一緒である。
今回、互いの主人から合同で護衛せよと命令が下った為、漆黒たちは素直に命令に従っていた。
のだが……
どうやら素直に従ったのは自分達だけで、相手の護衛達は不服だったらしい。
その証拠に、先程から漆黒たちの部隊に向けられる視線が痛い。
ビシバシと感じる視線には殺気も込められているようで、まるで親の仇のような扱いだ。
彼等にしてみれば、国王直属のエリート集団でもある影達が、何故田舎貴族風情が囲った暗殺集団などと任務を共にしなければならないのかと思っているのだろう。
しかし、どんなに相手が気に入らない相手だろうと任務は任務、プロなら私情を挟まずに対応してくれればいいのにと、漆黒は胸中で溜息を吐くのだった。
そんな事を思っていると、なんと相手から話しかけられたのだった。
「其方が、オーディンス家の影の頭か?」
「……いかにも……それが何か?」
眼光鋭く睨んできていた影の一人が、音も無く漆黒に近づいてきたかと思ったら、そんな事を聞いてきたのだった。
漆黒は、波風立てない様に勤めて静かな声で対応した。
そんな漆黒に、頭領と思しき相手は鋭い眼光を細めてきた。
漆黒の体に、一瞬緊張が走る。
まさか、先日のお礼をここでするわけではあるまいな?と冷や汗が流れたが、どうやら杞憂だったらしい。
相手の男は、厳つい眼光を僅かに柔らかくしながら漆黒に話しかけてきたのであった。
「先の追いかけっこでは、まんまとしてやられましたわ。」
そう言って男は、かかかかかと先程とは雰囲気をがらりと変えて、小さな声で笑ってきたのだった。
あまりの変貌に漆黒は思わず目を見張る。
「失礼、久しぶりに腕の立つ相手に出会えて嬉しくなりましてな。」
そう言って、男は頭を下げてきた。
「私は、この者達の頭領でルードと申す。以後お見知りおきを。」
「いつどこで、敵対するかもわからない相手に名を教えるのはどうかと……。」
あっけらかんと名を明かしてきた相手に、さすがの漆黒も忠言してしまった。
そんな漆黒に、ルードと名乗った男は、また小さな声で豪快に笑い出した。
「いやいや、だからこそです。好敵手と剣を交えた時に名を知っていてもらいたいですからな。」
ルードはそう言うと、もう用は無くなったのか「では」と一言いうと、すっと姿を消してしまったのだった。
「はぁ、主人があれだと部下もあんな感じになるのだろうか……。」
少々脳筋な匂いのする相手に、目を付けられたら厄介だなと、漆黒は周りに聞こえないよう吐息に混ぜて愚痴を零したのであった。
その後、北の国の王との遣り取りで多少冷やりとする場面はあったものの、相変わらずの聖剣の活躍のお陰で、結局”影”たちの出番は回ってこなかった。
「漆黒殿、一本手合わせを!」
「私は、護衛がありますのでこれで……。」
主人の元へ戻ろうとした矢先、ルードが嬉々として話しかけてきたのだが、漆黒は光の速さでこれを躱して逃げたのであった。
”影”達の苦労は続く……
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