第38話
北の王に腰を折り姿勢を低くしていた男は、大きなお腹を張り出しながら背筋を伸ばし、高い位置からカレンを見下ろしてきた。
その視線には明確な怒りが見て取れた。
「あの剣は、小娘如きが好きにして良い代物ではないわ!!」
男がそう叫ぶと、北の王の背後に控えていた側近が、懐から剣を取り出し北の王に襲い掛かってきた。
「な……宰相!どういうつもりだ!?」
側近だった部下に首元にナイフを突きつけられながら、北の王が青褪めた顔で問う。
すると、宰相と呼ばれたお腹の大きな男は、下衆な笑いを見せつけながら答えてきた。
「ふん、貴様なら儂の傀儡として丁度良いと思って王にしてやったのだ。だがもう、お前はいらん!儂が先々代の王の遺志を継ぎ、その剣を我が国に持ち帰り、貴様の代わりに儂が王になってやるわ!くくく、誰にも邪魔はさせん!邪魔する奴は容赦せんぞ!!」
「そんな……私は、お前達が望むから王になったのに……。」
従順な側近だと思っていた男の言葉に、北の国の王は落胆し青褪めた顔で宰相を見上げていた。
そんな北の王を侮蔑するような目で見下ろしながらニヤリと笑うと、宰相は顎をしゃくって部下たちに合図した。
その途端、北の外交官だった者達は一斉に懐から剣を抜き出し、素早い動きでカレン達を取り囲んできた。
「おっと、動くなよ。動くと貴様らの王の命は無いぞ。」
北の国の外交官だった男の一人が、クリスティンに剣を向けながらそう言ってきた。
控えていた影達に、負けるとも劣らない動きを見せた北の国の外交官たちの動きに、彼らもまたこの宰相が用意した刺客だと悟ったクリスティンは、余計な事はするなと目だけで護衛達を制す。
そして、涼しい顔で宰相に話しかけた。
「ほお。では其方は、この剣を奪い返す為に北の王に付いて来たわけだな?」
己の王のように、驚きもせず淡々と質問してくる他国の王の様子に宰相は片眉を上げながら、しかし律義に返答してきた。
「左様、我らの目的はその聖剣の奪還よ。元々は、こちらの物であったのだから、返してもらうのは道理に反しておらんわ。それを、この王ときたら……。」
忌々しそうに自分の主君であった男を睨み付ける宰相を、クリスティンは不愉快そうに眉間に皺を寄せて一瞬見た後、更に続けた。
「では、そちらの北の王は何も知らなかったという事か?」
「ふん、こやつは儂の手足として使う為に利用していたまでよ。貴様らとの交渉に役に立つと思っていたんだが、連れて来るだけ無駄だったわ。」
宰相はそう言うと、北の王を突き飛ばした。
派手に椅子から転げ落ちる北の王。
彼は抵抗する気も失せたのか、力なく項垂れたまま床に身を預けていた。
「ふん、腑抜けが……さて、そろそろ聖剣を返して貰おうか?なに、抵抗しなければ痛い目を見ることはない。」
そう言いながら、宰相はカレンに視線を移してきた。
北の国の側近たちが襲い掛かって来た時、カレンは咄嗟に箱ごと聖剣を胸に抱きかかえていた。
カレンは箱を抱いたまま、宰相を睨み返す。
そんなカレンの抵抗に、宰相は小馬鹿にしたように笑いながら手を差し出してきた。
「さぁ小娘、その剣を儂に寄こせ!」
強者が弱者にするように、宰相は横柄な態度でそう命令してきた。
その宰相の顔をキッと睨み付けながら、カレンは言い返す。
「お断りします!この剣を、貴方達のくだらない野望の為に渡す気は無いわ。」
背筋をピンと伸ばし、まるで誇り高き騎士のように胸を張ってきっぱりと断ってきたカレンに、宰相は一瞬呆けた後、ぶるぶると差し出した手を震わせながら真っ赤な顔で睨み付けてきた。
「おのれ小娘。貴様如きが、儂の……先々代の王の……我が主君の悲願を、くだらないと申すか!?」
貴様だけは許さん!と、宰相は血走った目をかっと見開き唾を飛ばしながら叫ぶと、近くにいた己の部下にカレンを襲うよう命令してきた。
「この娘を見せしめに血祭りにあげろ!儂らに盾突くと、どうなるか思い知らせてやる!!」
宰相の言葉に、側近の一人がカレンに向かって襲い掛かった。
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