第25話
にこにこと笑顔を絶やさず見つめてくる相手に、クリスティンこと国王陛下は内心冷や汗を流していた。
目の前には、フェルディナード侯爵夫妻が笑顔を絶やさずこちらを見ている。
端から見ただけでは、実に和やかに見えることだろう。
だがその背後に、おどろおどろしい黒いものが見えなければの話だが。
特に侯爵夫人の背後には、どす黒い怒りのオーラが見えた。
「……よ、良く来てくれた。」
怒りの理由を十分承知しているクリスティンは、なんとか笑顔で迎える。
そんなクリスティンに、レオナルドがまず挨拶をし、次にカレンが続いた。
恒例の貴族の挨拶は滞りなく済んだのだが、その後に続いた公爵夫人の言葉が、クリスティンに突き刺さってきた。
「国王陛下、今夜はわざわざお招きくださり、ありがとうございます。」
―― 何勝手に招待状、寄越してきてるんだこのヤロー ――
「は、はは、礼には及ばぬ。」
「公爵夫人になれたとはいえ、このような素敵な場所は、世間知らずの私には恐れ多い場所でございますわ。」
―― こんな場所になんか来たくなかったわ、ボケ! ――
「そ、そのような事はないであろう。」
「うふふ、どれもこれも煌びやかで眩し過ぎて、まるで、剣に射抜かれているようでなんだか恐いですわ。あら失礼。」
―― お前が座っている背後の聖剣で突いてやろうか? ――
「そ、そんなにおこら……怯えずとも、ただ楽しんでいってくれればいいのだ。」
「お心遣いありがとうございます、陛下。」
カレンはそう言うと、レオナルドの後ろに一歩下がった。
レオナルドはクリスティンに哀れむような視線を一瞬向けた後、何事も無かったように退室の礼をして去って行った。
二人が去った後、クリスティンはどっと疲れていた。
周りに気づかれないように、そっと体を背凭れに預ける。
小さく嘆息をして、胸中で頭を抱えた。
めちゃくちゃ怒ってるぅぅぅぅぅぅ!
次回の”訪問”で絶対怒られる!もしくは聖剣にお仕置きされるぅぅぅ。
実はクリスティンは、気軽な感じで『夫婦なんだから夜会に呼んでも問題はないだろう』と思って招待しただけだったのだ。
いつも裏方で、剣の様子を窺っているだけのカレンを見ていて不憫に思っていたのだ。
クリスティンの中では、貴族の令嬢はみな夜会に憧れるものだと勝手に思い込んでいた。
カレンもそうであると全く疑っていなかった。
その結果、カレンの不興を買ってしまったようだ。
どうしたらいいんだぁ!と己の浅はかさを呪いながら、脳内で絶叫するクリスティンであった。
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