第23話

「なんなのこれ……。」


カレンは自室のソファに腰掛け、半眼になりながら呆れた声を出していた。

ひと月ほど前、レオナルドとの話し合いに勝利し、社交を回避できたと喜んでいたカレンは、先程届けられた手紙を見て唖然としていた。

それもそのはず、届けられた手紙には夜会への招待状が同封されていたからだ。

カレンは、どういうことだと詳しい内容を聞くべく、レオナルドの帰りを待つのだった。




「これは、どういう事でしょうか?」


にっっっこり、と笑顔で聞いてくる妻の顔が恐い。


レオナルドは帰宅早々、そんな事実に気づかされ一歩後退ってしまった。


「なぜ、私の所に夜会への招待状が来るのでしょうか?」


どうなってるんだおい?と笑顔の仮面の下で圧力をかけてくるカレンに、レオナルドは口元がひくりと引き攣る。


「そ、その説明は、サ、サロンでします。」


レオナルドは憤慨するカレンを、どうにか宥めサロンへと誘導することに成功したのだった。






「ええ……と、今回の招待状は国王直々のもので、しかも夫婦一緒にというのが条件なので……。」


サロンに移動したレオナルドは、開口一番そう説明してきた。

「王命なので仕方なかったんです」と必死で説明する彼の額には汗が滲んでいる。

それを一瞥しながら、カレンは「ううむ」と考え込んだ。


王命ならば仕方がない……仕方がないが何故か釈然としない胸のもやもやに、簡単には首を縦には振れなかった。


「こうなったら次の”訪問”の時に苦情を言わなくちゃね。」


カレンはそう言って腕を組んで鼻息を荒くしていたが、それにレオナルドは申し訳なさそうに言ってきた。


「それが……夜会は”訪問”の前なんだ……。」


その言葉にカレンは絶句する。


してやられた!


我が家の家庭の事情を知っているはずなのに、あの男は!とカレンは胸中で悪態を吐きながら歯軋りする。

こうなったら、招待状を送ってきた相手に直接一言いってやらねば気がすまない。


――覚えてなさいよ~。


気は乗らないが仕方がないと、カレンは夜会に出ることを承諾したのだった。







煌びやかな照明。

煌びやかなドレス。

煌びやかなご馳走。


目が痛いわ……。


先程からしぱしぱする目元を、レースの手袋を嵌めた指先で優しく揉み解す。

今カレン達は、国王主催の『夜会』に参加していた。


――なんだか、今日の夜会は凄く派手ね。


などと暢気に思っていると、隣でエスコートをしているレオナルドが話しかけてきた。


「さすが『建国祭』、どれも素晴らしいですね。」


どこか愉しそうな声音に、そうねぇと相槌を打っていたカレンは、はた、と気づいた。


「え?今日って建国祭なの?」


「そうですけど?」


カレンの声に、レオナルドはきょとんと首を傾げる。

その姿に周りの令嬢が色めき立っていたが、そんな事はどうでもいい。

カレンは、すっかり忘れていた事実に驚いていた。


そういえば来る途中の城下町が、いつもより派手な感じがするなぁと思ったわけだ。


そして、ふと気づく……。


「え、ええ~っと、剣、剣はどうしたんでしたっけ?」


動揺を隠せずレオナルドに尋ねると、彼は驚いた顔でカレンを見ながら答えた。


「え?今朝、城の従者がやってきて、受け取っていったじゃないですか。」


そういえば、そうだった……。


夜会の招待状の事で大分頭に来ていたカレンは、今朝の出来事を怒りのあまり忘れてしまっていたらしい。

しかも、今日が『毎年恒例の国王の我儘で始まった忌まわしき日。』ということも綺麗さっぱり忘れていたようだ。

まあ、いつもは剣を渡すだけ渡して夜会には参加せず、裏でこっそり剣が暴れないか見守っていただけなのだけれど。

そして、ふと思う。


――なんで今回に限って、夜会に招待されたのかしら?


と――。


そう、今まで招待状なんて来なかったのだ。

というか招待状を送らずとも国王との約束の為、カレンは剣を持って王宮に足を運んでくるのだ。

わざわざ招待状なんかを出さずとも良いはずなのに、それが今更何故どういう風の吹き回しなのだろうと考えながら、ちらりと隣の人物に視線をやる。


多分この人も、理由の一つなんじゃないかしら?


と認めたくはない憶測に溜息を吐くのだった。

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