第7話

この一年でだいぶ国王と砕けた会話をするようになった。

本来なら許されないことなのだが、人目を避けて会っているため誰も咎める者はいない。

しかも、畏まった話し方をするなと国王自らの命令なのだ。


「陛下、それ以上言うと許しませんよ。」


そのため多少の無礼は許される。


「ほお、どうするのだ?」


カレンの言葉に国王は片眉を上げると、面白そうに聞き返してきた。

挑発めいたその言葉に、今度はカレンの片眉も上がった。


「そうですね……こちらに訪問するのを三ヶ月に一度にいたしましょうか?」


「な!それは困る!!」


ガタンと行儀悪く立ち上がった王は大げさに慌てた。


「冗談ですよ。」


カレンはくすりと微笑むと、侍女が淹れ直してくれた紅茶を啜る。

カレンの言葉に安堵した国王は、そのまま身を預けるように椅子へと座り直した。


「まったく、予は毎週……いや毎日でも見ていたいのに、そなたはつれないことを言うな。」


国王は頭をくしゃりと掻きながら、言葉とは裏腹にくっくっと可笑しそうに笑った。


「陛下が揶揄うからですよ。」


カレンはムスッとした表情で答える。

珍しく年相応の表情を見せられ、国王は胸中で微笑んだ。


――まったく、こうしておれば可愛いのだがなぁ。


普段全く表情を崩さない年頃の娘に、素直な感想を呟く。

普通にしていれば可愛いのだ、この娘は。

そう気づいたのは、定期的に会う様になってから暫くしてからだった。


最初はガチガチに固まっていた表情が、いつしかふわりと笑うようになったのだ。

それを見てからは、堅苦しい礼儀をしないよう命令した。

そして、こっそりとできるだけ優しく、そして笑いを取るように尽くしてみた。


そうすればする程、彼女はころころと表情を変えてくれるようになった。

そしていつの間にか剣だけでは無く、この娘と会うのが楽しみになっていたのだ。


そう気づいたとき、出会ったばかりの己の発言を呪った。

あんな事を言うのではなかったと後悔した。

あの時は剣欲しさに、そう言ってしまったが今は違う。

気づいた時には後の祭りで、彼女の剣は自分を警戒対象にしていたのだった。


面と向かっての口説き文句は、最後まで紡ぐ前に一掃されてしまい。

一定以上近付けば、すぐさま薙ぎ払われてしまう。


完璧なボディーガードに扮した剣を、たまに恨めしく思う程には、彼女の事を気に入っていたのだった。

そんな中、聞いた結婚報告である。

こちらの心中を知ってか知らずか、彼女は淡々と世間話のように言ってきたのだった。


『縁あって結婚する運びとなりました。』と・・・・・・。


最初、我が耳を疑った。

何かの聞き間違えかと、聞き返してしまったほどだ。

しかし彼女は相変わらずの無表情で、こう言ってきたのだ。


『剣が反応しなかったので。』


と・・・・・・。

なんじゃそりゃ?と思った。

どういうわけだと詰め寄れば、そういう訳だと返されてしまった。

なにがなんだか意味がわからないまま、彼女は結婚してしまったのだ。

そうあっさりと、あっけなく。


だが、諦めたわけではない。

今まで何度も婚約が破棄されてきたのだ、今回はたまたま結婚まで進んでしまったが、この先はどうなるかは、まだわからない。

それに、手などいくらでもあるのだ。

そう胸中で不敵な笑いを浮かべていたら、カレンが急に「そういえば陛下は正妃を娶られないのですか?」と聞いてきた。

そんな彼女に国王陛下は「まだ時期尚早だからな」と返したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る