第5話
ローブの人物が王宮へ入ってから四半時。
豪華なテーブルの上には湯気が昇る豪華な茶器が置かれていた。
テーブルを挟んで目の前の人物――国王陛下は飽きる事無く剣を見ていた。
時折剣の鞘に刻まれているレリーフや宝石を眺めては褒め称えている。
もう見慣れた光景だった。
ローブの人物は慣れた手つきで、陛下付きの侍女が淹れてくれたハーブティーを飲む。
爽やかな香りとコクが広がりほっと息をつく。
「そういえばそなた、結婚生活はどうなのだ?」
突然振られた会話に、ローブの人物は驚いた様子で顔を上げた。
フードの隙間から見える瞳が怪訝そうに国王を見る。
国王は相手の反応を面白そうに眺めながら、ついうっかり口を滑らせてしまった。
「何故あやつと結婚が出来たのか……それならば私とも結婚でき…」
ズド。
国王が言い終わらないうちに目の前で物凄い音が響いた。
驚いて見ると陛下の目の前のテーブルが真っ二つに割れていたのだ。
それはもう綺麗に見事な程すっぱりとだ。
よく見るとテーブルがあった真ん中の部分に、床に深く突き刺さるように剣が埋まっていた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
シンと静まり返る室内。
その沈黙を破ったのはローブの人物だった。
深いため息を吐くと徐に椅子から立ち上がり、床に刺さっていた剣を抜き取る。
「この通り剣は健在です。」
「あ、ああ・・・・・・そのよう、だな。」
「私が、何故あの男と結婚できたのかはわかりません。わかるのは・・・・・・。」
「な、なんだ?」
国王はローブの人物の言葉の続きを恐る恐る促す。
ローブの人物は頭に被っていたフードを取ると、こう続けた。
「わかるのは・・・・・・この剣が何の反応もしなかったということだけです。」
フードの中から出てきたその顔は、カレン・オーディンス・・・・・・いや今はカレン・フェルディナードになったその人であった。
次の日、カレンは何事もなかったように侯爵邸へと帰っていた。
国王陛下の前で、あれほどの事をしたのに何のお咎めもなかったのだ。
それもその筈、陛下とカレンの間では間違ってもカレンに危害は加わらないからだ。
全てはあの剣のおかげ・・・・・・いや、せいであった。
もし仮にあの時陛下が激昂してカレンを捕らえることになった場合。
身の危険を伴うのは陛下の方なのだ。
何故そうなってしまうのかというと全てはあの剣のせいなのである。
あの剣はオーディンス家に伝わる家宝――意志を持った魔法の剣であった。
いわゆる聖剣や魔剣と呼ばれる代物だ。
何故そんな大層なものが、ただの伯爵家であるカレンの家にあるのかというと、そこは謎に包まれていた。
家系図や文献を辿っても、わからなかったのである。
いつの間にかオーディンス家に家宝としてあったのだ。
そしてこの剣、意志があるため実は自由に動ける。
昨夜のようにテーブルを真っ二つにする事など朝飯前だ。
しかも聖剣が動く条件はカレンだった。
この聖剣は己の意志で主人を決める。
しかも不思議なことに何故かオーディンス家の女性ばかりを選ぶのだ。
先代はカレンの祖母だった。
そして祖母がなくなった時、次に選ばれたのがカレンであった。
そして主人であるカレンに関係することが聖剣の動く条件らしい。
らしいというのは、その剣の行動条件がよくわからないからだった。
特に剣が顕著に動くとき。
それはカレンに縁談が舞い込んできたときが多かった。
初めて相手と顔を合わせたその席で相手がカレンに愛を囁いた瞬間それは起こる。
もう目を背けたくなるようなフルスイングで相手をぶっ叩くのだ。
来る者、来る者、剣が千切っては投げ千切っては投げした結果が、カレンが行き遅れになった原因だった。
その余りにも無茶苦茶な行動を起こす剣の存在は、長い間ひっそりと秘密にされてきた。
幸か不幸か相手の縁談希望者も聖剣に叩かれたなど恥ずかしくて言えないのか、剣の存在だけは表に出なかった。
ただカレンにだけ悪評が降りかかる形で噂は流れていった。
そして付いたあだ名が――会って三秒で縁談破棄される曰く付きの伯爵令嬢――だったのだ。
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